Photo by makiaki 王 友 釣 魚 便 り (「王友」第十八號) 13 一錢亭文庫 / 菊池 與志夫 2024年1月28日 09:49 王子産報本社支部釣魚部 △昭和十五年度△ 目出度皇紀二千六百年を迎へたが吾釣魚部には一向芽が出ず依然たる減水の爲め寒タナゴ釣も面白からず寒鮒釣も計畫倒れとなり加ふるに寒さの爲め海川共に出足も鈍り勝であつたが「暑さ寒さも彼岸迄」四月ともなれば乗込鮒ならぬ乗込人間が野に川に氾濫するので當部でも昨年催した戶田井方面か龍ヶ崎邊で春季大會を開催せんものと試釣したが相變らずの渇水で全然好釣の見込無く依つて鮒を思ひ切り小田急線酒匂川にてヤマベ、ハヤ釣大會を催すことにした。 △ヤマベ、ハヤ釣大會△ 四月廿一日催す豫定の處某家に不幸あり之が爲め急に參加者が減少したので廿五日靖國神社臨時大祭の休日に決行した。午前六時三十分新宿發小田急にて出發沿線の菜種の花も春らしくハイキング連中も今日とばかりに押出したので車中の混雜は一方ならず押しつ押されつする程に新松田着。既に試釣場所を知つた定連は小田急鐵橋より上流へ一目散。新顔は地圖を賴りに十文字橋を渡り下流へ下流へと思は同じ酒匂川、打振る瀨釣の竿も輕く日和に惠まれ一日を愉快に過した成績は次の通りで一般に上流が良く下流は餘り振はなかつた。順位 氏 名 總數 ハンデイ 差引 總數ノ順位一 小林會長 二〇四 五〇 一五四 一二 原 九七 二〇 七七 三三 石 川 九三 二〇 七三 四四 坂 田 一〇七 四〇 六七 二五 田 代 七四 一〇 六四 六六 永 井 八九 四〇 四九 五七 松 原 四六 一〇 三六 七八 神 原 二六 〇 二六 十一九 高 橋 三〇 一〇 二〇 九十 石 井 四六 三〇 一六 八十一 横 田 六 〇 六 十四十二 依 田 一四 一〇 四 十三十三 前 田 二 〇 二 十五十四 相 澤 二二 二〇 二 十二十五 楳 田 二九 三五逆 六 十十六 山 田 〇 〇 〇 十六 今回は初の試として瀨釣の經驗の度合を考慮し前記の如くハンディキャップを付けたので相當面白い結果となつた。小林會長は自信あるか百のハンデイの申出があつたがまあ/\と五十に止めたが結果から見て流石御自慢丈けあると腕前の程感じ入つた。翌日の鼻息も亦一等。 △清水港白ギス釣遠征△ 想ふだに胸踊恒例清水白ギス釣の季節となつた年中行事の一として五月廿五日午後十一時四十分東京驛發の列車にて一行三十八名清水遠征の途につく。途中富士驛より工場の方々も乗車し五月廿六日午前一時三十九分清水驛着。出發當時よりの小雨は清水へ着くも止まずおまけに風さへあるので直ちに出船出來ず暫く京稲にて休憩して居つたが、例年向ふ興津沖は無理だが折戶灣内なれば決行出來るとの報が入つたので八時過ぎ宿を出て巴川尻より數隻の船に分乗折戶灣へ乗出す。灣内でも相當時化て居るので船醉者が續出し、加ふるに狙物の白ギスが釣れず、外道ばかりで一同がつかりして居つたが次第に雨も上り午後からは風が靜まつたので待望の興津清見寺沖へ遠征する。流石は本場所、漸く白ギスの顔を拜むことが出來たが歸途の時間の都合も有るので乍殘念四時に打切り宿へ引揚げ夕食の御馳走になり、且つ左記上位者には夫々賞品迄頂戴し、午後六時七分清水驛發にて歸京。順位 氏 名 キス 雜魚 計一 小林會長 二四 一六 四〇二 坂 田 一八 一九 三七三 片 岡 一七 一七 三四四 依 田 一六 一三 二九五 石 井 一五 一五 三〇六 大 平 一五 一四 二九七 新 田 一四 二〇 三四八 三 谷 一四 一八 三二九 馬 場 一三 四六 五九十 妹 尾 一二 二六 三八 以下略 工場山林各位の毎回の御厚遇を本誌上を借用御禮申上げます。