紫いろのまずい果物
むかしむかしのお話
あるところに果物売りの男がいました。
男は奥さんと息子と森の中で暮らしていて毎朝果物を収穫しては
街に出て売り、生計を立てていました。
いつものように街に出て果物を売ろうと
人通りの多い場所を探していましたが
最近になって同じように果物を売っている露天商が増えていることに気が付きます。
それでも果物は人気で、ある程度は売れましたが
以前のように毎日売り切れにはならなくなってきました。
男は考えます
このままではどんどん生活が苦しくなってしまう
明日は森の奥に行きもっと新鮮な果物がないか探してみるか。
翌朝
男はいつもよりも早く起きて森に果物の収穫に向かいました。
いつもなら家からそれほど遠くない場所で収穫をしますが
今日は森の奥へどんどん進みました。
奥へ奥へ進むと崖があり下には川が流れていました
向こう側に行くには人一人が渡れるほどの丸太の橋を渡らなくてはいけません。
男は両手でバランスを取りながら橋を渡りました。
やっとの思いで渡った先は草木が生い茂り誰も入ったことのないような森でした。
しばらく進むと今度はマムシが出てきました。
男は近くの棒を拾い「しっ、しっ」と言ってマムシを追い払いました。
またしばらく進むと今度は大きな水たまりが。
水たまりの中を歩きズボンもびしょびしょです。
やっとの思いで水たまりから出て休んでいると
森の奥の方からオオカミのような声が聞こえてきました。
男は飛び上がり声とは反対側に速足で進みました。
「冗談じゃない、こんな険しい道のり二度とごめんだ!
早く新鮮な果物を見つけて戻ろう
やっぱり明日からはいつもの森で果物を採るぞ」
その時でした
少し先に見たこともない大きな木が無数に立ち並ぶ場所が見えたのです。
「あそこになら何か果物がありそうだ」
男は走って向かいます。
近くで見るとその木のあまりの大きさとキノコのような形で枝と葉が生えている不思議な形に驚きました。
そして枝にはなにやら大きな紫いろの果物が生っていました。
しかし、とてつもなく大きな木のわりに果物は数えるほどしか生っていません。
「こんな大きな木にこれだけ少ししか生っていないなんて
絶対においしい果物に違いない」
そう思った男は大きな木に登り果実を1つもぎ取りほおばりました。
「まずい!まず過ぎる!」
今まで食べたことがないぐらいまずく、言い現わすこともできません。
「これだけ苦労して手に入れたのにこんなにまずいなんて・・・」
男はこれ以上進む気力もなく、そろそろ戻らないと街へ果物を売りに行く時間も無くなるので
まずい果実を1つだけ収穫し、また険しい道のりを戻りました。
やっとの思いで家の近くの森まで戻り、いつもの果物を収穫し街へ出かけました。
男はいつものように道端で果物を並べ道行く人に声をかけます。
あのまずい果実も並べました。
すると1人の老人が立ち止まり
「珍しい紫いろの果物があるな、それは何だい?」と男にたずねました。
果物売りの男は正直に言いました。
「おじいさん、悪いことは言わないからこれは買わないほうがいいよ
渋くて、しょっぱくて、苦くて食べたことのない味がするよ」
すると老人は
「食べたことない味がするのか
ほう、それは興味があるないくらなんだい?」
と興味津々で聞いてきました。
当時リンゴやバナナなど普通の果物はコイン2枚だったので
男は「こんなものコイン1枚でいいよ」と言いました。
老人はコイン1枚を手渡しその場で紫いろの果物をほおばりました。
案の定、老人は1口食べてこう言います
「まずい、まず過ぎる。
長い間生きてきてこんなまずい果物初めて食べたぞ」
「だから言ったじゃないか、お代は返しませんよ」
果物売りの男がそう言うと老人は笑いながら去っていきました。
翌朝、男はいつもの時間に起き近くの森で果物を収穫し
街へ行きました。
もうあんな大変な思いして果物を探すのはごめんだ
なにか新しい売り方を考えよう
そんなことを考えながら準備をしていると
昨日、紫いろのまずい果物を買った老人が
なにやら若い男を連れてこちらに歩いてきました。
文句でも言いに来たのかと思いましたが老人は笑顔でこう言います。
「昨日の紫いろのまずい果物はあるか?実はあの後家に帰ってから
あんなにまずい果物は初めて食べたと家族に話したら
息子がどうしても食べてみたいというので連れてきたんだ」
果物売りの男は正直に言いました。
「あの果物はそれはそれは険しい森の奥にあって採るのも一苦労なんだよ
それに、あんなまずい果物おじいさんぐらいしか買ってくれないから
もう売らないよ」
老人は残念そうな顔をしました。
すると老人の息子が
「果物屋さん、私は父の話を聞きどうしてもその紫いろの果物を
1度食べてみたいのです。
1つコイン3枚で母の分と合わせて2つ購入するので明日どうにか採ってきてくれませんか」
果物売りの男は
あんなまずい果物をどうしても食べたいなんて変わった人がいるもんだなと思いましたが、2つでコイン6枚ならいい儲けになるので
