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王 友 釣 魚 便 り (王友第十六號)

      本 社  蘆 舟 生

   △新人歡迎午餐會△
 王友倶樂部の各部紹介會により吾
釣友會にも多數の新人が入會されたの
で、五月四日山水樓に於て新人歡迎午
餐會を催した。出席新人十一名舊人有
志二十四名。
先づ顔識りの爲め自己紹介をした。
海に河に年期を積れた方もあれば本當
の新人も居る。舊人必ずしも上手なら
ず此點は新人諸君も大いに御安心あり
たい。尚我田引水か知らぬが、吾釣友會
は最低の費用を以て最高の健康を釣り
得るので、非常時銃後國民の保健には
最適して居る會と思ふ。一層心身の御
鍊磨をなされ、銃後の勤を全ふせられ
ん事を望む次第である。
近く春季大會を開催して實際につき
新人諸君の腕前を拜見し、又舊人の腕
前が如何なるものかを御目に掛ける事
を豫約して談笑裡に散會した。
   △春季河釣大會△
 豫告の春季大會はガソリン節約の國
策に順應して、船の不用な酒匂川のヤ
マベ釣を試みる事とした。
五月八日晩春の早朝、新宿小田急ホ
―ムに集合、今にも降り出しさうな惡
天候ながら一行二十名元氣よく六時三
十分發小田原行電車にて出發。
 天氣さへ良ければ、車中より大山も
見え沿道の風景も良いのだが、此天氣
では遠望もきかない。僅かに多摩川、
相模川の水色に目を樂しませば、一時
間少々にて新松田驛に到着。上流を志
す組は此處にて下車、下流を狙ふ組は
次驛の栢山或は富水に下車、更に數コ
ースに分散し思ひ思ひの河原に行く。
釣始めるや間も無く雨が降つて來る。到
々終日五月雨に降り惱まされて服はビ
ツシヨリ、氣溫が下つて一層薄ら寒く
感じる。加ふるに降雨の爲めか下流は
濁水にて釣果は上らず、釣れるは解禁
前の鮎が多く、涙をのんで返上する等
雨中を散々の體にて歸路集合地の栢山
驛に参集、六時少々過ぎ同驛發電車に
て歸途についた。尚驛を間違へ指定電
車に乗遅れ、一電車遅れて歸京せられ
し者のあつたのは一寸遺憾であつた。
當日の成績は左の通り。

順位 氏 名 魚數   備 考
 一 小林會長 六三
 二 永  井 四七
   遠  藤 二四  七寸大物賞
 三 石  井 一五
 四 太  田 一五
 五 石  川 一五
 六 加  藤  七
 七 坂  田  七
 八 加  藤  六
 九 依  田  四
 十 大  平  三
十一 田  代  三
十二 中  野  三
十三 鈴  木  二
十四 池  田  二
十五 小林 正  一  ブビ―賞
十六 菊  池  一
十七 横  田  〇
十八 只  腰  〇
十九 原     棄權

 尚三位の遠藤君には大物賞を贈呈に
付以下順位を繰下げ十等迄、又小林
(正)君にはブビ―賞を、其他の方々に
は等外賞を、翌九日小林會長より夫々
贈呈した。又原君は御子供連れの爲め
早く歸途につかれ成績不明に付棄權と
せし次第不惡。
 新舊人共惡天候並に大増水に禍され
充分の腕前を發揮し得られず、且つ解
禁後なりせば賞の數に入らぬ迄も、都
人のあれほど騒ぐ鮎の事なれば家苞に
は十二分であつたものを、あつたら降
る雨と共に水に流したるは殘念の次第
であつた。
 翌九日山水樓にて晝食を共にしつゝ
右大會の報告座談會を催したが、
一、 下流よりも上流の方が成績良かつ
た事。
一、 濁水のため餌釣(サシ)は一般
に駄目で、蚊鈎釣の方が成績良か
つた事
一、 解禁二十日前の鮎としては型が惡
かつた事等が一般の報告である。
鮎釣又は次回の出漁の際の參考とせ
られ度い。

