僕たちは今、SFの世界に生きている
secondz digital株式会社代表取締役の板井です。
弊社は生成AIやLLM、エージェント技術を活用して、様々な業界や職種向けに「AIエージェント」を提供し、企業の「AIネイティブカンパニー」への変革を実現するスタートアップです。
このたび、ジャフコグループから約1.5億円の資金調達を実施しました。それに伴い、私たちがどのような未来を見据えているのか、改めて言語化し、共有したいと思います。
資金調達の詳細については、以下のリンクをご覧ください。
資金調達プレスリリース:生成AIエージェントによる事業変革を支援するsecondz digital、ジャフコ グループより約1.5億円の資金調達を実施
あの頃の未来
自律的に数学や科学の課題を解決するAI、自動運転タクシー、家庭の様々なタスクをこなす人型ロボット、再利用可能なロケット、そしてAGI(人工汎用知能)や超知性の可能性——これらは、かつてSF映画や小説で描かれていた未来です。
しかし、これらの技術はすでにここ数ヶ月の間に発表された現実のテクノロジーです。振り返ると、この1年だけでも技術の進化は驚異的な速度で進んでいます。
もちろん、『ブレードランナー』や『攻殻機動隊』のようなサイバーパンクの未来とは異なりますが、私たちがすでにSF的な未来の中に生きているのは間違いありません。
(ちなみに個人的には『R2-D2』や『タチコマ』のような愛嬌あるロボットたちが大好きなので、ぜひどなたか開発してほしいです!)
これからの未来の行く先
AGIや超知性への道筋
近年、AGI(人工汎用知能)や超知性※1の出現の可能性について、OpenAIやAnthropicのCEOが相次いで言及しています。なぜ今、こうした議論が進んでいるのでしょうか。
れは、以下の2つの要因によるものと考えられます。
学習や推論が計算資源によってスケールすること。
計算資源自体が、時間の経過とともにスケールしていくこと。
これらの要因により、「知性」※2も計算資源のスケーリング則に従う可能性が見えてきたからでしょう。
まず、学習や推論能力についてですが、OpenAIなどが提唱しているように、これらは計算資源に応じてスケールすることが確認されています。モデルのサイズや計算量が増加すると、学習性能も予測可能な形で向上する傾向にあります。(図1)
また、推論に関しても計算量の増加がそのパフォーマンス向上に寄与することが示唆されていますが、さらなる検証は今後必要です。しかし、時間と資金をかければ推論能力もスケールする見通しが強まっています。(図2)
次に、計算資源そのものについてですが、これも長年の経験から、時間とともに増加してきました。(図3、4)ムーアの法則が減速しているとはいえ、新しい計算アーキテクチャや量子コンピュータ、カスタムハードウェアの進展により、計算資源の拡大は今後も持続可能です。特にTPUやGPUといった専用チップの進化が、学習や推論を大幅に効率化していきます。
すでにOpenAIの最新モデルと噂されるo2では、STEM系の博士号レベルのベンチマークで105%を達成しているとのことで、推論プロセスの高度化が進んでいます。
「知性」の限界費用ゼロ社会
計算資源とアルゴリズムへの投資により、AIがさらに進化し、やがて「知性」※2の限界費用はゼロに近づいていくと考えています。
限界費用とは、モノやサービスの生産量を1単位増やした時の、増加する費用です。
ジェレミー・リフキンの『限界費用ゼロ社会』では、テクノロジーの進化により製品やサービスの生産コストが劇的に低減し、それが経済や社会のあり方を変革すると論じられています。すでに音楽や映画、ソフトウェア、ニュースといったデジタルコンテンツの限界費用がゼロに近づいており、リフキンの予測が実現しています。
この限界費用の低減が、「知性」にも適用される日は近いと考えています。知性が特別ではない社会の出現を見据える必要があるのです。
「デジタル移民」の拡大
「知性」の限界費用がゼロに近づき、AIエージェントが様々なツールを活用できるようになると、多くの仕事がAIに代替される時代が到来するでしょう。特にホワイトカラーの専門職、その中でも高年収帯からその影響を受けると予測されます。
歴史を振り返ると、1980年代から1990年代にかけて、通信技術の進展により企業がコールセンターやバックオフィス業務を低コストな国々に移転する「オフショア」が進みました。インドやフィリピンがその恩恵を受け、急成長しました。
