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コカイン・カルテルがパラグアイの文師の「楽園」を支配する


ガブリエル・スターガードター、ダニエラ・デサンティスダ(ロイター通信)

プエルト・カサド(パラグアイ)にて

10/08/2023 16:56|更新 10/08/2023 17:34

昨年7月某日未明、麻薬密売撲滅を任務とするパラグアイの警察官(約30人)が、麻薬輸送に使われる5つの滑走路を破壊するため、チャコと呼ばれる広大なジャングル地帯に飛んだ。

同国北部に位置するチャコは近年、アンデス諸国から成長するヨーロッパ市場へ麻薬を持ち出す犯罪者の主要な物流拠点のひとつとなっていた。

ロイター通信は、2022年7月6日に警察が阻止した滑走路の座標を照合した結果、5つのうち4つが統一教会の所有地であることを突き止めた。統一教会は、反体制的な神学を持つ韓国のキリスト教の分派で、2012年に死去した宗教指導者である文鮮明師を教祖とする。

自らを救世主と称し、1954年に教会を設立した文鮮明師は、ラテンアメリカに進出するプロジェクトの一環として約25年前にチャコの土地を購入し、パラグアイ最大の土地所有者のひとりとなった。

評論家からカルトの烙印を押されたこの教会は、集団結婚式を執り行い、世界各地で謎めいたビジネス帝国を維持していることで知られている。

パラグアイの麻薬対策当局の2人は、ロイターにチャコにある11の滑走路の座標を渡した。教会の情報源から提供された文師の所有地を示す地図とこれらの地図を重ね合わせると、そのうちの少なくとも5つが文師の土地にあり、そのうちの4つがその日の標的であることがわかった。

警察は麻薬や航空機を発見出来ず、逮捕者もなかった。しかし、現場に居合わせた2人のパラグアイ政府関係者によれば、滑走路の隣りには最低限の食料、ベッド、無線設備を備えた小屋があることが確認出来たとしている。

数日後、インフラを破壊し、飛行場を使用不能にするため、重機と爆発物を持ったチームが到着した、と当局者の一人は語った。

ロイター通信は、統一教会やそのメンバーと人身売買を直接結びつける証拠も、同国当局によって無法地帯とも評されるチャコのトラックを同団体が実効支配していることも発見していない。

世界基督教統一神霊協会(パラグアイにおける統一教会の正式名称)の弁護士、ミシェル・ビョン氏は声明の中で、同教会はこの土地での違法行為を認識しており、警察と協力していると述べた。彼女は「韓国に本部を置く教会も、そのメンバーも、平和の擁護者です。決して不法行為に関与していません」とも述べている。

チャコでの取り締まりは、国際的なコカイン密売を撲滅しようとする当局の課題の大きさを示している。検察当局によると、パラグアイは領空の監視に問題があり、この地域にはレーダーは無いという。そのため、ギャングたちはボリヴィアやペルーから、見つからずに麻薬を運ぶことが出来てしまうのだ。

彼らは、森の中の小道に過ぎない秘密の滑走路に飛行機を着陸させる。その後、商品は陸路または水路でブラジル、ウルグアイ、アルゼンチンの港に運ばれ、コンテナでヨーロッパに輸送される。この地域で絶大な力を持つのが統一教会である。

文鮮明は1990年代に初めてチャコを訪れ、パラグアイ川で釣りをした。2000年には、それまでアルゼンチンの農業コングロマリットが所有していた約60万ヘクタールを購入した。価格は2200万ドル。広さはマンハッタン島の約10倍だ。

韓国の大富豪が、人跡未踏の隔離された地域を購入したことは、パラグアイでも注目されている。2009年に出版された彼の自伝の中で、文師はチャコの土地購入は「生き物を神が創造したのと同じ無垢な姿で保護する世界的な運動」の一環であると述べている。

彼は、その「忘れられた土地」を楽園にし、信奉者たちの拠点にもしたいという夢を持っていたという。しかし、教会がこの地域の問題に気づくのに時間はかからなかった。

文師の購入以来、小さな町の住民は教会の所有権を激しく争ってきた。文師の死後、彼の親族は教会を3つの対立するグループに分割し、そのうちの2つのグループはチャコの土地の支配権をめぐる裁判沙汰にもなっている。近年では、麻薬密売人がこの地域での存在感を強くしている。

