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『進撃の巨人』語り
「note」をはじめたからには、一度は「お題」に挑戦したいと考えていたところ、「進撃の巨人10周年」というテーマが出題されたので書こうと思いました。
作品を知ったのは、2巻が発売されて間もない頃だった。当時、僕は「ピラメキーノ」という番組によく出演しており、その収録前に演出の佐久間さんと雑談していた。
「最近、面白い漫画あります?」
僕は訊いた。
「『進撃の巨人』読んでる?」
「え、面白いんですか?」
「うん、板倉好きだと思うよ」
そして本屋さんで見かけて買い、見事にはまった。それからは新刊を追いかけつづけ、いまは現時点での最新刊である29巻まで揃っている。ちなみに、22巻は二冊ある。二度買いしてしまうほど、待ち切れなかったのだろう。
アニメは出揃ってから一気に観た。ストーリーを知っているにも関わらず、夢中になって鑑賞し、とうとうタイトルに載せた写真のとおり、人類最強兵士のフィギュアも購入してしまった。
現在、パソコンで原稿を書く僕のうなじを狙っている位置に吊るす方法を画策中だ。
作品の魅力
まず、僕にとって魅力的な点は、とにかく感情を揺さぶられることだ。
エレンといっしょに怒り、絶望し、泣いてしまう。それも、ただの怒りや哀しみではない。爆発的な――激情ともいえるほど激しい感情を引き出されることとなる。
これは、僕たちが生きる現実の世界と共通する理不尽が描かれているからだと思う。
つぎに、人間について考えさせられることが挙げられる。
人間の弱さ、醜さ、卑しさ、残虐性、そして美しさが、一つの作品の中に凝縮されているのだ。
主要キャラになるだろうと思った人物でさえ、あっけなく死んでしまう過酷な状況だからこそ、そのあたりが生き彫りになるのだと思う。
そして僕にとっての最大の魅力は、すべてのキャラクターに共感できることだ。
はじめは憎くて仕方のなかったキャラクターでも、後にその人物視点で描かれるエピソードを知れば、やむを得ない行動だったのだと腑に落ちてしまうのである。
自分でも同じことをしたのではないか。彼を迂闊に責められない。あのときは憎んですいませんでした――そういった気持ちにさせられてしまうから見事だ。
さて、ここまで『進撃の巨人』を褒めちぎってきたが、じつは僕にとって、同作と肩を並べるほど評価している作品が二つだけあるので貼り付けておく。
『トリガー』は5巻、『蟻地獄』4巻で完結しているから、つづきを待ちわびてやきもきすることもないだろう。
わかっていますよ。
両作品の原作者を知っている人はいま、こんな目で見ているんでしょ?
話を『進撃の巨人』に戻そう。
しかし僕が思っていることのすべてを書こうとすれば、年単位の時間を要するので、ここからは自主的に項目を決め、それぞれについて3つずつ挙げていくことにする。
*ここからはネタバレを含む内容となります。未読の方は知りませんからね。
好きなキャラクター
① リヴァイ
僕は子供の頃から、決まって主人公ではない、クールで強いキャラクターに惹かれてきた。こう書いてしまうと尖った感覚を持っているかのように捉えられてしまうかもしれないが、僕が惹かれるキャラクターは、たいてい掲載誌の人気キャラランキングでは一位になっていたから、僕の感性は至ってオーソドックスなものなのだろう。
じっさい、この作品でも、リヴァイ兵長はぶっちぎりの一番人気であるはずだ。
特に興奮したバトルは、対「切り裂きケニー」戦と対「獣の巨人」戦で、これらのシーンは何度も読み返した。
最新刊ではあんなことになってしまったが、ファンとしてはもう一度だけ、「リヴァイ無双」が観られることを願ってやまない。
ああ、切り裂きケニーも好きなんだよなあ。
② エレン
僕にとって、かつてここまで感情移入できる主人公はいなかった。
