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幸せな猟師と不幸な猟師

ある国にそれはそれは腕のいい猟師の男がいました。
猟師の男は奥さんと3歳の息子と小さな家で暮らしていました。

男の猟銃の腕前は相当なもので
森に入れば鳥やイノシシ、大きなトラだって百発百中で仕留めてしまいます。
ただ少し怠け者なので数日に一度だけ森に入り1匹だけ仕留めると
そそくさと家へ帰るのでした。

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仕留めた獲物は自分と家族が数日間食べれる分だけ切り
余ったものは酒やパンなどと交換しました。
食料がなくなるとまた猟に出掛けるといった生活です。

そんな生活なので時間はたっぷりとあります。
毎日昼に起き、息子とキャッチボールをしたり
奥さんとカードゲームをしたり家族みんなでピクニックに出かけたりして
幸せに暮らしていました。

ある日いつものように家族みんでピクニックをしていると
町一番のお金持ち家族がどこかへ出かけるところに出くわしました。

お金持ち家族は豪華な服を着て自動車に乗り
男たちの目の前を颯爽と通り過ぎていきました。

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ふと奥さんと息子に目をやると
2人ともお金持ち家族をうらやましそうに見ているような気がしました。

猟師の男は言います。
「2人とも大きな家に住んで豪華な服を着るような生活をしたいのかい?」

奥さんは首を振り
「いいえ、私は家族3人で幸せに暮らせればそれでいいわ」と答えました。

息子は男の問いかけも耳に入っていないようで
初めて見た自動車をただ目をキラキラさせて見ていました。

猟師の男は今の生活で十分幸せでしたが
お金持ちになりたくないわけではありません。
家族のあのうらやましそうな目を見て決心します。

よし、お金持ちになって家族を喜ばせてやろうじゃないか!

翌日から男は毎日森に猟に出ていきました。
もともと猟銃の腕前は相当なものなので毎日たくさんの
動物を仕留めてきます。

自分たちだけでは到底食べきれないので町の人に売って回りました。
そのうち夜も猟に出かけるようになり
どんどんと仕留めてくる量が増えていき
自分の町だけでは売り切れなくなり隣町にも売りに出ていきました。

売れば売るほどお金になりましたが
朝も夜も猟に出て昼に町に売りに行くのを1人でやるには限界がありました。

そこで男は町に売りに行ってくれる商人を雇い自分は猟に専念しました。
商人に給料を払わなければいけないため
寝る間も惜しんで猟に出かけました。

もっともっとたくさんの獲物を仕留めるにはどうしらいいか考え
猟師を雇うことを思いつきます

町の若者数人を集め給料を払うと説得し猟へ向かいます。
しかし若者たちは猟の経験がないため、なかなか獲物を仕留められません。
猟師の男は若者たちに明日からは毎朝早く来るように伝え
翌日から猟に向かう前に猟銃の使い方や動物の仕留め方を教えました。

そのころには男はほとんど家に帰らず森の小屋で寝泊まりし
朝早くから夜遅くまで働くようになり
猟師と商人もどんどん雇い、従業員も増えていきました。

ある日のこと
雇っていた商人の1人が他の商人の売上も全て持って逃げてしまいました。
このまま自分1人だけでは増えていく従業員を管理できないと思い
男は会社を立て猟師や商人を管理する人を雇います。

男の会社の売上はどんどん増えていき
家族にも大きな家や豪華な服、専用の自動車を買い与えることができました。

しかし仕事が忙しく、ほとんど家へも帰れていなかったので
仕事をしなくても一生裕福に暮らせるぐらいのお金を稼ごうと考え始めるようになります。

そして男は牧場を作ろうと思いつきます。
鳥やイノシシ、馬やブタを育てて売れば猟に出るよりも
確実にたくさんの動物を手に入れることができるからです。

男の考えは大当たりで、猟で動物を捕まえるよりも何十倍も
稼ぐことができました。

そのころには牧場も数十経営していて
都会のレストランや市場へ大量に動物を売るようになっていました。

男の仕事内容も変わり
今ではレストラン経営者や市場を管理する政治家などとの交渉が仕事です。

都会に大きな会社も建て従業員も数百人になり
一生裕福な暮らしができるだけのお金も手に入りました。

「もう十分お金持ちになったな」
男は信頼できる従業員に仕事を譲り、愛する家族のもとへ帰ります。

これからは毎日昼に起き、息子とキャッチボールをしたり
奥さんとカードゲームをしたり
家族みんなでピクニックに出かけたりして幸せに暮らせる。

お金持ちになろうと決心してから20年が経ってしまっていました。

家に帰ると奥さんと息子はずっと家にいなかった男に愛想を尽かし
出て行ってしまっていました。

広い家の中には
野球ボール、カード、ピクニックシートだけが残されていたそうです。

おしまし。

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あとがき

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