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SAP SD/MMパラメータ設定 基本手順(1)組織構造

はじめに

SAPパラメータ設定について、私は経験から次のように考えています。

  パラメータ設定のうち、
  (2:8の法則に従って)8割ぐらいは手順化できる。

手順化できれば、次のような利点が得られます。

  1. SAP初心者によるSAPシステム準備
     → SAPコンサルタントの早期育成にも役立つ

  2. SAPシステム利用者とのプロトタイピング効率化
     → アジャイル対応もしやすくなる

  3. SAPコンサルタントならではの作業への集中化
     → お客様への付加価値向上につながる

そのような利点を得るため、商品在庫国内販売を題材にSAP S/4HANA版のSD/MMモジュールのパラメータ設定について基本手順をまとめました。本記事を含めて、次の8つの記事に分けて紹介します。

  1. パラメータ設定 - 組織構造

  2. パラメータ設定 - 在庫管理等

  3. パラメータ設定およびマスタ登録 - カネ①・ヒト

  4. パラメータ設定およびマスタ登録 - モノ

  5. パラメータ設定およびマスタ登録 - カネ②・その他

  6. パラメータ設定および伝票登録 - 購買管理

  7. パラメータ設定および伝票登録 - 販売・出荷管理

  8. BIによる伝票データ分析


なお、業務対象やSAP S/4HANAのバージョンなどによって手順が異なる可能性は高いです。あくまで参考扱いとしてください。

また、望ましい手順書、たとえば画面ショットを含めて分かりやすい説明が加えられている手順書ではありません。そのような手順書は、皆さん自身で作ってみると理解が深まると思います。


用語・略称

以下、英字・五十音順に並べます。

  • DM : データモデルの略。

  • IMG:導入ガイド(Implementation Guide)の略。Tr-cd SPROで表示する。

  • Tr-cd:トランザクションコードの略。

  • 概念DFD:概念データフロー図の略。

  • 標準値:SAP S/4HANAをインストール(またはクライアント・コピー)した時点で登録されている値を指します。

  • ロジ:ロジスティクスの略。

基本手順作成方針

  1. 対象業務の種類
     商品在庫国内販売(図1~2参照)

  2. パラメータ設定およびデータ登録の所要時間
     3時間以内
     ※練習を重ねれば、この時間で設定できる範囲に絞る。
      そのため、SAP標準設定を最大限活かす。

  3. その他
     BI機能も含む
     ※SAP S/4HANAの特徴を実感するため。

図1:商品在庫国内販売の概念DFD
図2:概念DFDの仕訳 a~d

なお、次の2つは必要に応じて使ってください。所要時間には含めていません。

  • 【確認】: 標準値、または自動で設定された値を確認する場合のTr-cdなどを示しています。

  • 【任意】: 追加で試したい設定(例:輸送経路)で使うTr-cdなどを示しています。

命名規約

会社コードや品目などのコードや、販売伝票番号などの伝票番号の命名規約について、以下のとおり定めました。

命名方針

  1. 標準値に影響を与えない。

  2. 個人単位でパラメータ設定やデータ登録などを完結できるようにする。

  3. 全体命名規約を遵守する。ただし、個別規約があれば、それを優先する。

  4. 個別命名規約も全体命名規約を原則遵守する。

  5. 一般的な「Y始まり」や「Z始まり」を使わない。

上記1の補足)
主に2つの目的があります。
1つが、標準値はそのまま使えるようにすること。上書きなどをしないことはもちろん、会社コードなどの重要な標準値に新たなパラメータを紐づけないようにすることが該当します。
もう1つが、SAP S/4HANAがバージョンアップされた場合に影響を与えないようにすること。

上記2の補足)
たとえば、AさんとBさんの二人がいて各人がパラメータ設定をする、つまり、Aさん用の環境とBさん用の環境の2つがあるとします。Aさん用の環境とBさん用の環境が相互に影響を与えないように、コード等を命名します。

