【投資】豊かさを測る指標(5) - 日本経済新聞
シリーズ「豊かさを測る指標」、第5回目は"集計ルールが抱える課題"についてです。前回4回目では社会の豊かさを測る上での課題の1つ目について議論されましたが、今回は2つ目に課題、「集計ルール」についてです。
(5)集計ルールが抱える課題
社会の豊かさを測る上でに課題1つ目は"厚生経済学の情報的基礎"という、社会の豊かさを評価する上で、その基礎となる個人の福祉(幸福)をどのような情報に基づいて評価するのかというものでした。そして2つ目の課題が、生活水準の分布を評価するための「集計ルール」に関する問題です。
個人間比較が可能となる生活水準の指標が得られたとしても、各人の生活水準の分布をどのように集計・評価すべきかという点は明らかではない。
これまでこの分布(格差)はトリクルダウン仮説によって黙認されてきた。
トリクルダウン仮説とは、成長段階では新興層への富の蓄積が起こり格差は拡大するものの、成熟段階では全階層に豊かさが行き渡り格差は縮小するというもの。
しかし、英国の経済学者アンソニー・アトキンソンらの実証研究によって、トリクルダウン仮説は否定。近年、格差とグローバル化がもたらす社会問題への関心が高まっている。
理論的には、人々の所得や暮らしぶりの分布を集計し、社会の豊かさを測る方法は、貧困や格差を的確に反映するものでなければならない。しかし、従来の分析では、集計ルールが極端に限定され、望ましい評価法はないという結果に終わっていた。
筆者は東京理科大学の中田里志准教授と共同で、個人間比較に関する奇妙な条件を外し、貧困と格差を評価する性能の良い集計ルールを数学的な手法を用いて解明、さまざまな評価方法を含む柔軟な枠組みを発見することにつながった。
当方、実は"分布"という言葉・概念が好きです。物事には何事も分布という概念が存在します。例えば、金融で言うなら株の期待値も確率分布に基づくものであり、平均値は確かに1つですが、想定される結果にはバラツキ、つまり分布があります。またもうちょっとわかりやすい事例で言えば、年収の分布。ご存知の通り年収分布は平均を中心に左右対称の正規分布ではなく、最頻層が左側に偏った分布になっており、ごく少数の高額所得者によって影響をうける平均値(右側にシフト)とは異なる様相となっています。
物事をある1つの指標(平均とか)で評価・判断するのではなく、その事象・結果の分布がどうなっているのか、物事にはなんでもバラツキがあると思って評価しないといけないなと常日頃から思っているところです。
あっ、ちょっと脱線しましたね(笑)
先々の展開が楽しみになったきた
最後の段落で筆者とその共同研究者が、貧困と格差を評価する性能の良い集計ルールを数学的な手法で解明したとあり、このシリーズの今後の展開がちょっと楽しみになってきました。のちの議論でそれが紹介されていくと期待しています。