イラストサイト 値段を公開することの是非
イラストレーターさんが仕事獲得のために運営しているウェブサイトで、値段表を載せることがいいことなのかどうか、について。
一般人向けの商売では、値段が載っていないとどうしようもないところがあります。例えば私たちがAmazonで日用品を買うとき、商品を見て、値段を見て、その場で納得してショッピングカートに入れます。この一連の流れをスムーズにさせるのが一般人向け商売の要なので、仮に一般人のみを対象にイラスト制作を受注するウェブサイトならば、値段は載せたほうが当然いいでしょう(ほとんどないとは思いますが)。
ですが、イラストレーターさんの取引は基本的には、制作会社や出版社を相手にしたもの(いわゆるB to B)です。
そうした取引においては、顧客は私たちがAmazonで日用品を買うような動きはしません。顧客がイラストレーターのウェブサイトを見にきているのは、気に入ったら即ポチするためではなく、情報を集め、検討するためです。このあたりはいしつく!マガジン2章でもお伝えしたとおりです。
さて、世間にはイラスト制作の他にも様々のB to Bサービスがあります。医療機関向けの電子カルテシステム、社員教育コンサルティング、飲食店向けの大型什器リース、などなど。
そうしたサービスのウェブサイトの多くは、おおっぴらに値段を掲げることはあまりしません。
理由はいくつか考えられます。
ひとつは、必要がない。顧客はその場で購入に至るわけではありません。申し込みフォームを備えていたとしても、正式受注に至るのは相談や見積を交わした後です。値段はその間に交渉すればいいので、おおっぴらに値段を書いていなくても成り立ちます。
ふたつめは、難しい。顧客の状況が注文ごとにまちまちな商売では、値段を一律に決めるのはなかなかに不毛です。1件〇〇円と固定して掲示してしまったら、もし仮に要望がやたらに多くても必ずその値段でやらざるを得なくなります。だから見積という行為が存在します。固定の金額は無いとも言えるのです。
みっつめは、顧客は安さを求めているわけではないから。値段をおおっぴらに掲げると、どうしても値段で比較されがちです。一般消費者は似たような商品なら1円でも安い方を求めますが、B to Bではそうとは限りません。顧客は、似たような商品なら少しくらい値段が高くても信頼できるベンダーから買うという特徴があります。なので売る側としては、ウェブサイトのような表に見える場所では、値段で比較されることを避け、サービスのメリットや実績や信頼性を知ってもらうことに注力したほうがいいのです。
ふりかえって、いま挙げた3つの理由は、イラストレーターさんのウェブサイトにもそのまま当てはめられると思っています。
イラスト制作の価格も他の多くのB to Bサービスのように固定の金額がありませんが、最低ラインの価格とか、この時はこんな感じでした、という参考価格は挙げられるはずです。値段を挙げるならそのように少しボカし、なおかつ公開の場(ウェブページは公開の場です)ではなく特定の人にだけ知らせるのが良いでしょう。
依頼側はたしかに値段を知りたいでしょうが、安ければいいわけではなく、要求にどれほど応えてもらえるか、責任持ってミッションを遂行してもらえるかのほうがはるかに気になるところです。
値段を公開して安さで選んでもらおうとするのは賢い戦略ではありません。もしも「1円でも安いイラストレーターに頼みたい」という仕事があったとしたら、それはかなりヤバい仕事であるはずです。
結論 : 世間の他のB to Bサービスのように、資料やポートフォリオへの掲載という形で参考価格として載せておくくらいが、適当な落とし所なのではと思います。
いしつく!マガジンでは、イラストレーターさんのための仕事を取れるウェブサイトの作り方をお伝えしています。今回は本編で省略した部分を補遺として投稿しました。