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【投資】個人投資家 vs. 機関投資家

金融市場、特に株式市場は、そこに参加する人たちという点で非常に多様な市場です。その参加者の代表的な例として、「機関投資家」と言われる人たち。よく"プロ"と呼ばれる人たちですね。あと私たちのような「個人投資家」。個人投資家であっても株式投資だけで生計を立てている人たちもいるので、一概に個人投資家を、機関投資家の"プロ"と対比させて、"アマ"とは呼びづらいですが、まあそういった比較をされることは多いかと思います。

同じ株式市場への参加者として、「個人投資家は、規模・情報量に圧倒的に勝る機関投資家に勝てるのか?」というのは時々耳にする議論です。資産運用会社(機関投資家)の一員として、多くの機関投資家(年金、金融機関)を見てきた自身の結論としては、「同じ場に参加はしているが、同じルールで戦ってはいない」と考えてます。例えていうなら(この例えが適切かどうかは微妙ですが…)「同じ校庭で遊んではいるが、鬼ごっこをして遊んでいるグループもいれば、ドッジボールをしているグループもいる。また1人で地味に砂遊びや鉄棒をしている人たちもいる。」という感じでしょうか。校庭利用に関するルール(市場参加者全員が守らないといけないルール)を遵守しつつ、それぞれがそれぞれの遊びのルールに従って遊んでいる…というイメージです。

では、もう少し具体的に「機関投資家」「個人投資家」について議論しつつ、個人投資家としてどう株式市場に向き合ったらいいのかというのを考えてみたいと思います。


機関投資家とは?

そもそも機関投資家とはどういう人たちでしょうか?野村證券のHPに掲載されている証券用語解説集から引用すると:
"顧客から拠出された資金を運用・管理する法人投資家の総称。
一般に機関投資家と呼ばれるグループをいくつか挙げると、「投資顧問会社」、「生命保険会社」、「損害保険会社」、「信託銀行」、「投資信託会社」、「年金基金」などが主なものである。
生命保険会社や損害保険会社であれば、加入者の保険料収入であり、投資信託会社であれば、投資信託を購入した人たちの提供した資金が元手になる。機関投資家は大量の資金をまとめて運用するので、市場に与える影響も大きいものがある。"

機関投資家の中でも、金融機関のトレーダーとして短期での売買を目的として参加している方もいれば、年金基金やそこから運用を受託される投資顧問会社、信託銀行などのように、3年程度の投資ホライズンで運用成績が評価される方もいます。現在約190兆円の資産を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は世界最大の機関投資家と言われています。

機関投資家の特徴

私自身は、資産運用会社(ここで言うところの"投資顧問会社")の営業として、主に銀行、年金基金などの機関投資家の方々をカバーさせていただいてきましたが、その中で、個人投資家との違いという点で以下の特徴を見てきました(ここは個人の主観、あとちょっとした愚痴も含まれます…)。

  • 採用する投資顧問会社の運用成績の評価はだいたい3年程度(年々短くなってきた印象ですが)ですが、四半期毎(3ヶ月毎)に運用報告会があり、直近3ヶ月の運用の巧拙を説明しないといけない。

    • なので、「うちは長期運用なので、この3ヶ月は何もしてません。なんならそれくらいの短期の成績は気にしてません。」という説明は、例えそれが本当であっても言いづらい。なんか、説明のための材料を用意しないといけない。

  • 機関投資家の運用窓口の方もサラリーマン。上役や他部署への説明責任がある。

    • 「機関投資家」と聞くと、運用のプロなんだな…というイメージですが、まあ普通のサラリーマンです。もちろんそういった方々に採用されている投資顧問会社の運用担当者は、運用成績で自身の評価が決まるので、本当の意味で"プロ"の方もいらっしゃいます。

    • なので、「機関投資家は情報量に勝る」と言いますが、その情報がどれだけ運用のためのものなのか、説明のためのものなのか、微妙だなって思ったりします。

  • 結局は他人のお金である。例えば前述の世界最大の機関投資家であるGPIFも要は国民のための運用、つまり最終的な受益者は日本国民です。また企業の年金基金も、その運用担当者のお金ではなく、彼/彼女を含む従業員のお金です。また銀行の運用の裏には預金者がいます。

    • 他人のお金だから無責任でいいのか?というこはなく、運用を任されたものとして受託者責任のもと、みな真摯に運用にあたってはいるのですが、他人のお金だからこそ、自由にしていいということはなく(一部、最初に「自由にやります」というのが許されている人たち以外は)、一定のルール、ガイドラインの元で運用を行なっています。

    • まあ機関投資家といえども、結構ガチガチなルールのもとで運用を行い、一定の枠内で評価されています。

それに対して個人投資家の特徴は?