全体命名規約

図3:全体命名規約

個別命名規約 - 組織構造

図4:個別命名規約 - 組織構造

組織構造の概念データモデル

組織構造の概念ERD

組織構造のパラメータ設定をする場合、図5のような概念ERDを見える化しておくと理解が進みます。

なお、図5の概念エンティティ間のリレーションシップを、以降のパラメータ設定を考慮して表現しています。一般的なSAP仕様を表していません。

図5:組織構造の概念ERD

組織構造と主キー項目の関係

組織構造の概念エンティティ・タイプはすべてリソース型です。そのことは、図6からで明らかです。

図6:組織構造と6W3Hの関係

事前準備

ローカライズ

注:新たなクライアントを作成後、最初に一度だけ実行する。複数回の実行は不可。(おそらくテスト実行だけなら可ですが、未確認)

  1. 企業構造のローカライズ
    Tr-cd O035
    IMG:企業構造 → ローカライズ:サンプル組織ユニット → ボタン「国バージョン」をクリック
    設定内容:国コード ”JP” およびチェック「テスト実行」ON で実行。問題がなければ、チェック「テスト実行」を外して再実行。

組織構造の定義

パラメータ設定における組織構造の定義とは、概念エンティティに値を登録することです。図7でいえば、黒枠で表現した概念エンティティが対象です。

図7:組織構造の概念ERDのうち、定義する対象

FI:財務会計

  1. 会社コードの定義
    Tr-cd なし
    IMG:企業構造 → 定義 → 財務会計 → 編集/コピー/削除/チェック:会社コード → アクティビティ「コピー/削除/チェック:会社コード」
    設定内容:会社コード ”JP01” をコピー
     ※以下、このコピーを前提で進めます。

  2. 会社コードデータの設定
    Tr-cd OX02
    IMG:企業構造 → 定義 → 財務会計 → 編集/コピー/削除/チェック:会社コード → アクティビティ「編集:会社コードデータ」
    設定内容:会社名、(アドレスデータの)国コード "JP"、タイムゾーン ”JAPAN”

  3. 【確認】会計年度バリアントの割当
    Tr-cd OB37
    IMG:財務会計 → 財務会計共通設定 → 元帳 → 会計年度および会計期間 → 割当:会社コード -> 会計年度バリアント
    設定内容:会計年度バリアント ”V3"

  4. 【確認】会計期間バリアントの割当
    Tr-cd OBBP
    IMG:財務会計 → 財務会計共通設定 → 元帳 → 会計年度および会計期間 → 会計期間 → 割当:バリアント -> 会社コード
    設定内容:会計期間バリアント ”0001”

  5. 【確認】会計期間のオープン/クローズ
    Tr-cd OB52
    IMG:財務会計 → 財務会計共通設定 → 元帳 → 会計年度および会計期間 → 会計期間 → オープン/クローズ:会計期間
    設定内容:(省略)

  6. 【確認】勘定コード表の割当
    Tr-cd OB62
    IMG:財務会計 → 総勘定元帳 → マスタデータ → G/L勘定 → 割当:会社コード -> 勘定コード表
    設定内容:勘定コード表 ”CAJP"

  7. 与信管理領域の定義
    Tr-cd OB45
    IMG:企業構造 → 定義 → 財務会計 → 定義:与信管理領域

  8. 事業領域の無効化
    Tr-cd OB65
    IMG:経営管理 → 連結会計 → 統合:連結処理準備 → センダシステムでの準備 → 事業領域の連結準備の追加設定 → 財務会計 → チェック:事業領域貸借対照表の有効化
    設定内容:(工事中)

CO:管理会計

  1. 管理領域の定義
    Tr-cd OX06
    IMG:企業構造 → 定義 → 管理会計 → 更新:管理領域
    設定内容:管理領域、管理領域名、通貨コード "JPY"、勘定コード表 "CAJP"、会計年度バリアント ”V3"

ロジスティクス一般

  1. 【確認】評価レベルの定義
    Tr-cd OX14
    IMG:企業構造 → 定義 → ロジスティクス - 一般 → 評価レベルの定義
    設定内容: "評価レベル = プラント"

  2. プラントの定義
    Tr-cd EC02
    IMG:企業構造 → 定義 → ロジスティクス - 一般 → プラントの定義、コピー、削除、チェック → アクティビティ「コピー/削除/確認:プラント」
    設定内容:会社コード ”0001” をコピー
     ※以下、このコピーを前提で進めます。

  3. プラントデータの設定
    Tr-cd OX10
    IMG:企業構造 → 定義 → ロジスティクス - 一般 → プラントの定義、コピー、削除、チェック → アクティビティ「定義:プラント」
    設定内容:プラント名、(アドレスデータの)国コード "JP"、タイムゾーン ”JAPAN”