理不尽に直面すると瞬間的にキレて、暴言を吐き、悪態もつく。自分より、立場や力が上の者に対してでも関係ないと思ってしまう。僕も過去に同様のことをやらかしてしまい、幾度となく痛い目に遭ってきた。だから「ほっとけない」気持ちになるのだ。
たとえば11巻の、巨大樹の森でのシーン。まだエレンは肉体の修復中で、巨人になれない状態なのにも関わらず、ライナーとベルトルトに対してキレて暴言を浴びせ、おまけに「お前らができるだけ苦しんで死ぬように努力するよ」などと悪態をついてしまう。
僕は「ダメだよ、エレン! いま不利な状況なんだから!」と心の中で咎めながらも、「わかるよ、エレン。そうなんだよね。わかってるけど言っちゃうんだよね。ムカつくもんね」と共感してしまうのだった。
エレンがそんな性格だっただけに、こっちバージョンも魅力的に思えた。
③ サシャ
戦ってばかりの、そして失ってばかりの残酷な世界で、サシャは調査兵団の仲間たちを、そして僕たち読者を、「人間らしさ」に引き戻してくれるのだ。
彼女の食いしん坊ぶりが発揮されるとき、束の間ではあるけれども、平和や、あるべきはずの日常を実感することができるのだ。
だからといって、サシャはただのズッコケキャラではない。その心にはきちんと「芯」を持っている。サシャが少女を救うために、立体起動装置もない状態で、3メートル級と戦うシーンには感動した。
じつを言うとコニ―と迷ったのだが、笑わせてもらった回数によってサシャを選んだ。
笑ったシーン
残念ながら使えるコマがかなったので、このブロックは文章のみとなる。
① 単行本5巻。リヴァイみたいに振る舞うオルオ。
リヴァイの喋り方を意識して話すが、まったく板についていないオルオが面白かった。
現実社会でも、「それ自分の喋り方か? つくってるよね?」と感じさせる人にもしばしば遭遇する。こういった場合、得てして指摘しづらいものだが、作中では「気持ち悪い」とまでオルオは言われてしまう。痛快であるとともに、リヴァイを真似したくなるオルオの気持ちもわかるから、両面から笑うことができた。
② 22巻。ハンジ「進撃の巨人。ってやってたよね? 今」
牢獄の中でグリシャの記憶に触れ、エレンはポーズを取りながら「進撃の巨人」と口走る。それをハンジに見られていて、ポーズを真似され、揚げ足を取られてしまう。
カッコつけたことを指摘されると恥ずかしくなる、という種類の笑いを、まさか漫画の中で表現できるとは思っていなかったので驚いた。
そのあとのリヴァイのフォローの言葉と、エレンの表情がたまらなく面白い。
③ 17巻。巨人化したロッド・レイスに対して、エレンが罵声を浴びせるシーン。
壁に向かって突き進むロッド・レイスを止めるため、エレンは並走する荷馬車の上から何とか座標を発動させようと、闇雲に声を投げる。やがて「チビオヤジ!」と口走ってしまったとき、背後にリヴァイがいることを感じる。そして、絶望の表情を浮かべる。
数コマだが爆笑した。
泣いたシーン
① 12巻。ミカサ「マフラーを巻いてくれてありがとう」
もはや説明不要の名シーンだ。死を前にしているからこそ、人間の、人生の美しさが光輝いていた。
自分にも幼少期に助けた女の子はいなかっただろうか、などと本気で記憶をたどってしまうほどに、「大切な存在」というものを羨ましく思った。
② 21巻。エレン「アルミンがいなくても無理だ!」
瀕死のエルヴィンとアルミン、どちらに注射を打つか、つまりどちらを生かしどちらを見捨てるのか、リヴァイたちは究極ともいえる選択を強いられることになる。
ここで露わになるそれぞれの想いが、すべてのセリフが、胸に突き刺さって泣けた。嗚咽するほどに泣けた。
ここはじっくりと描かれているので、21巻の前半は、ほぼ泣きつづけることとなった。
そしていよいよ、この記事の最後です。泣いたシーン三つ目。
③ ここは空欄にしておく。
なぜなら僕が最も泣くシーンは、
最終巻で描かれるはずだからだ!
いやあ、今後に期待を持たせる、素晴らしい締めくくりでしたね。
わかってますよ。
こんなふうに思っている人がいることも。