「王友」第十七號 編輯後記
○
なによりも先づ本號の甚だし
き遅刊をお詫びする。數へて見
ると原稿締切四ヶ月もの日子
を費してゐる。
工場轉出によつて前編輯者、
内野功三、中西駿一兩君が風の
如く去つてから、直ちに鳥羽松
次、佐々木茂の二君を迎へて、
揺らぐ編輯陣の建直しに務めた
が、編輯者の身邊に意外の事故
が續出して、豫期の成果を収め
得なかつたことは遺憾である。
寄稿家並びに工場雜誌委員諸氏
の御寛恕を乞ふ次第である。
×
紀元二千六百年を迎へて、本
誌としても何らかの形で、この
意義深き年に相應しなものを表
出したいと希念したが、前述の
事情でそれも果し得なかつたの
は甚だ殘念である。
×
藤原商工大臣近影は、昨秋ス
トツクホルム御滞在中に撮影の
もので、特に福喜多氏から拜借
して複製したが、御覽の通り素
晴らしい藝術的な肖像寫眞なの
で、その儘、額用に仕立てられ
るやうに、用紙も特別のものを
使用したわけである。
×
本號から縱來の「王友賞」規
定を改變して、投票制度を廢止
し、「美術」「詩歌」「文苑」の三
種目の順に一種目を限定して、
その内の最優秀作品に贈呈する
ことゝした。銓衝方法は、何れ
適當な機會に、權威ある組織を
確立する考へであるが、それ迄
は暫定的に編輯委員がこれに當
るつもりである。本號は曩に發
表した通り「美術」賞の番で、
洋畫、俳畫、光畫等多數の力作を
寄せられ選定に苦しんだが、あ
らゆる角度から歸納して、本社
前田勇夫氏作「梅」が當選した
のである。
×
本號から物資節約の國策に順
應して、紙質の低下、小活字の
使用等により極力用紙の節減を
強行したので、非常に讀みづら
く、粗雜なものとなつたが、こ
の埋合せには、新編輯者鳥羽松
次君の新鮮な構成による、誌面
の刷新が奏功して、縱來の陳腐
な、單調な形式は一變し、その
アクセントの强い、清新な感觸
が、必ず讀者の喝采を博するも
のと確信する。(菊池)
(「王友」第十七號
昭和十五年七月五日發行より)
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