王 友 釣 魚 便 り (王友第十六號) 19 一錢亭文庫 / 菊池 與志夫 2024年1月12日 10:20 本 社 蘆 舟 生 △新人歡迎午餐會△ 王友倶樂部の各部紹介會により吾釣友會にも多數の新人が入會されたので、五月四日山水樓に於て新人歡迎午餐會を催した。出席新人十一名舊人有志二十四名。先づ顔識りの爲め自己紹介をした。海に河に年期を積れた方もあれば本當の新人も居る。舊人必ずしも上手ならず此點は新人諸君も大いに御安心ありたい。尚我田引水か知らぬが、吾釣友會は最低の費用を以て最高の健康を釣り得るので、非常時銃後國民の保健には最適して居る會と思ふ。一層心身の御鍊磨をなされ、銃後の勤を全ふせられん事を望む次第である。近く春季大會を開催して實際につき新人諸君の腕前を拜見し、又舊人の腕前が如何なるものかを御目に掛ける事を豫約して談笑裡に散會した。 △春季河釣大會△ 豫告の春季大會はガソリン節約の國策に順應して、船の不用な酒匂川のヤマベ釣を試みる事とした。五月八日晩春の早朝、新宿小田急ホ―ムに集合、今にも降り出しさうな惡天候ながら一行二十名元氣よく六時三十分發小田原行電車にて出發。 天氣さへ良ければ、車中より大山も見え沿道の風景も良いのだが、此天氣では遠望もきかない。僅かに多摩川、相模川の水色に目を樂しませば、一時間少々にて新松田驛に到着。上流を志す組は此處にて下車、下流を狙ふ組は次驛の栢山或は富水に下車、更に數コースに分散し思ひ思ひの河原に行く。釣始めるや間も無く雨が降つて來る。到々終日五月雨に降り惱まされて服はビツシヨリ、氣溫が下つて一層薄ら寒く感じる。加ふるに降雨の爲めか下流は濁水にて釣果は上らず、釣れるは解禁前の鮎が多く、涙をのんで返上する等雨中を散々の體にて歸路集合地の栢山驛に参集、六時少々過ぎ同驛發電車にて歸途についた。尚驛を間違へ指定電車に乗遅れ、一電車遅れて歸京せられし者のあつたのは一寸遺憾であつた。當日の成績は左の通り。順位 氏 名 魚數 備 考 一 小林會長 六三 二 永 井 四七 遠 藤 二四 七寸大物賞 三 石 井 一五 四 太 田 一五 五 石 川 一五 六 加 藤 七 七 坂 田 七 八 加 藤 六 九 依 田 四 十 大 平 三十一 田 代 三十二 中 野 三十三 鈴 木 二十四 池 田 二十五 小林 正 一 ブビ―賞十六 菊 池 一十七 横 田 〇十八 只 腰 〇十九 原 棄權 尚三位の遠藤君には大物賞を贈呈に付以下順位を繰下げ十等迄、又小林(正)君にはブビ―賞を、其他の方々には等外賞を、翌九日小林會長より夫々贈呈した。又原君は御子供連れの爲め早く歸途につかれ成績不明に付棄權とせし次第不惡。 新舊人共惡天候並に大増水に禍され充分の腕前を發揮し得られず、且つ解禁後なりせば賞の數に入らぬ迄も、都人のあれほど騒ぐ鮎の事なれば家苞には十二分であつたものを、あつたら降る雨と共に水に流したるは殘念の次第であつた。 翌九日山水樓にて晝食を共にしつゝ右大會の報告座談會を催したが、一、 下流よりも上流の方が成績良かつた事。一、 濁水のため餌釣(サシ)は一般に駄目で、蚊鈎釣の方が成績良かつた事一、 解禁二十日前の鮎としては型が惡かつた事等が一般の報告である。鮎釣又は次回の出漁の際の參考とせられ度い。 △清水港白ギス釣遠征會△「愈々清水港で白ギスが本格的に釣れ始めたから本社釣友會の遠征を待つ」との快報が富士山林出張所長海藤氏から來た。昨年御厄介になつて大漁せし夢が忘れられず來る年もと待望して居つたので此好機逸すべからずと會員一同に此旨通知すれば、吾も吾もと參加者續出。好意に甘へて「二十數名來る五月二十八日夜行にて出發|の旨御願ひすると、更に二十八日夕刻|清水は只今天氣良く、風なく、釣に絕好」との電話に接したので、丁度、信號旗がかゝげられたるが如く、各員一層奮勵努力せよと、一行二十名午後十一時四十分東京驛發列車にて勇躍征途につく。 二十九日午前三時三十九分清水驛着。 自動車にて京稻に安着。