  △清水港白ギス釣遠征會△

「愈々清水港で白ギスが本格的に釣れ
始めたから本社釣友會の遠征を待つ」
との快報が富士山林出張所長海藤氏か
ら來た。昨年御厄介になつて大漁せし
夢が忘れられず來る年もと待望して居
つたので此好機逸すべからずと會員
一同に此旨通知すれば、吾も吾もと參
加者續出。好意に甘へて「二十數名來
る五月二十八日夜行にて出發|の旨御
願ひすると、更に二十八日夕刻|清水
は只今天氣良く、風なく、釣に絕好」
との電話に接したので、丁度、信號旗
がかゝげられたるが如く、各員一層奮
勵努力せよと、一行二十名午後十一時
四十分東京驛發列車にて勇躍征途につ
く。
 二十九日午前三時三十九分清水驛着。
 自動車にて京稻に安着。漁裝に替へ
未た淡暗き市中を海岸に出で、抽籖に
て乗船を決め十數隻に分乗興津沖目指
して出船する。
 間も無く夜も次第に明け始めれば、
電話通知の如く天氣も良く、波もなく
絕好の釣日和にて、靑疊を敷つめたる
が如き大海原に僚船點々して、三保の
松原も手近に見える。
 此處は次郎長親分の縄張り、心に仁
義を述べ今日の吾一行の大漁を念じつ
ゝ徐ろに釣を下ろせば、海の幸白ギス
メゴチ、赤題、コチ、カワハキ、カレ
イ、 カサゴ、ギチ、ホウボウ、サメ等
々昨年來の顔馴染次から次へと船中に
釣上げられ、之に氣を良くしたか或は
凪の爲めか將又此時局下には政變なし
と安心したか、昨年の如く西園寺老公
を訪問する者もなく愉快に時を過す。
良い事は何時迄も續かず午後は風も
出始め、三時頃よりは波も立ち更に小
降り始めたので、何處迄も頑張る努力
人小林會長組を殘し、未鍊はあるが興
津の海に左樣ならして江尻海岸へ歸船
する。
 入浴後夜食の御馳走になつて居る内
小林會長組も歸船されたので、獲物檢
査を爲し賞を決めた處斷然小林組が第
一位。之は時間が永かつた爲めか或は
腕の相違か、何れにせよ王子釣友會會
長の貫錄を示されたるは目出度目出
度。
 工場各位の釣られし分迄加へられて
家苞となし、重たき土産を手に手に午
後五時八分清水驛發列車にて無事歸京
した。
 末筆乍ら工場各位の每回の御厚遇を
深謝し、又來る年も御招きに預り度く
願ふ次第である。

順 位   氏     名    キ ス   其  他   計
  一  小林會長、海藤、(岡村) 一八三   三三   二一六
  二  鈴木、菊池、只腰     一五三     一八   一七一
  三  永井、相澤、遠藤     一三一    四〇   一七一
  四  石井、坂田、伊藤     一二〇    五二   一七二
  五  原田、加納、小林、(正) 一〇五   二八    一三三
  六  石川、村上、横田      九一    二三   一一四
  七  依田、大島、前田      六六    三三    九九
  八  田島、間瀨、内藤      六〇    二七    八七
番 外  安藤、風間        一三八     八   一四六
同    藤井、福原        一二〇    六〇   一八〇
同    入谷、長阪、松永      七七    三八   一一五
同    森、稲葉、牛山       七〇    三八   一〇八
合   計                              一、三一四  三九八  一、七一二

            △秋季海釣大會△
 酒匂川のヤマベ釣、清水の白ギス釣
以來は、各人思ひ思ひの方面に出漁し
て居つたが、大衆釣會に適當の機會が
無かつたのと、八九月の關東地方稀有
の豪雨出水の爲め各釣場が荒され、釣
友會も暫く待機の姿勢をとるの止むな
きに至り、鳴を潜めて居つたが、秋も
半ば恒例のハゼ釣期ともなつたので、
十月三十日に秋季海釣大會を催すこと
にした。
 半年振りの釣會なので一同大いに張
切つて居つたが、生憎の降雨。夫れで
も好いて通へば何とやら、小林會長を
先頭に、遠藤、加納、中里、石川、永
井、高橋、の半キ印組、釣竿肩に傘を
さし、或は雨合羽にゴム長の物々しき
武裝にて、定めの午前七時に品川驛前
に集合した。
 天氣豫報も香しくないのと參加者の
半數も集らぬので大會は中止する事に
したが、夫れでは左樣ならの素直に引
揚げる面々でなく、兎も角船宿迄行つ
て樣子を見やうではないかとの事とな
り、一行七名自動車にて船宿「山松」
へ向ふ。
 船頭も此空模樣では引込勝なるを、
駄目だつたら直ぐ引揚げる事にして一
先づ船を出さうと漸く船頭を說き落し
八時過ぎに雨中を出船した。
 導流抗を通りシビのボラ船の見へる
邊迄は雨氣もあつたが、一行神妙の者
ばかりと見へ、中川尻へ着いた頃はど
うやら雨も上つたので、天幕を外して
釣仕度に取掛つた。
 十時間近だつたので午前中は釣果も
上らなかつたが、雨も止み、薄日さへ
洩れ出し、風もなく、良い凪になつた
ので、船中の晝食も久し振りに甘く味
ひ、午後もボツ/\ながら釣上げて、
結局ハゼ一二五、メゴチ其他九四、合
計二一九匹、一人當り約三十匹、近頃
としては中位の成績にて前奏曲を終り
來る日を待つ事にした。
 此日菊池君が後から船宿へ駈付けら
れたが、出船後なので遂にアウトとな
りしは御氣の毒の次第である。
降雨の爲め中止となつた大會は、次
の日曜と目論見たるが、ガソリン統制
にて船不足の爲め思ふ樣に行かず、十
一月二十日に延期の止むなきに至つ
た。
 愈々十一月二十日、待望の日は來
た。陽氣は少し寒いが天氣は上乗。參
加者二十九名午前七時に品川驛前に集
合、待つ間も遅しと自動車にて船宿に
向ひ、直ちに四隻に分乗すれば、船宿
自慢の鹽鮭も積込まれ、用意はよしと
エンヂンの音も快調に中川尻目指して
出船する。今回は船頭賞を發表したの
で、各船頭共張切り、天晴れ功名立て
んと己が秘藏の魚庫を漁り、中には江
戶川尻浦安近く迄遠征せし船もありし
が、凪倒れと云ふか久し振りに日和に
て何百隻とも知れぬ出船なので、早出
の船にせしめられたか、當りも時々に
て釣果は左記の如く一般に不良に終つ
たが、凪の爲め海上無事愉快に一日を
過す事が出來たのは何よりであつた。
此日小林會長不據用件にて缺席の爲
め、幹事より夫々賞品を贈呈し、十三
年度ハゼ釣大會の幕を閉じ、夕闇迫る
頃三々五々歸途についた。

