【閑話休題】私はなぜ『殺し屋1』を読み始めたのか?~初心者でもとっつきやすい『殺し屋1』の入り方
さて、ここまで様々な角度からサイコホラー変態残虐マンガ『殺し屋1』を見てきました。読者の方はこう思われたのではないでしょうか?
どうしてこの人はファンでもないのにこんな変態グロマンガにハマってしまったのか、と。「痛いのに…この人おかしい…」と。
まあ、確かに筆者は変人なんですがw
1回目でも述べた通り、私は学生時代にヤングサンデーを読んでいたところ、『殺し屋1』ではぐれ者グループの井上(加納)の屍○シーン(16話)をいきなり見てしまい、その後もトラウマになっていたからです。
それ以後、『殺し屋1』に関する記憶は完全に封印しておりました。そう、セーラとDVヒモ男を殺害した直後のイチのように…
マシュー・ヴォーン、あんたさえたまげなければ…!
それでも私が『殺し屋1』に戻ってきた全ての元凶は、英米合作映画『キングスマン』(2014年)を見ちゃったことなんですよ。
『キングスマン』は、イギリスの鬼才映画プロデューサー、マシュー・ヴォーンが「近年のスパイ映画がシリアスな内容ばかりになっていることを嘆き、「楽しいスパイ映画を作りたい」と思い立ったことが映画化のきっかけとなった」(Wikipediaの説明)という作品です。
私は『キングスマン』を非常に気に入りました。
主人公のエグジー・アンウィン(タロン・エガートン)と、狂気に満ちた黒人IT富豪、リッチモンド・ヴァレンタイン(サミュエル・L・ジャクソン)、そしてヴァレンタインの部下の女殺し屋ガゼル(ソフィア・ブテラ)の、手に汗握る戦い。1作目では一応死んだことになっている(2作目で生きてたことが判明しますが)ハリー役のベテラン俳優・コリン・ファースの演技も渋い。
テンポのいい曲やかつての名曲に合わせて、メチャクチャなアクションが繰り広げられるというのも斬新です。Wikipediaによると、『キングスマン』中盤の、アメリカ南部のヘイト教会での虐殺シーンは、多くの国で不適切としてカットされたとか。このあたりも、どことなく『殺し屋1』に相通ずるところがある。
エンディングテーマのイギリスの男性ボーカルグループ、テイク・ザット『Get ready for it』(ゲット・レディ・フォー・イット)と、オーストラリア人のヘヴィーなサウンドの女性ラッパー、イギー・アゼリア『Heavy Crown』(ヘヴィー・クラウン)のコラボも感動モノ。
『キングスマン』は、日本語吹替版にも独自の素晴らしさがあります。
エグジー役の木村昴さん、「マザフ○カ職人」サミュエル・L・ジャクソンの演技に対する、日本語版の玄田哲章さんの吹き替えのコラボの素晴らしさ。
ちなみに原語の「マザ○ァカ」みたいな不穏な四文字言葉(英語圏の放送禁止用語)は、日本語訳では全て穏当な言葉に置き換えられています。原語のヴァレンタインのセリフ「You, motherfxxker!」は「この間抜けども!」になっています。翻訳担当の皆様の能力に乾杯!
『キングスマン』は残虐シーン、グロシーン、お下劣ネタ満載のとんでもない映画ですが、1作目は本当に面白かった。名作だと思います。特に、ティルデ王女に対するあのひどい描写をスウェーデン国民がよく許したもんだと感心しきり。
ただし、2作目の『キングスマン・ゴールデンサークル』(2017年)はさっぱりダメ。グロがひどい上に、大したことのない裏切り者をエグジーがミンチにするという内容で、あれはつまらなかった。ビバ・ラス・ビーガン。
そのせいか、キングスマン創設期を描いた3作目の『キングスマン:ファースト・エージェント』(2021年)では実際の歴史を下敷きにしていることもあって随分とまともな内容になり、グロ表現やお下劣表現はほぼ影を潜めました。これはこれでちょっと残念な気もする。
話を戻すと、映画『キングスマン』の冒頭、冬山のコテージで、女殺し屋ガゼルが、キングスマンのエージェント「ランスロット」を義足の仕込み刀でサクッと真っ二つにするシーンがあります。
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エージェント「ランスロット」を真っ二つにするシーン。
これを見て「あれ、これの元ネタ『殺し屋1』じゃね?」と思ったわけですよ。
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イチ(大森南朋)が殺人シューズで真っ二つにするシーン。
ちなみにセーラのDVヒモ男を演じた俳優さんはその後、女性に対する性○強要が被害女性により告発され、今年(2022年)自主的に芸能界を引退されましたが…。『殺し屋1』実写版の配役、的確スギィ!
しかし、私もさすがにAmazon KindleでわざわざAmazonに個人情報晒してまで変態グロ漫画『殺し屋1』を読む気もしなかったので、『キングスマン』を見た後、しばらくそのまま忘れていたわけです。
それから数年後、恐ろしいことにとあるコミック配信サイトで開始された『殺し屋1』期間限定無料配信。これなら個人情報不要!と怖いもの見たさで、とうとう見ちゃいました。『殺し屋1』中盤の展開がエグいことは十二分に知っていたので、1巻→9巻→10巻の順に読みました。その結果…
何という素晴らしい純愛ラブコメ!そして何というイカれた垣原の最期!
