10⁻¹⁴

12月の夜
ふと床を見ると、小さな蜘蛛がいた。
糸のような手足、ゴマ粒のような胴体。
動きが鈍い。
寒さのせいだろうか。

進行方向に指を置き、登ってくるのを待つ。
躊躇いながら、足の何本かを乗せはする。
数秒の沈黙。
逡巡の末に、結局床に戻る。

何度か進路を塞ぐ形で指を置いたし、
こちらが巨大生物であることは気付いてるだろう。
それでも逃げる様子もなく、動きは鈍い。

薄い紙なら、載せられる。
そうやって外に出てもらうのが常套手段。
次に発見した時、死体になってるのを見て
自分が潰したのでは…という未来の罪悪感をわたしは恐れる。

つまりは自分のため。
傷つきたくないから、自分の心を守る為の防衛手段。
優しさなどではない。

でも外に出したら出したで、この動きの鈍さ
寒さか、外敵に遭って早晩死ぬんだろう。
いとも簡単に。

なら、この部屋の中で
生きられるだけ生きるといい。

自ら好んで入ってきたんだとしたら、
何処かから出られるのかもしれない。
何を食べるのかもわからないけど。

もしここが良いのなら、居ればいい。
でも、できればわたしには近付かないで欲しい
そのつもりはなくとも、いとも簡単に死んでしまうだろうから。

外に放り出すことをやめる代わりに、
いつかわたしが殺してしまうかもしれない可能性と
その時つみ重なる罪悪感の可能性
その覚悟を受け容れよう。

できれば無事に生き延びて
出たい時には、外に出てってね。

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