両生類(カエル)音声解析論文まとめ;その1
自動録音、自動識別、音声モニタリング、録音時間の最適化、環境条件
繁殖時期の雄のウシガエルの鳴き声を録音しモニタリングを行う際に、いつの時間に録音を行うのが妥当なのか検証するため論文を漁った時の論文メモ。需要はないと思うが、記憶するために残しておく。なお、ウシガエルだけではない様々な無尾類において、音声解析ソフトにより識別の妥当性や繁殖時期の鳴き交わしのピークを探っている論文を乗せている。また、その2があるかは、気分次第(笑)その2は、音声解析による鳴き声の特性を見たような論文をまとめようと思う。
最初にメモなので許してほしいのですが、両生類無尾目って書いたり、カエル類と書いたりしています。使い分けているわけでなく、単に疲れてただけです。全てカエルです。あと、気づかぬ誤字や脱字、表現のおかしい部分もあります。ご容赦ください。
始めに
両生類無尾目の音声モニタリングにおいて、よく出てくる大きな取り組みとして、アメリカでは1994年~2015年に行われた市民化学的プログラム;The North American Amphibian Monitoring Program (NAAMP)がある。このとき、鳴き声をサンプリングする際の条件を規定しているため、アメリカでは、これに従った録音方法をとることが過去の論文では多い傾向にある。また、このとき調査された結果から、鳴き声のモニタリングを行う有効な時間などを検証した論文が多く見つかる。
Trends in anuran occupancy from northeastern states of the North American Amphibian Monitoring Program;
https://www.researchgate.net/publication/228487514_Trends_in_anuran_occupancy_from_northeastern_states_of_the_North_American_Amphibian_Monitoring_Program
カエルの音声解析に用いる解析ソフトは実際何がベストなのか?
どれがベストかという文献があるわけではないけど、これに関してはReserchGateにおけるquestionにおいても、同じ質問が投げられている。
Software for analyze frog sounds?;
https://www.researchgate.net/post/software_for_analyze_frog_sounds
リンクの解答にもあるが、研究者によって使用するソフトはまちまちだった。自分自身、論文を見ていて、多い音声解析のソフトは、wildlifeacoustic社の「song scope(現在は上位互換としてkaleido scope)」もしくは、The cornell lab制作の「raven pro」だった。ついで、avisoft Bioacousitc社のAvisoft SASLab proなど。その他、無料の音声解析ソフトや、特に周波数特性などを見る研究においては自身で自作したプログラムを使用したものも多かった。(統計を取っているわけではないので、経験則です。すみません。でも、カエルの音声に関しては、絶対これってゆうのはなかったです。)。生物全体としての音声解析ソフトの種類はウィキペディアにもなっているので参考に。。。(ちなみに、song scope(wildlifeacoustic)は、2016年に開発は終了しているみたいですが、今(2020年1月現在)は無料でダウンロードできるっぽいです;https://www.wildlifeacoustics.com/support/technical-faq/1146-song-scope-analysis-software)
List of Bioacoustics Software - Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_Bioacoustics_Software
論文まとめ
0.生物の保全のための音声を用いたモニタリングの有効性
カエルだけじゃなくトリやイルカなど様々な生物で保全に向けた音声モニタリングが行われている。
Teixeira, D., Maron, M., & Rensburg, B. J. (2019). Bioacoustic monitoring of animal vocal behavior for conservation. Conservation Science and Practice, 1(8), 1–15. https://doi.org/10.1111/csp2.72
1.鳴き声vs目視
観測者が行う、両生類無尾目の鳴き声による観測と目視による観測のどちらの観測の方が検出可能性が高いのかを検証した研究。結論から言って、カエルによりけり、、、、。って言ってしまうと終わってしまうのだが、アメリカに生息する14種類のカエルで検証を行っているため、重要な知見といえる。
文献「Guzy, J. C., Price, S. J., & Dorcas, M. E. (2014). Using multiple methods to assess detection probabilities of riparian-zone anurans: implications for monitoring. Wildlife Research, 41(3), 243-257.」
http://www.publish.csiro.au/wr/WR14038
2.人間vs自動識別
ウシガエルやアマガエル科のカエル類を用いて、人間によるモニタリングと自動認識についてのタイプⅠエラーとタイプⅡエラーに関して検証を行った文献「Brauer, C. L. Tradeoffs of Automation in Monitoring: A Comparison of Anuran Acoustic Monitoring Methods.」https://www.uvm.edu/~pbierman/classes/critwrite/2011/Tradeoffs%20of%20Automation%20in%20Anuran%20Monitoring.pdf
また、カエルではないが、キゥイー(鳥類)を使用して手動と自動認識、どちらの方が精度がいいのか検証を行ったものもある
