1991年生まれの僕と同い年のアルバムの話①Out of Time/R.E.M.
高校生の頃、R.E.M.というバンドの名前を知ったのは雑誌『ロッキング・オン』の記事がきっかけだった。記事の中でアルバム『Out Of Time』が名盤として紹介され、USオルタナティブの先駆者だとか、政治的なメッセージを投げかける歌詞がすごいとか、とにかく絶賛されていた。
金が無かった学生時代、板橋区立の図書館で奇跡的にR.E.Mのベスト盤を借りること成功した僕は、彼らの代表曲である『Losing My Religion』を聴いて率直に思った。
「なんて暗くて地味な曲なんだ」と。
フィーチャーされたマンドリンの寂しげな音色、マイナー調のメロディ、こもったボーカルの声……。代表曲のはずなのに、決してとっつきやすい曲ではなかった。
ところが、このシングルはビルボードチャート4位、グラミー賞を4部門受賞する大ヒットを記録したらしい。一般的にヒットチャートを席巻しそうなポップな曲とは対極にありそうなものなのに、この曲が大ヒットするアメリカという国は得体が知れないな、と思った。
その後でアルバム『Out Of Time』を聴いたが、やっぱりよくわからないな、と思った。
冒頭の『Radio Song』こそファンキーでラップも入って面白い曲だなと思ったけど、やっぱり2曲目の『Losing My Religion』の地味さに肩透かしをくらい、3曲目の『LOW』で文字通りテンションが落ち切ってしまった。『Shiny Happy People』なんてイントロは昭和歌謡のようである。
たしかにポップな曲もあるけど、アコースティックギターの音色が多く、フォークの傾向が強い。アルバム全体の印象としては渋くて地味というのが第一印象だった。
シングルのヒットのみならず、このアルバム『Out Of Time』は全世界で1800万枚以上を売り上げたらしい。でも何故売れたのかよくわからなかった。
発売は1991年。僕が生まれた年には、世界中のロックファンがこんな地味な音楽を求めていたのだろうか。
当時高校の軽音部に所属していた僕は、後輩のU君にR.E.M.の話を振ってみた。U君は文化祭の体育館ライブでNIRVANAのコピーをやって、保護者の見守る中でマーシャルから割れんばかりのフィードバックノイズを撒き散らし、デタラメの歌詞を叫びまくっていた奴だった。
U君にR.E.M.聴いたことある?と尋ねたら、「あー、ちょっと聴いたけどよくわかんなかったです。」と、いつもどことなく挙動不審なU君が悲しそうな顔で答えた。
軽音部の中でU君だけはR.E.M.の良さを教えてくれる気がしたのだが、その彼でもわからないと言われて、あきらめがついた気がした。
それから15年ほどの時が流れた。
『Out Of Time』と同い年の32歳になった今、改めてこのアルバムを聴いてみた。
よい。なんかめっちゃ心地よい。
あれだけ地味だと思っていた『Losing My Religion』がスッと心の中に沁みてきた。哀愁のある旋律がたまらない。昭和歌謡のイントロと揶揄していた『Shiny Happy People』はそのイントロの後の展開に心躍る。そして最後の曲『Me in Honey』の爽やかさよ。
僕も歳を重ねて、同級生のこのアルバムにようやく追いつけたのだろうか。
90'sにしては懐かしさを感じるフォーク寄りの音が心地よく、どことなくThe Smithsっぽいなあとも思った。ソ連崩壊や湾岸戦争など激動の年と言われた1991年に、R.E.M.の静かなグルーヴが人々の心を癒していたのかもしれない。
『Out Of Time』は直訳すると「時間が足りない」みたいな意味らしいけど、僕がその良さを理解するのにはたっぷりと時間がかかってしまった。
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