見出し画像

王子釣友會誕生由來記

          本 社 菊 池 一 錢 亭

 何事でも趣味を共にする人びとが集つて、一

つの會をつくるのは愉快なことである。

 釣り好きで有名な小林準一郎氏と、凡そ世話

事に掛けては天才的との定評ある永井潤二氏と

のお骨折に依つて「王子釣友會」が生れた。

 去る九月五日夜、山林課の小林氏、中村氏、

依田氏、共榮の田代氏、管理會の遠藤氏、庶務

課の永井氏、坂田氏、工務課の新村氏、文書課

の相澤氏、能率課の高橋氏、楳田氏、調度課の

菊池等、自稱釣道一竿當千の士が、東寳グリル

に會合して、滿場一致で會が成立した。そして

小林準一郎氏を會長に推戴し、永井潤二氏及び

菊池義夫の二名が幹事に就任した。

 ――釣りといふものは、どこが面白い、ここ

がいいなどと、理屈では到底云ひ現はすことの

出來ない、あの魚が鈎にかかつた瞬間の何とも

たとへやうのない氣持――これがたまらなくい

いので、このよさを一度味つたら、恐らくどん

な人でも釣好きにならずにゐられないだらう。

 私はどうして、もつと早くこの高尚な釣道に

入らなかつたのだらうと後悔してゐる次第であ

る。――

 當夜、小林會長の多くの魅惑的なお話の中か

ら、特に吾われ釣好きにとつて感銘の深い一節

を抜萃したが、稚拙なる私の筆では、同氏の美

しい印象的なお話の片鱗をも傳へ得ないのは遺

憾である。

 扨て「王子釣友會」などといふと、何だか鹿

爪らしく固苦しい感じがするが、會といつても

到つて氣樂なもので、大體左の如き内容を持つ

研究會とも云ふべきものである。

一、 社内の釣好きが時折集つて、お互に自慢話

 や失敗談、それから秘技の公開等を座談的に

 語り合ふ集會を開くこと。

二、 釣具の共同購入或は近來猛烈な勢で、釣熱

  が旺んになつて來た地方工場同好者とも連

  絡をとり、地方では特に不自由な釣具購入

  の便宜を計ること。

三、 季節に應じて年二回位大會を開いて―主と

  して春は鮒、秋は鯊といふ風な大衆的な釣

  を選びたいと思ふ―團體的釣趣味の歡をつ

  くすこと。

四、 會員には釣カードを差上げ、釣に行かれた

  度に、要領を記入して頂き、この結果各自

    得意とする釣方、釣場等の公開又は紹介を

  して貰つて全會員に回覧し、未知未踏の境

  地を味ふ歡びを滿喫して頂くこと。

 ざつと右に述べたやうな自由な會で、會費な

ども不要である。目下本社だけで四十人ばかり

の會員がゐるが、東京、地方を問はず同好者の

御加入を歡迎する。

 以上甚だ簡單ながら王子釣友會誕生由來のあ

らましを述べた次第である。


(「王友」九號 
  昭和九年十二月二十日発行 より)


#王友 #旧王子製紙 #昭和九年 #東宝グリル #釣り



紙の博物館 図書室 所蔵




いいなと思ったら応援しよう!