文献「Digby, A., Towsey, M., Bell, B. D., & Teal, P. D. (2013). A practical comparison of manual and autonomous methods for acoustic monitoring. Methods in Ecology and Evolution, 4(7), 675–683. https://doi.org/10.1111/2041-210X.12060」https://besjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/2041-210X.12060
3.6年間のカエル類のモニタリング調査における気温と
時間的要因による影響の検証
アメリカにおいて、automated recording systems (ARS)を用いて、8種類のカエルの声を観測し、温度と時間的な要因における鳴き声の検出可能性を検証した研究。この研究は、6年間の連続的なモニタリングデータがある。結論として、気温と季節性、また年による影響が強いことが分かった。なお、観測した8種のうち6種は、音声によるモニタリングは効果的であること示された。
文献「Cook, R. P., Tupper, T. A., Paton, P. W., & Timm, B. C. (2011). Effects of temperature and temporal factors on anuran detection probabilities at Cape Cod National Seashore, Massachusetts, USA: implications for long-term monitoring. Herpetological Conservation and Biology, 6(2), 25-39.」
4.ウルグアイのウシガエルの鳴き声の日内変動
ウルグアイにおけるウシガエルの鳴き声の日内検出可能性に関して;
ある時間に区切ってそれぞれ鳴いている量でスコアリングして鳴いている量を測定。ウルグアイなので、日本とは気候や季節性の違いがあることに注意。南半球のため、録音時期(繁殖時期)は11月、さらに日内温度変化が激しい。ただこういう海外の知見はとてもありがたい。
使用録音機器「Panasonic RR-US310」
使用解析ソフト「不明」
文献「Laufer, G., Gobel, N., Soutullo, A., Martinez Debat, C., & Sá, R. D. (2017). Assessment of the calling detection probability throughout the day of two invasive populations of bullfrog (Lithobates catesbeianus) in Uruguay. Cuadernos de herpetología, 31.」
5.コヤスガエル科における合唱がよく行われる時間を検証
コヤスガエル科(Eleutherodactylus)のカエル8種を用いて、夕方18時~明け方の6時まで録音を行い、盛んに鳴き交わしが行われる時間を調べた論文。調査地はプエルトリコ。 Amphibian Calling Index (ACI)なるものを取って鳴き声にランク付けを行っている。また、software Pumilio (Villanueva-Rivera & Pijanowski, 2012)という解析ソフトを使用して、鳴き交わしにおける周波数の重複割合を求めている。コキーコヤスガエルは卵のまま直接変態する珍しいカエルだからしょうがないかもしれないが、本当に研究例が多いなぁ。コキーーーっ!
結論としては、20時ごろがピークとしている。
使用機器「Nomad Jukebox 3 digital playerなど」
解析ソフト「AUDITION software (ver. 1.0; Adobe Systems, Inc., California, USA)」
文献「Villanueva-Rivera, L. J. (2014). Eleutherodactylus frogs show frequency but no temporal partitioning: implications for the acoustic niche hypothesis. PeerJ, 2, e496.」
6.解析ソフトの自動認識アルゴリズムの検証
音声解析ソフトSong Scopeにおけるアオガエル科などのカエルの自動抽出に関して、タイプⅠ、Ⅱのエラーの割合を検証。少し古い論文になるため、引用として用いるには注意。ただこのソフトウェアを用いた無尾目の音声解析は多く行われているため、重要な知見。
文献「Waddle, J. H., Thigpen, T. F., & Glorioso, B. M. (2009). Efficacy of automatic vocalization recognition software for anuran monitoring. Herpetological Conservation and Biology, 4(3), 384-388.」
7.自動録音、自動識別における検出可能性の検証
こちらの論文も音声解析ソフトsong scopeを使用してカエルの鳴き声の自動検出の可能性を検証した論文。適切な方法を行えば、カエルの声を識別するのに誤認識せずに済むといった内容。なお、検証には、ウシガエルではなくgreen frog (L. clamitans)が用いられているが、一見格好は似ているが鳴き声は異なる。
文献「Brauer, C. L., Donovan, T. M., Mickey, R. M., Katz, J., & Mitchell, B. R. (2016). A comparison of acoustic monitoring methods for common anurans of the northeastern United States. Wildlife Society Bulletin, 40(1), 140-149.」
8.音声認識アルゴリズムのサンプル、パラメータの検討