パラグアイの麻薬対策機関セナドとこの事件を担当する検察官によると、7月6日の作戦はミゲル・アンヘル・セルヴィンが率いる密売人に対する捜査の一環だった。彼は麻薬密売と犯罪結社の容疑で2021年に逮捕されている。

捜査は2020年、ヨーロッパへの麻薬の主要な玄関口であるアントワープでベルギー警察が3.4トンのコカインを発見したことに端を発している。麻薬はチャコ産の石炭の中に隠されており、警察はその麻薬の経路をたどって犯人に辿り着くことが出来たのだ。

彼は現在も刑務所で裁判を待っているが、彼の弁護士はセルヴィンは無実を主張している。この事件の主任検事であるエルヴァ・カセレスは、ちょうど1年前の作戦で標的となった滑走路の一部が教会の土地にあったことをロイターに認めた。

彼女は、教会のメンバーが人身売買に関与しているという情報は持っていないと述べた。同教会の弁護士であるビョン氏は、2022年4月に教会がパラグアイ検察当局に土地での違法行為の疑惑を調査するよう要請した文書をロイターに手渡した。

この文書では、2021年5月に教会の土地で449キロのコカインが押収されたことが挙げられており、滑走路についてもコメントされている。

同国で最も経験豊富な麻薬検察官の一人で、先週退官したマルコ・アルカラスは、その資料を受け取り、セナドに送ったことを確認した。

メンバーに対する作戦

この教会と関係があり、麻薬関連犯罪で有罪判決を受けた公人が少なくとも一人いる。2013年から2018年にかけて国会議員を務め、同教会の支部の地域会長を務めていたシンシア・タラゴである。

パラグアイでは、教会は共和国大統領や政治家、最高裁判事と長年にわたって繋がりがある。中には宗教組織の要職に就いている者さえいる。タラゴもその一人だ。2017年、彼女は国際平和議員連盟(IAPP)の会長に任命された。

弁護士のビョン氏は事務局長に就任した。この組織には、教会の利益を擁護しようとする世界中の国会議員が集まっている。

2020年、この国会議員と夫のライムンド・ヴァは、FBIの作戦によって捕まり、マネーロンダリングを自供した。米国の捜査官たちは麻薬の売人に変装し、この政治家に資金洗浄のための金を渡したのだ。

有罪判決を受ける以前は、タラゴはテレビの司会者であり、2008年から2013年までの5年間を除き、同国で75年間政権を維持してきたコロラド党の新進政治家と見られていた。

彼女は国内初の女性大統領になる野望を公然と語っており、2019年に米国で逮捕された際には、アスンシオン市長選への立候補を表明したばかりだった。

タラゴは2016年から教会のイヴェントに出演するようになった。教会独自の資料によると、翌年、彼女はソウルで開催された世界的な集会でスピーカーを務めた。2018年11月、彼女は夫とともにニューヨークに飛び、統一教会が所有するニューヨーカー・ホテルでの別のイヴェントに参加した。

そこで夫妻はFBIの覆面捜査官と会い、麻薬で儲けた資金の洗浄を依頼された。起訴文書によれば、2人はそれを自ら申し出て、「パラグアイではコカインとマリファナがいかに安いか」や、「米国に麻薬を輸入できるネットワークがある」と話したという。

翌年、夫婦が再び渡米した際に逮捕されるまでに、彼らはパラグアイの共犯者ロドリゴ・アルバレンガ・パレデスの助けを借りて、80万ドルのFBI資金を洗浄した。

タラゴとヴァは米国で33カ月の禁固刑を言い渡された。この政治家夫妻は2019年11月から2022年4月まで収監された。ロイター通信はこの2人と連絡が取れていない。ミシェル・ビョン弁護士は、タラゴのIAPP会長としての役割は「名誉的なものでしかない」と述べた。弁護人と文書によると、逮捕後、教会は彼を解任したということである。