「そこまで言うならわかったよ、明日必ず買いに来てくださいよ」
と答えました。
翌朝
果物売りの男は早起きし険しい森の奥に行き紫いろの果物を収穫しました。
大きな木の上に離れて果物が生っているので2つ採るだけでもやっとです。
街に出て昨日の場所に着くと既に老人とその息子が待っていました。
老人の息子がこちらに駆けてきて
「ちゃんと2つ採ってきてくれたんですね、はいコイン6枚」
といってその場で紫いろの果物をほおばりました。
老人の息子は食べるやいなや興奮した口調で
「本当にまずい!まず過ぎる!こんな果物初めて食べた!」
老人もほおばり言います。
「うーん何度食べてもまずい!早く母さんにも食べさせあげよう」
「だから言ったじゃないか、お代は返しませんよ」
果物売りの男がそう言うと老人とその息子は笑いながら去っていきました。
それを見ていた1人の紳士がこちらに来て
「あの2人が食べていた果物はもう売り切れかい?」
と聞いてきました。
果物売りの男は、もしかすると少し高い値段でもみな食べてみたくて
買ってくれるかもしれないと思い
「はい、今日は売り切れましたが明日また収穫しますよ」
と答えました。
それから男は毎日早く起きて紫いろの果物を収穫し街で売りました。
街では紫いろのまずい果物が噂になっていて今では1つ
コイン5枚で売れています。
しかし採るのが大変で1日2~3個しか収穫できないため
毎日売り切れ状態です。
そんなある日いつものように商売の準備をしていると
丘の上に住む王様が家来たちを連れて男のところへ来ました。
王様は男にこう言います
「紫いろのまずい果物を売っているのは君か?1つ私に売ってくれ」
商売を始める前だったので紫いろの果物はありましたが男は答えます
「いえ、王様に食べていただくようなおいしい果物ではありませんので売れません
他においしい果物がありますので、どうかそれをお納めください」
「いや、紫いろの果物を売ってほしいんだどんな味がするのだ?」
王様が訪ねます。
「渋くて、しょっぱくて、苦くて、言葉にできないくらいまずいです」
「ますます食べてみたいので売ってくれ、この紫いろの果物だな」
王様はコイン5枚を男に手渡すと果物を手に取り食べてしまいました。
果物売りの男は
こんなまずい果物を王様に食べさせて牢屋にでも入れられたら大変だと
恐る恐る王様の顔を見ました。
王様は1口食べて言いました。
「今までいろいろな国の食べ物を食べてきたが、こんな味は初めてだ」
男はだからいったじゃないかと思い、どうやって逃げようか考えていたら
王様が「果物売りの男!」と大きな声を出したので
男はビクっとなり「申し訳ございません」と小さな声で言いました。
王様は続けます
「これはまずいのではなく食べたことがないぐらい"おいしい"のだ
今まで世界中のおいしいものを食べてきた私が言うのだから間違いない」
「これは我が国を代表する果物になるぞ
果物売りの男、この果物の収穫場所を教えてはもらえないだろうか?
もちろん教えてくれたら君と家族には一生裕福な生活を約束する」
果物売りの男は何が起きてるかさっぱりわかりませんでしたが
王様には逆らえないので紫いろの果物の収穫場所を王様と家来に教えました。
それから男には街で一番大きな家と
果物を売って稼ぐ何十倍ものお金が毎月与えられました。
王様の言った通り紫いろの果物はたちまち有名になりました。
しかし収穫できる数は少なかったため非常に貴重で高価な果物として
世界中のお金持ちがこぞって欲しがりました。
それから数年経ったある日
男の息子が言いました
「お父さんってあのおいしい紫いろの果物の第一発見者なんでしょ?
僕ずっと食べてみたかったんだよね、でも貴重でなかなか手に入らないんだよね?」
男は言います
「まだあるかわからないけど収穫できる場所は知っているぞ
ただこんなこと言うのもなんだけど、あの果物 すごくまずいんだよ」
息子は笑い転げます
「世界中の人がおいしいって言ってる果物がまずいだなんて
お父さん変だね」
翌朝男は朝早く息子を起こして言います。
「紫いろの果物を探しに行くぞ、かなり険しい道のりだけど
お前も大きくなったし、なにより食べてみたいんだろ?」
息子は喜んで支度を始めました。
2人は以前住んでいた家の近くの森へ行き
森の奥へどんどん進みました。
細い木の橋を渡り、マムシを追い払い、大きな水たまりの中を歩き
やっとの思いで見たこともない大きな木が無数に立ち並ぶ場所に到着しました。
男はその木に登り紫いろの果物を1つもぎ取り息子に渡しました。
息子は1口ほおばり言います
「まずい!まず過ぎる!
なんでこんなまずい果物をみんな高いお金出して食べたがるんだろう?」
おしまし。
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私の次書く意欲につながります+【あとがき】も見れます。
あとがき
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