順位  氏 名  船   ハゼ  其他  計
 一  松 原 三 三  二四   四  二八
 二  永 井 二 一  一八   二  二〇
 三  遠 藤 三 二  一六   一  一七
 四  加 藤 三 七  一四   三  一七
 五  前 田 四 一  一三   四  一七
 六 加納(芳)二 七  一三   二  一五
 七  權 藤 四 四  一一   四  一五
 八  原   一 八  一〇   三  一三
 九  楳 田 四 六  一〇   二  一二
 十  井 上 二 三   九   二  一一
十一  大 島 三 一   九   二  一一
十二  菊 池 一 三   八   三  一一
十三  田 島 四 七   八   二  一〇
十四  妹 尾 三 六   八   二  一〇
十五  石 川 二 二   八   〇   八
十六  内 藤 四 二   六   二   八
十七  海 賀 一 二   六   二   八
十八  横 田 一 四   六   一   七
十九 小林(廣) 一 一   六   〇   六
二十 加納(正) 三 五   五   一   六
廿一 高 橋   一 七   四   五   九
廿二 大 平   四 五   四   三   七
廿三 依 田   二 五   四   二   六
廿四 池 田   二 六   四   〇   四
廿五 坂 田   二 四   四   〇   四
廿六 間 瀨   三 四   三   一   四
廿七 原 田   一 五   二   二   四
廿八 中 野   四 三   〇   二   二 ブビ―賞
廿九 伊 藤   一 六   〇   一   一
   合計         二三三  五七  二九〇

     船 別 成 績
一  第三號船  七九  一四  九三  船頭賞
二  第二號船  六〇   七  六七
三  第四號船  五二  一九  七一
四  第一號船  四二  一七  五九

 順位はハゼの多きにより決し、ハゼ
同時の時は雜魚の多きを上位とした。
尚一等の松原君は大會直前飛入式の
入會者で釣技の程は未知數であつたが
此成績。後で誰やら小聲で「松原君は
今迄釣をした事があるのかネ!」サァ
竿を持つて居る處を見るとやつて居つ
たらしいネ」と之は腕の然らしむる處
か或は怪我の功名か何れにしても之れ
だから釣は止められぬ。

   △小林會長常務就任△
 殆んど河釣專門であつた遠藤君が、
最近海釣に轉向。然も百八十度の轉回
で上總湊で腹太スゞキを數本宛每日曜
釣つて來る(魚拓参照)との事で皆の
目を驚かしたが、今迄數多く上總竹岡
へ鯛釣に出漁して居つた小林會長、吾
縄張近くを荒すは怪しからんとも何と
も云はず、鳴を靜めて居るのは如何に
したものかと思つて居つたら、遂に釣
つた。釣つた。然も大物。鯛か?否鯉
か?否そんな小ぽけのものではない。
大王子の常務取締役を釣上げたのだ。
太公望は渭水に釣りし、小林會長は竹
岡に釣をしたからとて、今更竹岡通ひ
をしても大魚は居ない。釣場は巨口細
鱗數多く棲む大王子と云ふ大海だ。竿
は商賣柄蝦夷松製か椴松か或は最近流
行のリール付三十號材製か?竿ばかり
では駄目だ。腕で釣るのだ。此技倆者
を會長とする吾王子釣友會の中小公望
諸君よ、私日には海河で技倆を磨き心
身を鍛鍊し、又公日には己が業務で腕
を磨き、大王子の大海から續々と大物
を釣つて呉れ給へ。小林會長御目出度
フレー/\王子釣友會。(終り)

(「王友」第十六號 昭和十四年五月廿五日發行より)

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