3月31日の旭山桜
我が家のベランダに配置されてから数ヶ月の間全く動きをみせなかったその鉢の蕾は、何日か前から急激に大きく赤く膨らみ始めた。
旭山桜の盆栽だ。
溢れんばかりに張った蕾が開くのはもうすぐだ、そう思ってから数日が経過して花はまだ開かない。
ところで俺にはここ数週、週末毎に探し続けている植物があった。
東海園芸OPTE、ミニプランツシリーズのアデニウムオベスム。
砂漠のバラことアデニウムが200円以下で手に入る夢の様な商品で、俺は一度それを手に取ったことがあった。
1ヶ月程前の風の強い日、南砂町のカインズ。
残り1株のそいつを発見した俺は迷いに迷って買うのをやめた。
前の週にそれなりのサイズのアデニウムを購入済みだったからだ。
で、3日後やっぱり欲しくなった俺は南砂町へ行き、当然そいつはいなかった。
俺は激しく後悔して、ホームセンターを彷徨う日々が始まった。
東海園芸のホームページには取引先が記載されてあり、主だったホームセンターはその中にあった。
だから俺は清澄白河を歩き、千葉ニュータウンを歩き、蕨から川口までを歩いた。
筋肉痛になる程に歩いた。五万歩を越えた日もあった。
巡ったホームセンターは二十軒以上になった。
OPTEのコーナーが設置されている店はいくつもあったが、そこに奴はいなかった。
当然通販も考えたが公式で販売されている物はサイズアップと若干の値上がり(それでも500円!)がされていて、俺はあのサイズを200円で買う事に拘った。交通費と労力は何十倍掛かろうとも。
3月31日日曜日の夕方。
その日は総武線を攻める事にした。
いつも通り数軒空振って、西船橋に降り立った。
最高気温が25℃を越えた日で、我慢出来ず既にビールを摂取してしまっていたから足がだるい。
西船橋駅からの歩道は罠みたいな構造になっていて、二回程行き止まりにぶち当たり引き返す羽目になる。
高速道路を歩道橋で渡った。
30分ほど歩いて到着したのがコーナン市川原木店だった。
広い敷地に広い店内。園芸コーナーはその最深部にあった。正直もう歩きたくない。
それでもいつもの流儀で店内を見て回る。
まずは屋外の草花。それから多肉、サボテン。観葉植物は屋内にあって、塊根植物がある店ならそれも屋内だ。
一周してフォッケア エデュリス 火星人2000円弱に少しだけ後ろ髪を引かれる。
この店にはOPTEコーナーはなさそうだと判断。屋外に出てベンチで一旦休憩した。
休んで少しだけ冷静になった眼で店内を見渡すとまだ確認していないゾーンがある事に気が付いた。
そしてそこに彼等はいた。しかも3鉢も!
俺は心の内で辻仁成の名言(初対面の中山美穂に言ったとされるセリフ。二人は後に結婚、後に離婚する)を呟いた。
手に入れた3鉢の小さなアデニウムは俺のある壮大な計画に利用される事になるがそれはまた別のお話。
家に帰るとまるで祝福するように桜は花を付けていて、俺は祝杯を挙げた。
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