凪のように穏やかで、ウネリのように力強い
頂が終わってしまった。
あれからあっという間に時間は経ち、日常は当然のように続いているけど、こうして振り返ってしまうと、頂が終わってしまったことはやっぱりとても寂しい。
僕が頂に関わるようになったのは、2015年。その年に、ボスこと小野さんに会場の入り口にエントランスゲートを作りたいという相談を受けたのが最初でした。その翌年の2016年にキャンドルステージをリニューアルするというプロジェクトからキャンドルチームに参加させてもらっています。
キャンドルステージのリニューアルの様子は、こちらの記事でも紹介していただきました。
https://note.com/itadaki_shizuoka/n/nc79f79b5b85d
僕は普段、グラフィックデザインの仕事を静岡でしています。あと川根本町にある不動の滝キャンプ場というキャンプ場の運営に関わったりもしています(不動の滝キャンプ場はフードブースに出店しているので、RONくんの美味しいハンバーガーやアジフライバーガーを食べてくれた人もたくさんいるかと)。
っと、普段は全く、ステージのデザインや演出なんかしたことがない、素人です。こんな僕が頂のメインイベントであるキャンドルステージの1日を任されるなんて。なんとも、僕の手には余る、頂らしいオファーだと改めて思います。毎年、「やるしかない!」っと、覚悟を決めるも、ものすごく緊張する。本当にドキドキする。
そんな僕にはもう一日の演出を担当しているベンさんという心強い味方がいる。ベンさんはとても芯の強い人で、とにかく頼りになるキャンドルチームの兄貴的な存在です。僕がキャンドルチームに参加する、ずっと前からこのステージを守り続け、数千人がうっとりするこのステージをずっと作り続けてきた人です。何が起きても動じず、しなやかに物事を受け止める。凪のように穏やかで、ウネリのように力強い、とても魅力的な人です。
さて、まあ。頂には本当にトラブルが付き物なんです。そのほとんどが、天候などの自然状況が誘発するものだと思います。当日はもちろんだけど、設営や準備の段階でもいろいろなことが起きるし、なかなか予定通りにとか、一筋縄ではいかせてくれない。昨年の開催中止も勿論そうですが、僕にとって印象的なステージは2017年のベンさんが演出するアン・サリーさんのステージ。その木曜日までの準備はびっくりするくらい順調でした。
しかし、金曜日に天候は一変。朝から強烈な雨風が吹きつけ、会場のすべてを吹き飛ばしていきました。キャンドルステージも強烈な向かい風を正面に受け続け、今にもステージごとふっ飛ばされそうでした。その様は凄まじく、これ以上、ステージが風を拾わないようにと、屋根幕を外すことを決断。その作業中にも強烈に吹き付ける雨風は、無惨にもステージの天幕をビリビリに引き裂いていきました。その場に居合わせたすべての人が呆然とし、一瞬にして時が止まってしまった。
しかし、ここからのキャンドルチームは凄かった。僕もパチンとスイッチが入り、知り合いに電話をかけまくり、ミシンを貸してくれる縫製工場にたどり着き、フレアテントの井田さんと破れたテントを縫いに静岡市内に向かった。ベンさんのステージは明日だ。みんな、この雨の中、予定もクソもなく、今できることを全力で明日のためにやっている。なんとか間に合わせたい。実はこの時、ムーンステージのテントも破れていて、どちらを優先して縫うのか。徹夜で作業しても、設営を考えると、どちらかは間に合わないかもしれない。今は金曜日の夕方で、明日の朝には頂はオープンする。その判断は僕にはできない。小野さんにその判断を仰ぐと、じっと考え、「ムーンステージのテントから……」。僕はベンさんの顔を思い浮かべていました。
頂本番、土曜日。風は残ったが、空は晴れていた。
その夜のキャンドルステージに屋根はかかっていなかった。そんな状況でもベンさんの演出するアン・サリーさんのステージは、いつも通り、しっとりと艶やかで最高の雰囲気だった。ベンさんのステージには色気がある。
アン・サリーさんが、風で揺れるシャンデリアのガラスのぶつかる美しい音をマイクで拾ってくれた。とても綺麗な音だった。小野さんの言葉を借りれば、「これがライブだ」。
もし僕の担当するステージがこの土曜日だったら、きっと僕は現実を受け止められなかったかもしれない。アタフタと色んな言い訳を探したと思う。
だけど、ベンさんはこの時も動じず、しなやかに物事を受け止めていた。できることを精一杯に、淡々と。周りに気を配りながら。そんな大海のような人に、ずっと支えてもらったからこそ、僕は自由にキャンドルステージと向き合うことができたのだと思う。
これを書いている横で娘が、この文章を読んでいて、「どういう話かわかる?」と聞いてみたら「パパはベンさんが好きってことでしょ」と言った。
その通りだ。毎年、家族も楽しみで仕方なかった、頂が終わってしまった。やっぱりとても寂しい。
Candle Stage ディレクター
イトウマサヒロ
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