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消 息  宮川清平氏より

 越後タイムス再刊の趣野島
壽平氏より拜承御送付に預り
毎週樂しみつゝ拜讀昔を懐し
み居り候。何時も乍らの名編
輯振り、紙面の充實、地方文
化の開發、解說、鄕土の香り
豊かにして柏崎市の再建眼の
あたりに見ゆる有様に候。
 往年の寄稿家菊池義夫君は
今春突然腦溢血にて倒れ申候
春秋に富む萬年靑年菊池君の
死は、越後タイムス讀者も惜
しまれる事と存じ候。小生昭
和十三年十月東北振興パルプ
石巻工場の建設に當り、王子
製紙より轉勤を命ぜられ爾來
石巻に居する事八年に及び條
石巻は日本に於ても食糧に最
も惠まれたる土地として羨望
の土地たりしも、現知事の政
治の貧困と云ふか、馬鹿正直
と云ふか、或は他に原因ある
か知らざるも六月十二日より
八月末迄米換算一日一人當り
一合〇五と云ふ主食配給に顚
落致し候。漸く九月一日より
米換算一人一日一合八勺に浮
び上り候へ共、主食は勿論野
菜、魚の闇値は驚くべきもの
にて、之は漁港石巻に於て船
員の値を惜しまざる買漁りに
よるものに有之候。
 當社は終戰後未晒パルプ及
最近塵紙製造中なるも、御多
聞に洩れず石炭不足により平
常操業の五分の一に有之候。
勞働組合その他終戰後世間並
の騒ぎは有之候へ共、今度燃
料節約のため電氣ボイラー完
成すると共に、石炭、亜炭の
蒐集に全力を盡せるため、最
近漸く立直りに向ひ候。
 石巻には現在新聞二つ有之
一つは自由黨系、一つはいは
ゆる地方新聞にて至つて低級
タイムスの如き文化面の開拓
紙は無之候。野島氏は盛岡精
器、岩手新報、岩手タイムス
の社長として東北に活躍、一
度氏を訪問せるに自宅を事務
室とし、卓上電話二つ、小生
訪問の時は右手に受話器、左
手に送話器の多忙振りにて、
然もその居室には氏の藝術に
對する理解多き裝飾品あり、
その人となりを察せられ候。
 本年は豊作なるも經濟界は
益々多事、兌換券發行高は空
前の六一八億を新聞は報じ居
り候。獨逸は第一次歐洲戰後
三年目にあの有名なインフレ
に襲はれた由、日本も來年は
正に足掛け三年、然るに石橋
藏相は至極樂觀論を放送しつ
ゝあり、インフレ對策に成算
ありてか、夫ともヂエスチア
か、前藏相澁澤氏とはその行
き方は正に反對にて、或は新
圓に對しある手を打つ考へか
何れにしても我々國民、特に
經濟人は政府の行ふ施策の良
否に格段の注意が必要なるを
痛感致し居り候。
 駄文御許し被下度、今夜燃
料獲得に出張の前、久々振り
にて御たより申上げ候に付御
判讀願上候。敬具
(九月十八日)
(越後タイムス 昭和二十一年十月六日 第一四七七號 一面より)



#越後タイムス #昭和二十一年 #東北振興パルプ #野島壽平




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