こちらは音声解析ソフトsong scopeを使用して、学習アルゴリズムにかけた場合、サンプル数の増減や手法、パラメータの調節によって、どのくらい精度が向上するのかを検証した論文。結論としてサンプル数を増加させただけでは、精度はそこまで上がらなかった。
文献「Crump, P. S., & Houlahan, J. (2017). Designing better frog call recognition models. Ecology and Evolution, 7(9), 3087–3099. https://doi.org/doi:10.1002/ece3.2730」
9.環境と録音時間における最適なモニタリングの検証
3種の両生類を対象に、録音に最適な条件を探索した研究。9つの環境変数を用いてステップワイズ法によるロジスティック回帰を行い解析し、録音に最適な時間や気温などを求めた。結論として一部、鳴き交わしが行われる条件に気温が関係していることが述べられている。
録音機材「automated recording system (ARS) (Model ARS-FL IV; Bedford Technical,Colleyville, TX) 」
音声解析ソフト「不明」
文献「Steelman, C. K., & Dorcas, M. E. (2010). Anuran calling survey optimization: developing and testing predictive models of anuran calling activity. Journal of Herpetology, 44(1), 61-68.」
10.両生類の音声モニタリングは気温と降水量に影響を受ける
Elachistocleis matogrosso (Anura, Microhylidae) における研究で、鳴き交わしが行われる時間は、気温と降水量によって影響を受けている可能性を示唆した論文。他の論文でも気温に関して影響があると述べられているが、音声モニタリングを行う時間帯、気象条件は注意が必要。
文献「Pérez-Granados, C., Schuchmann, K. L., Ramoni-Perazzi, P., & Marques, M. I. (2019). Calling behaviour of Elachistocleis matogrosso (Anura, Microhylidae) is associated with habitat temperature and rainfall. Bioacoustics, 1-14.」
11.2種の近縁の両生類が受ける鳴き交わしへの
気象条件の違いによる影響
Robust frog(Austrochaperina robusta)とornate nursery-frog(Cophixalus ornatus)というオーストラリアで見られる2種の両生類を対象として、気温、湿度、降水量という環境条件の違いに対して鳴き交わしがどのように変化したのか検証した。この2種のファミリーはMicrohylidae科であり、2種の近縁の種が環境条件によってどのような応答を示すかを見ることを目的としている。結論として、降水量の多い条件と気温の低い場合、鳴き交わしがあまり行われなくなり、さらにornate nursery-frog(Cophixalus ornatus)よりもRobust frog(Austrochaperina robusta)の方が、気象条件による影響を大きく受けていた。
文献「Hauselberger, K. F., & Alford, R. A. (2005). Effects of season and weather on calling in the Australian microhylid frogs Austrochaperina robusta and Cophixalus ornatus. Herpetologica, 61(4), 349-363.」
12.両生類の鳴き交わしを行う活動パターンを長期的に検証
急速に数を減らす両生類であるEuropean common spadefoot toad (Pelobates fuscus)において長期モニタリングを行い、鳴き合う活動パターンを明らかにした論文。鳴き合うといったが注意しなくてはいけないことは、この両生類は、合唱を行わない(Eibl-Eibesfeldt、1956)らしいので、その手のパターンとして考えると少し違うのかもしれない。ただし、夜20時ごろから鳴き合い、それが朝方まで続く活動パターンは他の両生類と同様であると言える。
録音機器「SM2 SongMeter programmable audio field recorder connected to a single hydrophone of type HTI‐96 (both from Wildlife Acoustics Inc., Maynard, U.S.A.)」
音声解析ソフト「software detector specifically developed for the freely available Scilab (ESI Group, Rungis, France)」
文献「Dutilleux, G., & Curé, C. (2020). Automated acoustic monitoring of endangered common spadefoot toad populations reveals patterns of vocal activity. Freshwater Biology, 65(1), 20-36.」
https://doi.org/10.1111/fwb.13111
13.音声識別のためのマルチラベル学習
コンピュータサイエンスの分野になるが、鳴き声のマルチラベル学習を行って、自動認識を行う研究を行っている。実際の両生類の音声のスペクトログラムを見るとわかるが、同じ音が発せられているように見えて、個体間で微妙に異なったり、ある周波数の音だけノイズによって拾えていなかったりなど、一貫して同じ鳴き声が得られないことが多々ある。そうした問題に対しての機械学習的アプローチを検討している。
解析ソフト「All algorithms were programmed in Matlab 2014b except multi-label learning, which was implemented in Meka 1.7.7」