  4. 【確認】製品部門の定義
    Tr-cd OVXB
    IMG:企業構造 → 定義 → ロジスティクス - 一般 → 製品部門の定義、コピー、削除、チェック → アクティビティ「定義:製品部門」

MM:在庫/購買管理 - 在庫管理

  1. 保管場所の定義
    Tr-cd OVX9
    IMG:企業構造 → 定義 → 在庫/購買管理 → 保管場所の定義
    設定内容:保管場所、保管場所名

MM:在庫/購買管理 - 購買管理

  1. 購買組織の定義
    Tr-cd OVX8
    IMG:企業構造 → 定義 → 在庫/購買管理 → 購買組織の更新
    設定内容:購買組織、購買組織名

  2. 【確認】購買グループの定義
    Tr-cd OME4
    IMG:在庫/購買管理 → 購買管理 → 登録:購買グループ
    設定内容:購買グループ 、購買グループ名

SD:販売/物流管理 - 販売管理

  1. 販売組織の定義
    Tr-cd OVX5
    IMG:企業構造 → 定義 → 販売管理 → 定義、コピー、削除、チェック:販売組織 → アクティビティ「定義:販売組織」
    設定内容:販売組織、販売組織名

  2. 【確認】流通チャネルの定義
    Tr-cd OVXI
    IMG:企業構造 → 定義 → 販売管理 → 定義、コピー、削除、チェック:流通チャネル → アクティビティ「定義:流通チャネル」
    設定内容:流通チャネル、流通チャネル名

  3. 営業所の定義
    Tr-cd OVX1
    IMG:企業構造 → 定義 → 販売管理 → 更新:営業所
    設定内容:営業所、営業所名

  4. 【確認】営業グループの定義
    Tr-cd OVX4
    IMG:企業構造 → 定義 → 販売管理 → 更新:営業グループ
    設定内容:営業グループ、営業グループ名

SD:販売/物流管理 - 物流管理

  1. 出荷ポイントの定義
    Tr-cd OVX5
    IMG:企業構造 → 定義 → 販売管理 → 定義、コピー、削除、チェック:販売組織 → アクティビティ「定義:販売組織」
    設定内容:販売組織、販売組織名

組織構造の割当

パラメータ設定における組織構造の割当とは、概念エンティティに登録した値どうしを紐づけることです。図8でいえば、リレーションシップ(黒線で表現)と、黒枠で表現した概念エンティティが割当する対象です。

図8:組織構造の概念ERDのうち、割当する対象

FI:財務会計

  1. 与信管理領域に対する会社コードの割当
    Tr-cd OB38
    IMG:企業構造 → 割当 → 在庫会計 → 割当:会社コード -> 与信管理領域
    設定内容:会社コード、与信管理領域

CO:管理会計 ※経営管理を含む

  1. 管理領域に対する会社コードの割当
    Tr-cd OX19
    IMG:企業構造 → 割当 → 管理会計 → 管理領域に対する会社コードの割当 → メニュー「会社コードの割当」
    設定内容:会社コード

  2. 原価センタ標準階層の定義
    Tr-cd OKKP
    IMG:管理会計 → 管理会計一般 → 組織 → 更新:管理領域 → メニュー:基本データ
    設定内容:原価センタ標準階層、同階層名(※)
     ※同階層を一旦保存した後に、ペンのアイコンをクリックして入力。

  3. 原価センタのコンポーネント有効化
    Tr-cd OKKP
    IMG:管理会計 → 管理会計一般 → 組織 → 更新:管理領域 → メニュー:コンポーネント/管理有効化フラグ
    設定内容:原価センタ ”コンポーネント有効化"

  4. COバージョンの元帳の定義
    Tr-cd なし
    IMG:管理会計 → 管理会計一般 → 組織 → 定義:COバージョンの元帳
    設定内容:管理領域に対する同元帳 "0L"

  5. 利益センタ標準階層の定義
    Tr-cd 0KKS
    IMG:管理会計 → 利益センタ会計 → 基本設定 → 設定:管理領域
    設定内容:管理領域

  6. 利益センタ標準階層の定義
    Tr-cd 0KE5
    IMG:管理会計 → 利益センタ会計 → 基本設定 → 管理領域設定 → 更新:管理領域設定
    設定内容:管理領域、利益センタ標準階層、利益センタ国内通貨タイプ "20"、国内通貨 "JPY"、制御フラグの有効フラグ ON