尚今回小林會長より小林盃の御寄贈が有つたので之が獲得に皆腕に撚りを掛けたが、會長の手に逆戻りとなり吾々には殘念であるが會長としてはその貫錄上先づは目出度し/\である。 △秋季ハゼ釣大會△ 吾釣友會の年中行事の一たる江戶前ハゼ釣大會を十一月十一日決行す。永年吾々が親んだ王友倶樂部も発展的解消を遂げ王子産業報國會に包含されることとなり、王友倶樂部釣友會としては最後の催しなので會するものも亦實に、四十五名の多きに上つた。月島釣岩より六隻に分乗出船モーターの音も快調に三枚洲に向ふ、午前中は多少風波もあり釣難かつたが、晝頃より風も止み漸く好調を思はせたが之も束の間一時頃より又東風が吹き出し釣果上らず、午後五時船宿へ歸り成績發表賞品贈呈の上散會す。順 位 氏 名 船 ハ ゼ 雜魚 計 魚數二ヨ ル 順位 一 永 井 A 六 八一 八 八九 一 二 妹 尾 F 一 五八 三 六一 二 三 加 納 E 八 五七 三 六〇 三 四 原 B 八 五六 七 六三 四 五 新 田 C 一 四四 〇 四四 七 六 石 川 D 三 三五 四 三九 十五 七 楳 田 F 三 五四 六 六〇 五 八 鈴木(嘉) B 四 四二 三 四五 八 九 前 田 E 一 三九 〇 三九 十三 十 三 谷 A 一 三〇 三 三三 十八 十一 石井(亮) C 三 二六 〇 二六 廿一 十二 鹽 崎 D 八 二四 二 二六 廿六 以下略ブビ― 岡 田 D 一 七 〇 七 四十四 合 計 一、三六八 一〇八 一、四七四 一人當り 三〇 二 三二船 別 成 績 一 F船 八人 三二九 三二 三六一二 B船 八人 二八三 二二 三〇五三 A船 六人 一九〇 二三 二一二四 E船 八人 二四〇 六 二四六五 C船 七人 一六九 三 一七二六 D船 八人 一五七 二〇 一七七 今回の順位決定は横並式を採用卽ち前記の如く六隻に付各船の一等を一位より六位各船の二等を七位より十二位とせし爲め實際は下位でも入賞し又上位の人でもお氣の毒に賞外となつた次第である。尚小林盃は一位の永井君が獲得する處となつた。毎回入賞の小林會長の名前が見へぬのは生憎風邪にて出席せられなかつたゝめで其後本大會の模樣を報告した處、「僕が行つたらなあ」との事此一言何を意味するや會長の名譽の爲め缺席の次第を特に附記して此項を終る。(十五年度終わり) △新舊部員懇親鮒釣會△ 瀨付ヤマベの如き潑剌たる新人六名の入會を機會に新舊部員懇親會の爲め王子産業報國會本社支部釣魚部としての第一回鮒釣會を催す。四月十三日午前六時十五分上野驛發一名「釣士列車」にて一行十六名戶田井へ向ふ。地元案内役を御引受下さつた富士ビル木村君の出迎を受け、且つ同君の御親戚にて純綿の握飯迄用意して頂き、小貝川、神ノ浦附近の池等思ひ/\の場所に散開今日の功を爭ふ。曇天加ふるに風あり成績上らず、更に午後三時頃より降雨となり、時間は早いが遂に竿納めの已むなきに至つた。此降雨で花見客、釣士、ハイカー等一勢に歸り支度をした爲め取手行バスの乗場は超滿員何時になつたら乗れるのか見當が付かず、已なく方向を轉じ小船を依賴して小貝川を下り利根川に出て、成田線布佐驛に出たが、此處も成田、三里塚等よりの歸り客にて列車は滿員で乗れず、一列車を見送りよるになり濡鼠で歸京。順 位 氏 名 鮒數 一 高 木 一四 二 楳 田 九 三 永 井 六 大物賞(九寸鮒) 三 石 井 六 四 高 橋 五 五 坂 田 四 以下略 △清水白ギス釣遠征△ 五月廿四日恒例清水白ギス釣遠征。