工務店女子が伝えたい家づくり
http://www.bionet.jp/2020/06/03/junban/
住まいマガジン びお にて掲載済み
現在の暮らしには欠かせない「衣・食・住」の住に携わる私たちの仕事ですが、このところ、衣・食と同じくして、住まいも色々なアプローチの方法があるようです。
ECサイトでお取り寄せ、食材や、お洋服もネット通販で世界中のどんなものでも手に入る時代です。
多様化の波は家づくりの分野にも押し寄せています。情報は昔のように雑誌や本だけでなくネット上に溢れ、こぼれ落ちている感じです。
そんな入口のところでは、特にビジュアルに訴えかけたものは、人の目に留まりやすいのは確かですので「なんとなく好き」だと思われなければ、この先工務店と住まい手とが繋がる手段は乏しくなる一方です。
家づくりにおいてビジュアルを大きく左右するもの。
ひとつは外観
もうひとつはインテリア
家づくりについて気になり出した方が、ふ町を見渡してみて、自分はこんな感じの家が好きだから、こういう外観にして欲しいというのが要望であったり、インテリアはヨーロッパのどこかの街のようなものがいいですと言われたこともあります。
それは悪いことではないと思います。好きな服を着て自分らしく暮らすのと同じ感覚だと思いますので、自分らしさを大切にされていると言えると思います。
でも、もう1度考慮していただくことは、一生この服しか着られないとしても後悔しないのでしたら、それは間違っていないと思います。
住む人・家を建てる人が自分で決めて、そこでの暮らしに幸せを感じられることが何より大切です。
その判断、難しいから悩んでいるんです!って聞こえてきそうです。
私は人間も動物だかから「好き」か「嫌い」を感覚で判断する能力を信じています。感覚は鍛えることで発達するものです。
デザインを考える前に、それを作る材料についてもっと興味を持ってもらいたいと思います。そうしたら、別の方向から見えてくるものがあるから。
自然素材の代表格「木」について、身の回りにある木製(本物の木だと思っていたものがそうではない場合があるので注意)のものを探してみてください。
ありますか?
町の工務店では、この本物の木を使って建物づくりをしている会社も多いと思いますが、大規模な建築を除いても、実際に人が触れる部分に木を使っている家づくりが多いわけではありません。
それは、どうしてでしょう?
理由の一つに、住み手が「木」の性質をちゃんと理解できていないことがあります。木は伸び縮みしたり、少しは反ったり返したり、建具(扉)も住みだしてから動きが悪くなったりもあり得ます。私も、クライアントとのお話中にも、それは完璧に抑えることはほぼ不可能ではないかと思いますと伝えていますし、その際は「自分の家や祖父母の家でも経験しているし、わかります」と言われる方が多いです。何十年という家の歴史の中で、木製のものは手入れをして調整をしながらお付き合いしていくものです。
ここで「実家や祖父母の家での経験」が、その人が判断するためにとても大きな影響を与えていることが分かります。そいうい経験がなくとも、自然にふれる機会が多かったという人、自分でDIYやものづくりをすることが好きな人も、同じような感覚をもっている人が多い気がしています。
長い年月を共に暮らす家だから、肌に触れる衣服のように、良いものを見て、触って暮らせることが人に与える影響って大きいと思いますが、なにより自分や家族が好きなものに囲まれて暮らすことが何よりまずは大切なことであり、そのあとにくっついてくる、お手入れや使い方などを受け入れる。
心配性な人は、順番が逆になってしまうんですよね。心配になってカタログに載っている商品を組み合わせて家づくりをすることになるのは、その一例だと思います。先に言ったような木の特徴を理解せずに使用した結果、木と木の隙間ができたり、動きが悪くなったりしたときに、こんな筈では無かったと心配になり、時にはクレームとして扱わざるを得ないこともあるでしょう。家としては問題ないことでも、壊して作り直したりする義務が工務店に課せられるとしたら、会社はつぶれてしまいまう事態になるかもしれません。
そうした行き違いからクレームとなることを避けるために、打開策として工業製品を使っている物件もよく見ます。こちらの素材を使うこと自体が悪いわけではありません。工事する側からしたら、プリントされた木目模様は安価で、施工者による出来不出来も少ないので一定数同じクオリティで施工可能です。
では、つまりは何を根拠に決めたらいいのかと言ったら、年月を経て人も家も年を重ねたときに見て、古くなったけれど良い年のとり方をしたなと思えるものどういうものなのかを想像できる人なのかどうか?
感性で見極める人もいるとは思うけれど、素材のもつ力については少しばかり知識や経験があれば誰もが簡単に理解できる部分です。そして知識や経験をもっていれば、何も心配なんていりません。
近くにいる工務店のひとたちや職人さんたちが、ちゃんと考えて素材を使ってくれますよ。その建物で育まれた感性は、次の世代にも必ず受け継がれていきます。脈々とつづいてきたものを、未来の子供たちにも伝えていくことは、私たち大人の役割だと思います。