文献「Xie, J., Michael, T., Zhang, J., & Roe, P. (2016). Detecting frog calling activity based on acoustic event detection and multi-label learning. Procedia Computer Science, 80, 627-638.」
14.複数のマイクを使用した音声による個体群密度推定の検証
多数のマイクを用いて、多地点における観測履歴より、カエルとの距離を把握することにカエルの密度を測定する手法の検討。著者ら多数のマイクを使用したこの方法をAcoustic Spatially Explicit Capture–Recapture (aSCR)と呼称し、カエルの鳴き声をサンプリングすることは捕獲再捕獲法データとしてみることができると述べている(see Borchers 2012 for further details)。ちょっとよくわからないが、音が大気を伝わるときに生じるレイテンシー(遅延)などにも着目し検証を行っている。
文献「Measey, G. J., Stevenson, B. C., Scott, T., Altwegg, R., & Borchers, D. L. (2017). Counting chirps: acoustic monitoring of cryptic frogs. Journal of Applied Ecology, 54(3), 894-902.」
https://doi.org/10.1111/1365-2664.12810
15.鳴き声を数えてアバンダンス(種の豊かさ)を推定する研究
カナダアカガエル(Wood Frogs (Lithobates sylvaticus))を対象として、鳴き声の数を数えることで、アバンダンス(種の豊かさ)を測定する研究。この研究は結構すごくて、卵塊の個数、個体の数(オスとメス判別)、鳴き声の量を使い検証を行いとても良い知見が得られる。また、タイプⅠ、Ⅱエラーの検証も自前で行ったうえでアバンダンスの推定を行っている。このwood frogは、アメリカからカナダまで広く生息しているため、生態的なところもよく研究されている。繁殖時期は3~5月で、別のカエル類であるgreen frog(Lithobates clamitans)のオタマジャクシは越冬することが可能なため、春先の産卵時、捕食により、卵塊の観測ができず実際の繁殖活動とブレがある可能性がある。鳴き声を数えるとは、どれを1とカウントするのかと疑問に思うかもしれないが、このwood frogは単発的に「コワっ」っと鳴くみたいなので、それを1回とカウントしている模様。録音時間は2015年および、2016年の繁殖時期19時~7時。結論として、気温が繁殖活動の量に効いていることと、次の年の繁殖活動の大きさは予測できない可能性を示した。
録音機材「Song Meter models SM1, SM2, and SM2+ (Wildlife Acoustics, Massachusetts)」
音声解析ソフト「song scope(Wildlife Acoustics)」
文献「Crump, P., Berven, K., Youker-Smith, T. E., Skelly, D., Thomas, S., & Houlahan, J. (2017). Predicting anuran abundance using an automated acoustics approach. Journal of Herpetology, 51(4), 582-589.」
最後に
両生類のIUCNのレッドリストにおける絶滅危惧種の割合は、2020年1月現在、41%(IUCN 2020. The IUCN Red List of Threatened Species. Version 2019-3;https://www.iucnredlist.org/)にも昇る。カエル類の音声モニタリングに対する知見は、両生類の保全を行う上でとても重要なことだと考える。
ここにあげられた論文以外にも、多くの研究がカエルの音声モニタリングの妥当性、信頼性に関して検証を行っている。
音声モニタリングは、音声の観測技術の進歩と歩んでいる。耳による観測から、録音マイクによる観測まで、2000年代に入り、初めの方は、カエルの種の個々の鳴き声の検出可能性の議論が多く、どんどんと音響技術、解析技術の進歩により、自動録音や種の識別、アバンダンスの量など、現在では、とても盛んに研究が行われている。
カエル類の音声モニタリングをするうえで、気を付けなければいけないことは、気温や降雨などの気象条件や鳴き交わしが行われる時間帯、ならびに、年変動など。様々な要因がモニタリングを精度よく行うことのできない要因になりえることが分かった。
感想とかいろいろ
読んでくださいありがとうございます。
noteでの投稿は初めてなので、文章書くの面白いなと思うと同時にいろいろ大変でした。たとえば、学名は斜体がどうすればなるのかわからなかったり(まぁ、全然いいんだけど)、リンクが変になったり(たぶん、僕のせいです、すみません)。でも、純粋にシンプルで使いやすい!あとコードも入れられる!
また初心者すぎて、どこまで書けばいいかわからない。1万文字は長すぎる気がするので、投稿を二つに分けるべきだったかなと今は思っています(;'∀')(文章能力も皆無なので読んでて疲れるって言われるんだろうなぁ)。これからもし投稿するなら、もうちょっと気を付けます。
カエルの音声モニタリングに関しては、現状、気温や降雨による影響で観測が不十分になるような内容が全体として多い印象にあります。結果として、ウシガエルはいったいいつ音声モニタリングするのが妥当なのか、海外の論文では夜間全体での鳴き交わしのピークを求めていますが、日本の論文だと、私が調べた限りではまだ見つかっていません(もちろん、ウシガエルは日本では外来種ですが、在来のカエルも含めてモニタリング自体は行われています)。ここら辺に関しては、自分自身のデータで検証を行って示す必要があるようですね。
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