「ノウアスフィアの青月」について/各務チヒロの絆ストーリー四話の解釈

 伊角です。
 冬コミで出した本の話を残しておきます。


「ノウアスフィアの青月」について

 読み方は「せいげつ」でいいです。

 雑に言うとテーマは「大人の肖像」です。
 「大人っぽい」と言われて久しい各務チヒロですが、彼女は紛れも無い子供です。かといって、彼女が大人に一番近しいのもおそらく事実です。
 人は歳を重ねる過程で、大人と子供の違いについて大なり小なり考えるものだと思いますとはいえその変化は不可逆的で、かつ選択の余地もありません。大人に近づくにつれ、その差の曖昧さがより強調されるよなと思い、各務チヒロもそれに悩む時が来るだろうと思いました。
 個人的に、大人への進歩というのはそこに近づくにつれて歩みが遅くなるものだと思っています。経済学的なお話ですが、限界効用逓減の法則というものをグラフにしたのが形状としてはよく似ていると思います。青年期にどれだけ進歩しても届かないものであると。
 対して、立場や責任と言うものはそういった「大人っぽさ」に加算的に作用するものだと思っています。「立場が人を大人にする」というのは前述の漸近的な進みに対して半ばテコ入れのような形で作用するために大人の構成要件として大きな割合を果たしている気がします。理解しやすい言葉選びをしておりませんので分からなかったらスルーしてください。
 

 今回のお話は、「未熟さの再演と克服」で描きました。これは後程語る絆ストーリー四話の個人的な解釈との対比です。
 ホドを敵として出したことに大した理由はありませんが、彼女が明確に大人になるストーリーを書きたいと思い、「何を以て大人とするか」と考えた時、絆ストーリーとの対比にするのが最も説得力が強く、且つ私も納得できる形だったので。
 先に語ってしまうと、個人的にチヒロの絆ストーリー四話は「未熟さの露呈と保留」であると考えています。なので、その保留した未熟さとここで再び向き合ってもらい、克服することで大人への進歩に変えてもらおうと。
 その上で誤解を恐れずに言うと、一章から三章に大した意味はありません。状況を作るのに必要な上がり下がりを整えたに過ぎない気もします。私の未熟さ故です。
 あとがきでもちらっと書きましたが、11月中旬に思い出したあるセリフと、それに対するある返答のためにすべての物語を作り上げました。これは今回のお話を書く上でのモチベーションであり、目的であり、結論であり、絆ストーリーに対する私の解釈と返答であり、今回のお話の全てです。

タイトルについて

「ノウアスフィアの青月」は、おおむね「ノウアスフィア」と「青月」に分解されるとみてもらって構いません。
ノウアスフィアは、ざっくりと精神圏、あるいは観念のことを指します。厳密な話をすると実は私もよく分かってないので、超ざっくりと「頭の中」くらいに今回の作品中では解釈しています。言語そのもの的には絶対違うので誤解なきよう。
 こっちはチヒロのガチャタイトル「大聖堂からバザールにかけて」の元ネタになったと言われるOSS開発にまつわる書籍、「伽藍とバザール」の次作、「ノウアスフィアの開墾」からとってきています。先に述べた通り、この話は「各務チヒロが未熟さと再び向き合う話」です。その「再び」の要素を強く意識して、ガチャタイトルから繋げるように取りました。

「青月」は、まぁそのまま青色の月と、ブルームーンからとってきています。ブルームーンは単純に青く光る月ともう一つ、「ひと月に2度満月が起こるとき、その2度目」という定義もなされています。作中では先生のことを月と形容します。実際に書きましたが、彼の持つ優しさというものは月の光のように、過度に温めるものでも冷やすものでもない、けれど確かに足下を照らすようなものだと思っています。なので「2度目」……チヒロの立場とか、いろんな「再び」という要素を詰め込んでのブルームーンです。
 まぁそれも踏まえて「各務チヒロの頭の中で起こる2度目の葛藤、先生との対話」みたいな意味も踏まえて「ノウアスフィアの青月=観念の中の
ブルームーン」的なアレもあります。

表紙イラストの話

 冬コミに出ると決まった時から……というのは普通に建前で、「各務チヒロで小説本作るなら」をぼんやりと妄想してた時から表紙イラストはflatし先生にお願いしたいなと思ってました。片思いが長すぎる。
 しかしながらflatし先生の描かれる各務チヒロは顔の美しさがもうすんごいので、この方のイラストを表紙に小説書けたらめっちゃ楽しいだろうなと思っていました。夢が叶って最高です。
 依頼をさせていただく前から構図に思いを馳せるも何も思いつかず、プロローグをお渡しして「これを参考に……」みたいなことを言ったら最of高のラフが返ってきて絶叫しました。「月とチヒロの顔、あと地面に足が着いている様子を全部一枚に入れて欲しくて……」というマジの無茶ぶりを叶えていただいた先生には本当に頭が上がりません。それから小物追加の無茶ぶりを叶えていただいたり、先生の方から提案もしていただいたりと本当に真摯にお仕事をしていただきました。本当に足向けて寝れません。
 本当にお世話になりました。初めてのイラスト依頼でしたが、flatし先生にお願いして本当に良かったです。


各務チヒロの絆ストーリー四話の解釈

 今回、本にして50000字も書くにあたって大きく骨組みに関与したのは絆ストーリー四話「ブラック&ホワイト」です。

 各務チヒロが「大人っぽい」ことに疑いの余地はありません。
 ですが、同時に彼女は大人ではありません。
 そのことをこの話では表現してくれていると思います。

 ざっくり解釈すると、このお話はチヒロにとっての「未熟さの露呈と保留」であると思っています。なぜそう思ったかは絆ストーリーを読んでもらえれば分かるかと。「保留」に関しては、先生の言葉の「次は、ちゃんとするんでしょ?」から解釈しました。「次」という文言が、「今」はまだその未熟さを許容している、肯定していると思うので。この先生のセリフは、彼女に今すぐ大人になることを強要していません。故に「保留」という言葉を使いました。

 しかし、結局、「大人」としてのエッセンスは各務チヒロが元から、強いて言うなら絆ストーリー4話からずっと持っていると私は思っています。先生の「次は、ちゃんとするんでしょ?」という言葉が同じようにその全てだと。
 それは作中でも語ったように、行き場の無いチヒロの責任を預かるものでもありましたが、同時に各務チヒロは既に「ちゃんとできる」だけの何かを持っているが故の言葉だと思っています。先生の、生徒に対するにはひどく抽象的な声掛けも、既に持っているから何かを言う必要もないのだと考えました。

結び

 ほとんど適当でしたがこれで終わりです。普通に語れることがまだいくらかありますが、一番書きたかったことだけ伝えておけばいいやと思ったのでこれで出します。
 お買い上げいただいた方、ありがとうございました。
 私の作品を大切にしてくださった方が、どうか同じように大切にされるよう祈っております。
 それでは。

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