昨日の雨も止み今日は曇つては居るが、欲目か段々良くなりさうに思はれる、午後五時發表の氣象通報は「東の風海上平穏曇時々小雨」との事、小雨位なれば決行しやうと衆議一決、夜の集合を樂しみに家路を急ぐ。例によつて東京驛午後十一時四十分發の烈車にて一行三十九名出發。然し情無や最早雨は降り出した。五月廿五日午前三時三十九分清水着。當地も降雨中だ。加ふるに風迄ある。雨中京稲に至り暫く待機し風雨の稍靜まるのを待つて昨年出船した巴川尻より折戶灣へ乗出したが、釣るや釣らずや又もや風雨、合羽を被り或は傘を差し防戰に努めたが、風雨は一層激しくなるのみで勝利の見込無く、乍殘念敗戰中止の已なきに至つた。本社一行は好きの事とて致方無かつたが御蔭で工場の方々迄濡鼠の御相伴をさせ誠に申譯が無い。宿に歸り行儀の良い格好で衣類を乾し晝食の御馳走になり、且つ此處迄來て土産の無いのは氣の毒と、工場關係各位の御厚意で立派な鯵其他澤山の御土産を頂戴して午後の汽車にて歸途につく。車中見上げる大空に時折雲の切間から富士山が頭を見せるので「明日だつたらなあ」と皆怨事。然も隣席の人から「何處へ行つたのですか」「清水へ」「良い鯵ですぬゑ」とやられたのは聊か穴入ものであつた。毎回の遠征で御迷惑を相掛け且つ又種々の御歡待に本誌を通じ工場山林關係各位に厚く御禮を申上げます。 △木更津ハゼ釣大會△ 恒例ハゼ釣大會を江戶前にて催すべく立案したが、ガソリン統制の爲めモーター船の使用が出來ず左りとて手漕船では風でも出た場合、多勢の大會で萬一の間違があつてはと遂に江戶前を斷念し、少し遠いが手漕船で風があつても絕對安全な千葉縣木更津を選んだ。木更津は目下或る事情で餌のゴカイが掘れぬ爲め東京から仕込んで行かなければならぬので、船の手配旁々幹事三名ゴカイ一斗を携帶十月四日先發した。此餌の重く厄介なのと生憎にも夜に入つて降雨となつたのには先發隊も参つたが、翌くれば十月五日夜來の雨も如何にか止んだので一安心、重荷を卸す。午前六時五分兩國驛發の一行が八時頃到着し同勢廿六名勢揃したので早速六隻に分乗、大會を開く。雨は完全に止み、曇から段々に晴れとなり多少の風はあつたが近來無き絕好の釣日和となつたので船醉者も出ず一日を愉快に過す事が出來た。順 位 氏 名 船 ハ ゼ 雜魚 計 總數ニヨル 順位 一 新 田 四 三 一一九 八 一二七 一 二 永 井 一 一 九七 一 九八 三 三 加 納 五 一 九一 七 九八 五 四 小 林 二 一 八九 四 九三 六 五 鈴 木 三 三 七三 五 七八 九 六 鳥 羽 六 一 五八 一 五九 十五 七 石 川 四 一 一〇五 〇 一〇五 二 八 大 島 五 二 八六 一 八七 七 九 菊 池 二 二 六四 一 六五 十一 十 高 橋 三 一 六二 一 六三 十二 十一 横 田 一 三 五五 〇 五五 十六 十二 高 木 六 四 四五 二 四七 二十 以下略ブビ― 關尾(正) 六 二 二〇 一 二一 二十四 今回も順位決定を横並式としたので前記の如き結果となり、小林盃は一位の新田君が獲得した。化物の如き大ハゼ外道と雖も大カレイ等、重き獲物に皆喜びつゝ午後五時廿七分木更津發列車にて歸京此處に十六年度行事も目出度終了した。(「王友」十八號 昭和十七年十月二十日發行 より) #王友 #旧王子製紙 #昭和十七年 #大日本産業報国会 #釣り #釣魚 #ハゼ釣り #白ギス釣り #鮒釣り #ガソリン統制 #清水港 #京稲 紙の博物館 図書室 所蔵 ダウンロード copy いいなと思ったら応援しよう! チップで応援する #釣り #ハゼ釣り #清水港 #旧王子製紙 #王友 #鮒釣り #釣魚 #昭和十七年 #大日本産業報国会 #京稲 #白ギス釣り #ガソリン統制 13