漁裝に替へ未た淡暗き市中を海岸に出で、抽籖にて乗船を決め十數隻に分乗興津沖目指して出船する。 間も無く夜も次第に明け始めれば、電話通知の如く天氣も良く、波もなく絕好の釣日和にて、靑疊を敷つめたるが如き大海原に僚船點々して、三保の松原も手近に見える。 此處は次郎長親分の縄張り、心に仁義を述べ今日の吾一行の大漁を念じつゝ徐ろに釣を下ろせば、海の幸白ギスメゴチ、赤題、コチ、カワハキ、カレイ、 カサゴ、ギチ、ホウボウ、サメ等々昨年來の顔馴染次から次へと船中に釣上げられ、之に氣を良くしたか或は凪の爲めか將又此時局下には政變なしと安心したか、昨年の如く西園寺老公を訪問する者もなく愉快に時を過す。良い事は何時迄も續かず午後は風も出始め、三時頃よりは波も立ち更に小降り始めたので、何處迄も頑張る努力人小林會長組を殘し、未鍊はあるが興津の海に左樣ならして江尻海岸へ歸船する。 入浴後夜食の御馳走になつて居る内小林會長組も歸船されたので、獲物檢査を爲し賞を決めた處斷然小林組が第一位。之は時間が永かつた爲めか或は腕の相違か、何れにせよ王子釣友會會長の貫錄を示されたるは目出度目出度。 工場各位の釣られし分迄加へられて家苞となし、重たき土産を手に手に午後五時八分清水驛發列車にて無事歸京した。 末筆乍ら工場各位の每回の御厚遇を深謝し、又來る年も御招きに預り度く願ふ次第である。順 位 氏 名 キ ス 其 他 計 一 小林會長、海藤、(岡村) 一八三 三三 二一六 二 鈴木、菊池、只腰 一五三 一八 一七一 三 永井、相澤、遠藤 一三一 四〇 一七一 四 石井、坂田、伊藤 一二〇 五二 一七二 五 原田、加納、小林、(正) 一〇五 二八 一三三 六 石川、村上、横田 九一 二三 一一四 七 依田、大島、前田 六六 三三 九九 八 田島、間瀨、内藤 六〇 二七 八七番 外 安藤、風間 一三八 八 一四六同 藤井、福原 一二〇 六〇 一八〇同 入谷、長阪、松永 七七 三八 一一五同 森、稲葉、牛山 七〇 三八 一〇八合 計 一、三一四 三九八 一、七一二 △秋季海釣大會△ 酒匂川のヤマベ釣、清水の白ギス釣以來は、各人思ひ思ひの方面に出漁して居つたが、大衆釣會に適當の機會が無かつたのと、八九月の關東地方稀有の豪雨出水の爲め各釣場が荒され、釣友會も暫く待機の姿勢をとるの止むなきに至り、鳴を潜めて居つたが、秋も半ば恒例のハゼ釣期ともなつたので、十月三十日に秋季海釣大會を催すことにした。 半年振りの釣會なので一同大いに張切つて居つたが、生憎の降雨。夫れでも好いて通へば何とやら、小林會長を先頭に、遠藤、加納、中里、石川、永井、高橋、の半キ印組、釣竿肩に傘をさし、或は雨合羽にゴム長の物々しき武裝にて、定めの午前七時に品川驛前に集合した。 天氣豫報も香しくないのと參加者の半數も集らぬので大會は中止する事にしたが、夫れでは左樣ならの素直に引揚げる面々でなく、兎も角船宿迄行つて樣子を見やうではないかとの事となり、一行七名自動車にて船宿「山松」へ向ふ。 船頭も此空模樣では引込勝なるを、駄目だつたら直ぐ引揚げる事にして一先づ船を出さうと漸く船頭を說き落し八時過ぎに雨中を出船した。 導流抗を通りシビのボラ船の見へる邊迄は雨氣もあつたが、一行神妙の者ばかりと見へ、中川尻へ着いた頃はどうやら雨も上つたので、天幕を外して釣仕度に取掛つた。 十時間近だつたので午前中は釣果も上らなかつたが、雨も止み、薄日さへ洩れ出し、風もなく、良い凪になつたので、船中の晝食も久し振りに甘く味ひ、午後もボツ/\ながら釣上げて、結局ハゼ一二五、メゴチ其他九四、合計二一九匹、一人當り約三十匹、近頃としては中位の成績にて前奏曲を終り來る日を待つ事にした。 此日菊池君が後から船宿へ駈付けられたが、出船後なので遂にアウトとなりしは御氣の毒の次第である。降雨の爲め中止となつた大會は、次の日曜と目論見たるが、ガソリン統制にて船不足の爲め思ふ樣に行かず、十一月二十日に延期の止むなきに至つた。 愈々十一月二十日、待望の日は來た。陽氣は少し寒いが天氣は上乗。