この動きはデジタル時代においても「デジタル移民」として再現されるでしょう。現在、巨大なファウンデーションモデルの開発は主にアメリカで行われていますが、この技術が他国の労働市場に大きな影響を及ぼすことが予想されます。すでにMicrosoftのCopilotなどは業務を支援する段階にありますが、今後、さらなる進化が期待されます。
secondz digitalが今後10年で目指すもの
AGI(人工汎用知能)や超知性の出現が現実味を帯び、ファウンデーションモデルの構築が国家プロジェクト並みの規模で進行する世界において、私たちsecondz digitalができることはなんなんでしょうか。
目指す未来のキーワードは「マルチエージェント」、「AI資本経営」、そして「AIネイティブカンパニー」です。
マルチエージェント
ファウンデーションモデルの巨大化に伴い、汎用的な知性を持つAIの開発は、莫大な資本を投入できる一部の企業に限られるようになっています。しかし、もう一つのアプローチとして、特定のタスクに強い小規模なエージェントたちが協調して動作するという考え方があります。
個々のエージェントは特定のタスクに優れた能力を発揮し、それらをオーケストレーションするエージェントが全体の業務を調整・管理して、複数のエージェントが協力してタスクを遂行することができれば、巨大な汎用モデルに対抗できる余地があります。
国内ではSakana AIが同様の仮説のもとで事業を展開していますが、私たちsecondz digitalもこのアプローチを支持しており、特定のドメインに特化したマルチエージェントを開発する予定です。
さらに、オーケストレーションエージェントがコンサルタントと協力し、AIエージェントが業務フローを最適に設計できる仕組みを構築していきます。
(現在、産学連携プロジェクトも進行中で、発表可能な段階に達した際にはお知らせします。)
AI資本経営
AIエージェントをビジネスに適用する際には、考慮すべき要素が数多く存在します。
AIにとってフレンドリーなデータ整備(ナレッジやAPIの利用)に加えて、AIエージェントが担うべきミッションや業務フローの設計、持つべきスキルやナレッジ、業務を遂行するための適切なツールや権限、さらにはAIエージェントが実行した業務のパフォーマンスを評価する「評価・報酬体系」の構築も必要です。
私たちは社内でこれらを「AIの働きやすさ」と呼び、その整備に力を注いでいます。AIが効率よく働ける環境を整備し、会社や組織の在り方を再定義することが求められています。
これまで、人材を資本として捉え、中長期的な企業価値を見据えて人材投資を行う「人的資本経営」が主流でした。しかし、今後10年では、AIエージェントを資本として捉える「AI資本経営」が主流となっていくでしょう。
私たちは、コンサルティングチームやデータ整備チームを自社内に保有し、これらの整備を通じてAIのビジネス適用を加速させていきます。
AIネイティブカンパニー
上記の2つのアプローチを柱に、AIエージェントに業務を移譲し、AIエージェントが当たり前のように働く企業を「AIネイティブカンパニー」と定義しています。
現在、戦略的・技術的観点から、まずはB2Bセールス分野に注力しています。
実際に、とある大手企業ではセールスプロセスの一部をAIエージェントに移譲し、営業1人あたり年間約100時間の業務を削減する事例も生まれています。
今後は「AIの働きやすさ」をさらに整備し、マルチモーダルデータベースやマルチエージェントを活用して、B2Bセールスの分野で「AIネイティブ」な組織への変革を支援していきます。
私達が考えるAIネイティブな営業組織での一日を見ていきましょう。
こうしたAIネイティブな組織への変革を、さまざまな業界や職種へ展開し、企業の「AIネイティブ化」をさらに加速させていく予定です。
「確定された未来」を、ともに創ろう
私たちは、AI技術の発展により「AIネイティブカンパニー」が誕生するのは、もはや避けられない「確定された未来」だと確信しています。一方で、その未来に到達する速度をいかに速めるかは、私たちの行動にかかっています。
今後10年で世界は劇的に変化し、「働くこと」や「企業の在り方」、さらには「人間とは何か」という問いを改めて見直す時が来るでしょう。
かつて、インターネットが出現して世界が大きく変わった時期に、その中心に携わりたいと思ったことがありました。しかし、今私たちはその時期を超える大きな変革の波の中にいます。
私たちの前には広大な未開拓のホワイトスペースが広がっています。
この「確定された未来」を、ともに創りませんか?
※1 AGIや超知性の定義は様々ありますが、ここでは人間の知能と同等、もしくは超える高度なAIを指します。
※2 知性の定義に関しても様々ありますが、ここでは学習・推論・問題解決の能力を持つ知的な存在のことを意味します。