Photo by hondashizumaru 消 息 宮川清平氏より 30 一錢亭文庫 / 菊池 與志夫 2022年11月1日 07:32 越後タイムス再刊の趣野島壽平氏より拜承御送付に預り毎週樂しみつゝ拜讀昔を懐しみ居り候。何時も乍らの名編輯振り、紙面の充實、地方文化の開發、解說、鄕土の香り豊かにして柏崎市の再建眼のあたりに見ゆる有様に候。 往年の寄稿家菊池義夫君は今春突然腦溢血にて倒れ申候春秋に富む萬年靑年菊池君の死は、越後タイムス讀者も惜しまれる事と存じ候。小生昭和十三年十月東北振興パルプ石巻工場の建設に當り、王子製紙より轉勤を命ぜられ爾來石巻に居する事八年に及び條石巻は日本に於ても食糧に最も惠まれたる土地として羨望の土地たりしも、現知事の政治の貧困と云ふか、馬鹿正直と云ふか、或は他に原因あるか知らざるも六月十二日より八月末迄米換算一日一人當り一合〇五と云ふ主食配給に顚落致し候。漸く九月一日より米換算一人一日一合八勺に浮び上り候へ共、主食は勿論野菜、魚の闇値は驚くべきものにて、之は漁港石巻に於て船員の値を惜しまざる買漁りによるものに有之候。 當社は終戰後未晒パルプ及最近塵紙製造中なるも、御多聞に洩れず石炭不足により平常操業の五分の一に有之候。勞働組合その他終戰後世間並の騒ぎは有之候へ共、今度燃料節約のため電氣ボイラー完成すると共に、石炭、亜炭の蒐集に全力を盡せるため、最近漸く立直りに向ひ候。 石巻には現在新聞二つ有之一つは自由黨系、一つはいはゆる地方新聞にて至つて低級タイムスの如き文化面の開拓紙は無之候。野島氏は盛岡精器、岩手新報、岩手タイムスの社長として東北に活躍、一度氏を訪問せるに自宅を事務室とし、卓上電話二つ、小生訪問の時は右手に受話器、左手に送話器の多忙振りにて、然もその居室には氏の藝術に對する理解多き裝飾品あり、その人となりを察せられ候。 本年は豊作なるも經濟界は益々多事、兌換券發行高は空前の六一八億を新聞は報じ居り候。獨逸は第一次歐洲戰後三年目にあの有名なインフレに襲はれた由、日本も來年は正に足掛け三年、然るに石橋藏相は至極樂觀論を放送しつゝあり、インフレ對策に成算ありてか、夫ともヂエスチアか、前藏相澁澤氏とはその行き方は正に反對にて、或は新圓に對しある手を打つ考へか何れにしても我々國民、特に經濟人は政府の行ふ施策の良否に格段の注意が必要なるを痛感致し居り候。 駄文御許し被下度、今夜燃料獲得に出張の前、久々振りにて御たより申上げ候に付御判讀願上候。敬具(九月十八日)(越後タイムス 昭和二十一年十月六日 第一四七七號 一面より) #越後タイムス #昭和二十一年 #東北振興パルプ #野島壽平 ソフィアセンター 柏崎市立図書館 所蔵 ダウンロード copy #越後タイムス #野島壽平 #昭和二十一年 #東北振興パルプ 30 この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか? サポート