土 肥 さ ん に 贈 る 言 葉
○
土肥君は不言實行の人で誰からも敬愛せられ
た珍らしい人格者である。社務に勵精なのは申
す迄もなく、いろんな面倒な仕事を一手に引受
けて、極く地味に力强く纏めてゆく手腕は、吾
われの敬服に堪えざるものであつた。
殊に王友倶樂部の大恩人で、雜誌「王友」を
今日の盛大に導いたのも同君の撓まざる努力の
賜物であつた。吾われのやうな粗雜なやり方で
はなく、萬事實に用意周到で、適當に政治的才
能を働かせるへんの呼吸は、到底吾われの及ぶ
ところではなかつた。
土肥君のやうに誰からも口を揃へて賞められ
る人は珍らしい。派手な存在でなく、蔭でコツ
/\ほんたうに働らく人で、物の緩急を心得、
萬事を圓滿に運んでゆくのにこれ程適當な人は
再び得難い。社命であれば已むを得ぬが、土肥
君に去られる本社、わけても王友倶樂部の損害
は莫大である。と同時に同君を迎へる苫小牧工
場は、百四十二吋マシンを一臺増設した以上の
大利益を獲得した譯である。
吾われ編輯委員は手足をもがれたも同然で、
誠に殘念ではあるがこれも致仕方ない。折角同
君が自重せられて倍舊の成功を収められんこと
を祈つて已まない次第である。(菊池)
(「王友」第十二號
昭和十一年六月三十日發行より)
※サムネイルは土肥さん作の挿絵。
紙の博物館 図書室 所蔵