タラゴの共犯者は昨年、米国で無許可で送金したとして2年間の執行猶予を言い渡されている。その数カ月後に彼はアスンシオンで逮捕され、2年間で少なくとも17トンのコカインをヨーロッパに輸送したギャングを率いていたとして、ブラジル連邦警察に告発された。

彼はブラジルに引き渡されるのを待つために刑務所にいる。ビョン氏によれば、彼は宗教組織とは一切繋がりはないという。

ボリビアとブラジルに隣接するチャコは、国際的なコカインの密売で重要な役割を果たしている。この地域には飛行機が頻繁に着陸するため、地元の人々は飛行機が照らす夜空がクリスマスツリーのように見えると言っている。

ブラジル、アメリカ、ヨーロッパの当局者によれば、パラグアイを出たコカインの多くはヨーロッパに流れ、ヨーロッパはコカインの最大の消費市場になっているという。

国連の『世界麻薬報告書』によると、西欧と中欧におけるコカインの押収量は2021年に過去最高の315トンに達した。

米国は250トン以上を記録した。ヨーロッパ史上最大のコカイン押収量は、2021年の23トンで、アスンシオン近郊の河川港から押収された。昨年まで米国麻薬取締局(DEA)の南米地域担当局長補佐を務めていたジェームズ・ラヴァティ氏は、ロイター通信に対し、チャコは無法地帯であり、コカイン密売にとって世界で最も重要な地域のひとつであると語った。

楽園でのトラブル

統一教会がチャコで抱える問題は、その土地での密売疑惑だけではない。統一教会は1950年代の設立後、急速に成長し、1970年代にはオルタナティヴな宗教の波の中、アメリカに上陸した。

「全人類の真の父母」として知られる文鮮明とその妻、韓鶴子(ハン・ハクジャ)は、何千組もの初対面のカップルを集めた合同結婚式で有名になった。こうして文師は世界帝国を築き、漁業、武器製造、不動産、メディアなどに投資した。破綻した事業もあったが、破綻しなかった事業もある。

夫妻は金持ちになった。1982年、文師はアメリカで16万2000ドルの個人所得を申告せず、脱税の罪で有罪判決を受けた。彼は約1年間投獄された。この判決に、文師は米国に対して怒りを持った。

1995年の演説で、彼は米国を「腐敗した国家」と呼び、「21世紀のラテンアメリカの栄光の日々」に賭けていると述べた。2000年には、ウルグアイとブラジルの資産を買収した後、カルロス・カサドSA(19世紀のヒスパニック系アルゼンチン人の大物創業者の名を冠した農業大手)がそれまで所有していたチャコの土地も手に入れた。

プエルト・カサドは、カルロス・カサド社の従業員たちが半封建的な環境で何十年も働き、この地域のケブラチョ(南アメリカ産のウルシ科の樹木)から採れるタンニンを加工していた町である。それが一夜にして、家々や通り、それに墓地まで、町の全てが文師のものとなった。

6,000人の住民は、自分たちがずっと住んできた住居が、韓国人の自称救世主のものになったことに気づき、そのことに怒った。教会幹部が商取引のためにこの地に出張したときには、地元の人々は人間の鎖を作って彼らが飛行機から出るのを阻止したせいで、彼らは飛行機で一夜を過ごさなければならなかった。

墓地の管理を住民に戻すなど、緊張を和らげようとした教会の最初の動きは、事態を悪化させるだけだった。地元住民の中には、教会関係者のロレンツォ・ミョンが町で銃を所持していたことを記憶している者もいた。ロレンツィートとして知られる彼の息子は「さらに酷く、攻撃的」であり、彼を直視しただけで住民を脅すほどだった。

この証言は、1980年にサレジオ会の伝道活動でプエルト・カサドにやってきた87歳のスペイン人司祭、マルティン・ロドリゲスのものである。彼や他の住民は、町のカトリック教会内にある、韓国人の統治に反対する地元ラジオ局を焼失させた火事への関与についても、親子を非難している。