そんな機関投資家の特徴に対して、個人投資家はどうでしょうか?

  • 投資ホライズン(運用成績の評価期間)は3年ってことはなく、残りの人生にあわせてもっと長いはずです。もちろん1年、1年、今年はどうだったかなと振り返ることはありますが、今後10年、20年単位、若い世代であれば30年とか40年単位にはなろうかと思います。

    • もちろん投資目的によってもっと短いケースもあります。例えば子供の教育資金用の運用、住宅の頭金のための運用は、それが発生すると思われる時までが運用期間となります。

  • 自身は本業はサラリーマン、という方も多いでしょう。でもサラリーマンとして運用をやっているわけではなく、運用はあくまでも個人の活動であり、(家族への説明責任はあるかもしれませんが…)誰かの顔色を伺いながら運用することはありません。

  • そして運用するのは他人のお金ではなく、自分のお金です。市場に参加するために遵守しないといけないルール(例えばインサイダー取引はしないとか)さえ守れば、あとは自分が好きなように運用すればOKです。

そういった意味で、機関投資家の運用と個人投資家の運用は全くその特徴が違います。「俺も機関投資家と同じように運用するぞ」と同じ土俵に上がらない限りは、全く別のゲームをやっているというのが僕の考えです。

では個人投資家として何に気を付けるべきか?

これまで議論した機関投資家と個人投資家の違いを踏まえつつ、では私個人として自身の運用を行う際に気をつけてきたこと、特に情報という観点で以下にまとめます。なお私が勤めていた資産運用会社は、社内のルール(例えばお客様の口座で取引されている最中の銘柄は買えない、運用会議の場で取り上げられた銘柄はその後一定期間買えない、など)さえ遵守すれば、個人の口座でも株取引は可能でした。どうやら厳しい金融機関では禁止されているところもあるようなので、そこは良かったなと思ってます。

  • 日々のニュースに左右されない。自分の投資ホライズンにあった情報収集をする。

    • どうしてもニュース、新聞は毎日送り届けないといけないものなので、議論が短期的になりがちです。やれ、為替がどうとか、ダウが急落だとか。ひどい時には、不安を煽るかのように、急落している部分だけのチャートを抜き出して記事にしてたり(横軸伸ばすと、たいして急落してなかったり…)。

    • もし個人投資家として、もっと投資ホライズンが長いのであれば、より長期にわたって影響がありそうな記事、例えば米国の利上げの話とか、人口動態的な話とか。そういったものをより重視する。

    • 私個人としては、人口動態とか、産業の構造変化とか、長期趨勢的に起こっていることをベースに考えるのが好きで、そういったニュースや情報は特に気にするようにしています。

    • 究極、「ほったらかし投資」をするなら、もうニュースも見なくていいくらいですかね(笑)そういった意味では、機関投資家との情報量の違いは、あまり個人投資家にとってはディスアドバンテージにはならないと思ってます。

  • 読んでもらわないといけないからか、良い事よりも悪い事がニュースになりがち。

    • 全体的にマイナス面を取り上げる記事が多いので、そこはバランス取るようにしています。ポジティブな記事を見つけたら、意識して見るようにしています(ネガティブなものは勝手に目に入るので…)。

  • Fact(事実)とOpinion(見解)を混同しない。

    • これは特に注意しています。ニュースや記事には、Fact(事実)とOpinion(見解)が混在しているものが多いです。明確にOpinion(見解)は述べられてなくても、記者の書き方でネガティブな感じで書かれていたり、ポジティブな感じで書かれていたり。できるだけOpinion(見解)ではなく、Fact(事実)は何なのか?というのを意識しています。

今後、別の機会に話題にできればと思ってますが、日本株市場は、機関投資家が「小さすぎて買えない」時価総額が小さい企業がたくさんあります。個人投資家にとっては、そういった銘柄群へのアクセスも魅力です(ただし、なぜそれらの銘柄の時価総額が小さいのか、ちゃんと吟味する必要はありますが)。

いろいろと書きましたが、要は、個人投資家は機関投資家に比べて優劣があるわけではなく、それぞれのルールで別のゲーム、競技をしているので、あまり気にしないのがいいかなと思ってます。

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