  7. 利益センタ標準階層名の登録
    Tr-cd KCH1
    IMG:管理会計 → 利益センタ会計 → 基本設定 → 設定:管理領域
    設定内容:利益センタ標準階層、同階層名

ロジスティクス一般

  1. 会社コードに対するプラントの割当
    Tr-cd OX18
    IMG:企業構造 → 割当 → ロジスティクス一般 → 会社コードに対するプラントの割当
    設定内容:会社コード、プラント

MM:在庫/購買管理 - 購買管理

  1. 会社コードに対する購買組織の割当
    Tr-cd OX01
    IMG:企業構造 → 割当 → 在庫/購買管理 → 購買組織を会社コードに割当
    設定内容:購買組織、会社コード

  2. プラントに対する購買組織の割当
    Tr-cd OX17
    IMG:企業構造 → 割当 → 在庫/購買管理 → 購買組織 -> プラント
    設定内容:購買組織、プラント

  3. プラントに対する標準購買組織の割当
    Tr-cd OMK1
    IMG:企業構造 → 定義 → 在庫/購買管理 → 標準購買組織をプラントに割当
    設定内容:プラントに対する購買組織

SD:販売/物流管理 - 販売管理

  1. 会社コードに対する販売組織の割当
    Tr-cd OVX3
    IMG:企業構造 → 割当 → 販売管理 → 会社コードに対する販売組織の割当
    設定内容:販売組織、会社コード

  2. 販売組織に対する流通チャネルの割当
    Tr-cd OVXK ※旧画面なのでIMGで割当することを推奨
    IMG:企業構造 → 割当 → 販売管理 → 販売組織に対する流通チャネルの割当
    設定内容:販売組織、流通チャネル

  3. 販売組織に対する製品部門の割当
    Tr-cd OVXA ※旧画面なのでIMGで割当することを推奨
    IMG:企業構造 → 割当 → 販売管理 → 販売組織に対する部門の割当
    設定内容:販売組織、製品部門

  4. 販売組織および流通チャネルに対するプラントの割当
    Tr-cd OVX6 ※旧画面なのでIMGで割当することを推奨
    IMG:企業構造 → 割当 → 販売管理 → 販売組織の割当 - 流通チャネル - プラント
    設定内容:販売組織、流通チャネル、プラント

  5. 販売エリアの設定
    Tr-cd OVXG ※旧画面なのでIMGで割当することを推奨
    IMG:企業構造 → 割当 → 販売管理 → 販売エリア設定
    設定内容:販売組織、流通チャネル、製品部門

  6. 販売エリアに対する営業所の割当
    Tr-cd OVXM ※旧画面なのでIMGで割当することを推奨
    IMG:企業構造 → 割当 → 販売管理 → 販売エリアに対する営業所の割当
    設定内容:販売組織、流通チャネル、製品部門、営業所

  7. 営業所に対する営業グループの割当
    Tr-cd OVXJ ※旧画面なのでIMGで割当することを推奨
    IMG:企業構造 → 割当 → 販売管理 → 営業所に対する営業グループの割当
    設定内容:営業所、営業グループ

SD:販売/物流管理 - 物流管理

  1. ピッキング場所の割当
    Tr-cd OVL3
    IMG:物流管理 → 出荷管理 → ピッキング → 保管場所の決定 → 割当:ピッキング場所
    設定内容:出荷ポイント、プラント、保管条件(※)、保管場所
          ※値:空白、"01”

  2. プラントに対する出荷ポイントの割当
    Tr-cd OVXC
    IMG:企業構造 → 割当 → 物流管理 → 割当:出荷ポイント -> プラント
    設定内容:プラント、出荷ポイント

  3. 出荷条件および積載グループに対する出荷ポイントの割当
    Tr-cd OVL2
    IMG:物流管理 → 出荷管理 → 基本出荷機能 → 出荷ポイント/納入ポイント決定 → 割当:出荷ポイント
    設定内容:出荷条件 "01"、積載グループ "0001"、プラント、出荷ポイント

【参考】組織構造と標準CDSの対応

組織構造の概念ERD(図5)にある概念エンティティに対し、図9のとおり標準CDSが用意されています。

図9:組織構造と標準CDSの対応

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