火災事件の捜査を指揮した検事ドーラ・イラサバルは、彼女がプエルト・カサドに到着したとき、住民と教会は「戦争状態にあった」と述べた。彼女が「攻撃的な男」と呼ぶロレンツォ・ミョンは、教会の財産を盗んだと地元の人々を〝証拠もなく〟告発したのだという。

一方で、地元の人々は、検事が統一教会の飛行機でやって来たので、統一教会の操り人形だと思っていた。「緊迫した瞬間でした」と彼女は言った。イラサバル検事は、放火の形跡はあったが、個人を起訴するには証拠不十分だと捜査官に語った。

フェイスブックのプロフィールにコメントを求めたが、ミョン親子からの返答はなかった。教会の弁護士であるビョン氏は、プエルト・カサドで地元住民との間に緊張関係があったことは認めたが、火災についてのコメントは避けた。町と教会の間のこの初期の不和は、その後20年に渡る論争へと発展した。

2005年、パラグアイは同組織から52,000ヘクタールの非生産的な土地を収用する法律を可決したが、2年後、この措置は最高裁によって取り消された。2007年の法律では、教会は約3万ヘクタールをプエルト・カサドの住民とパラグアイ政府に返還することが義務付けられたが、今のところその譲渡は実現されていない。

アルベルト・ダヴィド・ガウトは、教会によるチャコの所有権と闘っている一人である。彼は文師の土地を不法に侵略し占拠した罪で当局に告発され、刑務所に収監されている。ロイターが入手した警察の報告書によると、彼はパラグアイ北部でコカイン、マリファナ、爆発物を運搬した容疑もかけられている。文書によると、彼は警察の情報提供者に、コロンビア革命軍(FARC)から訓練を受けたと話している。

ガウトはフェイスブックのメッセージに返答しなかった。彼の弁護士であるエミリオ・カマーチョからの返答もない。

教会の分裂

チャコでの教会の困難は、過去20年間に教会が直面した他の障害を反映している。2009年、教会の将来をめぐる争いがきっかけとなり、文鮮明教祖の長男である文顯進(ムン・ヒョン(Hyun)・ジン/ヒョン・ジン・プレストン・ムーン)氏が世界平和財団を設立した。

父はプレストンを後継者に選んだが、弟の文亨進(ムン・ヒョン(Hyung)・ジン/ヒョン・ジン・ショーン・ムーン)氏を好む実母はこの選択を拒否した。韓鶴子はショーンを教会の階級内の高い地位に就かせたが、それは短期間に終わった。イタリアの新宗教研究センターのマッシモ・イントロヴィーニュ所長によると、彼女もショーンとは不仲だったという。

2012年に文師が亡くなり、母親との間に緊張関係にある中で、ショーンは教会を去り、ペンシルヴァニアに拠点を置くサンクチュアリ教会を設立した。

分裂はパラグアイでの活動にも影響を及ぼしており、プレストン・ムーン率いる支部は、母親が率いるパラグアイ支部とチャコの土地の全権をめぐって複雑な法廷闘争を抱えている。両者は現在、家族の財産を共有している。プレストン・ムーンはコメントを避けたが、ショーンは父親が「チャコの土地を含む彼の財団全体」を自分に相続させたがっていたのだと語っている。

ショーンは、この地域での麻薬活動については知らなかったとしながらも、「父が築いた世界的な基盤を母親が簒奪したことによる悲劇的な結末」であると警告した。アスンシオンにいる韓鶴子の弁護士ビョン氏は、教会は地元のマスコミによって不当に「悪者扱い」されており、家族間の確執が文師のチャコに対する「将来的なヴィジョンに悪影響を与えたことは否定出来ない」と述べた。

「残念なことに、真の父母とその息子の一人であるプレストンとの間の家族の危機は、教会に悪いイメージを植え付け、そこから回復することが出来なかった」とビョン氏は語った。地元の人々によれば、文師が財産を巡って戦争状態にある一方で、麻薬密売人の侵入がますます増えているという。

プエルト・カサドで製材所を営むヴィルジリオ・チャモロは、この町が「その中心地」になっているため、コカイン密売はもはや秘密でも何でもないと語る。

(了)


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