參加者二十九名午前七時に品川驛前に集合、待つ間も遅しと自動車にて船宿に向ひ、直ちに四隻に分乗すれば、船宿自慢の鹽鮭も積込まれ、用意はよしとエンヂンの音も快調に中川尻目指して出船する。今回は船頭賞を發表したので、各船頭共張切り、天晴れ功名立てんと己が秘藏の魚庫を漁り、中には江戶川尻浦安近く迄遠征せし船もありしが、凪倒れと云ふか久し振りに日和にて何百隻とも知れぬ出船なので、早出の船にせしめられたか、當りも時々にて釣果は左記の如く一般に不良に終つたが、凪の爲め海上無事愉快に一日を過す事が出來たのは何よりであつた。此日小林會長不據用件にて缺席の爲め、幹事より夫々賞品を贈呈し、十三年度ハゼ釣大會の幕を閉じ、夕闇迫る頃三々五々歸途についた。順位 氏 名 船 ハゼ 其他 計 一 松 原 三 三 二四 四 二八 二 永 井 二 一 一八 二 二〇 三 遠 藤 三 二 一六 一 一七 四 加 藤 三 七 一四 三 一七 五 前 田 四 一 一三 四 一七 六 加納(芳)二 七 一三 二 一五 七 權 藤 四 四 一一 四 一五 八 原 一 八 一〇 三 一三 九 楳 田 四 六 一〇 二 一二 十 井 上 二 三 九 二 一一十一 大 島 三 一 九 二 一一十二 菊 池 一 三 八 三 一一十三 田 島 四 七 八 二 一〇十四 妹 尾 三 六 八 二 一〇十五 石 川 二 二 八 〇 八十六 内 藤 四 二 六 二 八十七 海 賀 一 二 六 二 八十八 横 田 一 四 六 一 七十九 小林(廣) 一 一 六 〇 六二十 加納(正) 三 五 五 一 六廿一 高 橋 一 七 四 五 九廿二 大 平 四 五 四 三 七廿三 依 田 二 五 四 二 六廿四 池 田 二 六 四 〇 四廿五 坂 田 二 四 四 〇 四廿六 間 瀨 三 四 三 一 四廿七 原 田 一 五 二 二 四廿八 中 野 四 三 〇 二 二 ブビ―賞廿九 伊 藤 一 六 〇 一 一 合計 二三三 五七 二九〇 船 別 成 績一 第三號船 七九 一四 九三 船頭賞二 第二號船 六〇 七 六七三 第四號船 五二 一九 七一四 第一號船 四二 一七 五九 順位はハゼの多きにより決し、ハゼ同時の時は雜魚の多きを上位とした。尚一等の松原君は大會直前飛入式の入會者で釣技の程は未知數であつたが此成績。後で誰やら小聲で「松原君は今迄釣をした事があるのかネ!」サァ竿を持つて居る處を見るとやつて居つたらしいネ」と之は腕の然らしむる處か或は怪我の功名か何れにしても之れだから釣は止められぬ。 △小林會長常務就任△ 殆んど河釣專門であつた遠藤君が、最近海釣に轉向。然も百八十度の轉回で上總湊で腹太スゞキを數本宛每日曜釣つて來る(魚拓参照)との事で皆の目を驚かしたが、今迄數多く上總竹岡へ鯛釣に出漁して居つた小林會長、吾縄張近くを荒すは怪しからんとも何とも云はず、鳴を靜めて居るのは如何にしたものかと思つて居つたら、遂に釣つた。釣つた。然も大物。鯛か?否鯉か?否そんな小ぽけのものではない。大王子の常務取締役を釣上げたのだ。太公望は渭水に釣りし、小林會長は竹岡に釣をしたからとて、今更竹岡通ひをしても大魚は居ない。釣場は巨口細鱗數多く棲む大王子と云ふ大海だ。竿は商賣柄蝦夷松製か椴松か或は最近流行のリール付三十號材製か?竿ばかりでは駄目だ。腕で釣るのだ。此技倆者を會長とする吾王子釣友會の中小公望諸君よ、私日には海河で技倆を磨き心身を鍛鍊し、又公日には己が業務で腕を磨き、大王子の大海から續々と大物を釣つて呉れ給へ。小林會長御目出度フレー/\王子釣友會。(終り)(「王友」第十六號 昭和十四年五月廿五日發行より) #王友 #旧王子製紙 #昭和十四年 #釣り #釣魚 #海釣り #川釣り #ハゼ釣り #東京湾 #キス釣り #清水港 紙の博物館 図書室 所蔵 ダウンロード copy いいなと思ったら応援しよう! チップで応援する #釣り #海釣り #東京湾 #ハゼ釣り #川釣り #キス釣り #清水港 #旧王子製紙 #王友 #釣魚 #昭和十四年 19