あまりにクレイジーな内容に感銘を受けて、マニアになりました。(DGW「ヤバイよ、ヤバイよ…」)
虐殺まみれのシーンの中で、主人公のイチがひたすらTNKをしごき続けるシーン(ちんシュ)が何度も出てくる割には、極端な性的描写や、同性愛要素を一切含まない暴力一筋の純愛という狂ったマンガ。こんな異常な作品は今後二度と出てこないでしょうし、出てきてもらっちゃ困る。映倫先生の判断によると「映画そのものが反社会的存在」だし。だったら原作漫画はどうなんだという話ですが。
(ちなみに映倫は検閲機関ではなく民間団体なので、映画以外の作品を審査することはできません)
グロ巨匠・三池崇史監督と脚本の佐藤佐吉さんが、もし原作漫画の表現に忠実に『殺し屋1』を実写化していたら、実写映画版は上映禁止扱いとなって永久にお蔵入りになってたことでしょう。
ということで、私は原作漫画を見た後は2巻→8巻(延々と続くグロシーン)、実写映画版の順に見たわけです。
そこで、またひとつ確信させていただきました。
『殺し屋1』の原作と『キングスマン』の類似点については次回の記事で見ていきたいと思いますが、マシュー・ヴォーンは間違いなく『殺し屋1』の映画版に加えて、原作もガッツリ読み込んでいます。何という変態。
女殺し屋ガゼルのモデルは、明らかにイチです。
ただし、ガゼルは自らの意思でターゲットを殺害しているので、イチのような気持ち悪い変態サディストのロボット少年兵ではありません。
ガゼルはイチのような「人殺し(killer)」ではなく、真の「殺し屋(hitman)」です。正確には、女性なので「Hitwoman」でしょうか。
他にも、『キングスマン』には『殺し屋1』をオマージュしたネタが多数あります。マシュー・ヴォーンは本当に『殺し屋1』が好きなんでしょう。
ちなみにシリーズ2作目の失敗作『キングスマン ゴールデン・サークル』の方の元ネタは、おそらく日本では映倫から上映禁止判定を食らった香港の実録残虐映画『八仙飯店之人肉饅頭』(1993年)だと思います。
初心者にオススメの『殺し屋1』の楽しみ方(前説)
『殺し屋1』をグロ表現が苦手な人には一切おすすめしませんが、ある程度耐性のある人なら、ロボット少年兵イチと変態マゾ組長・垣原の狂ったサイコホラー兼ラブコメマンガとして大いに楽しめると思います。
そもそも、垣原みたいなイカれたヤクザは現実社会にはいません。実際のヤクザは、裏社会とはいえ徹底した組織人なので、もっとまともです。全身ピアスまみれで、串焼きにも使えるような長い針を持って虐待するような狂ったヤクザはいません。あと、『殺し屋1』の世界ではなぜかヤクザが裏ビデオだけで莫大な収益を挙げていますが、実際のヤクザのシノギは裏ビデオ(現在は無修正動画)だけではありません。ヤクザのシノギで一番収益が大きいのはおそらく覚(以下自粛)
終盤の垣原の無残な死に方、歌舞伎町で殺戮を続けるジジイ、日常に戻るも最後でサディストに戻ることを示唆してあるイチなど、最後の最後まで徹底的にイカれた『殺し屋1』のようなマンガはもう二度と出てこないでしょう。というか、繰り返しになりますが、こんな世界的に見ても明らかに異常な作品が何個も出てきてもらっちゃ困る。表現の自由の履き違えも甚だしい(笑)
なお、読者に不評の二郎・三郎兄弟による女性虐待は、はっきり言ってストーリーを伸ばすための蛇足です。あれがなくてもイチと垣原のラブコメだけで十分ストーリーは成り立ちます。よって、1巻→9巻→10巻という読み方でストーリーの本質が理解できるのです。
ちなみに1回目でも述べたとおり、『殺し屋1』の残虐シーンの殺害方法自体が『北斗の拳』の影響を大きく受けています。
後日別途解説したいと思いますが、二郎・三郎は『北斗の拳』で言うところのザコモヒカンというのが、作品中における真の位置づけだと思います。だから最期もあんなにサクッとイチに殺されてるわけですね。
また、先行してこっそり書いておくと、垣原のモデルはアミバだと思われます。えひゃい!ヒントは北斗残悔積歩拳。
初心者にオススメの『殺し屋1』の楽しみ方(本論)
ということで、一番オススメの『殺し屋1』の楽しみ方を御紹介します。
最初にマイルドな内容の実写映画版『殺し屋1』を見る。
2巻から8巻までストーリーに対して影響のない残虐シーンが延々と続くやや中垂れ感・中だるみ感のある原作と比べると、2時間で一気に原作漫画10巻分を駆け抜ける実写映画版は勢いもあって、内容もR-18の割には完全なコメディだと思います。
特に、エイリアン・サン(Alien Sun、孫佳君)が演じる片言カレンが最大の笑いどころ。日本語を母語とする人間でないと、この面白さは理解できないと思います。
イチも、カレンが片言の段階で、立花さんと完全な別人だと気づけよ。
そもそも、なぜ作品のキーパーソンとも言える重要な役に日本人じゃなくて香港の女優を起用してしまった…
実写版カレン「イチ、ワタシ、タチバナヨー」
ケンシロウ「おまえのような立花がいるか!!
ジャッキー・チェンの手下だな」
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カレンの声に日本語吹き替えを当てるなど、もうちょっとなんとかならなかったものか。
『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』(2006年)で、日本のヤクザ・カマタ(千葉真一)の息子のDKことタカシ(ブライアン・ティー)が
「コノ ガイズィンノ ユーコトヲ キクンザネー(日本語訳:この外人の言うことを聞くんじゃねぇ)」
という片言のセリフを言う爆笑シーンがありました(主人公のショーンを「外人」と言っている自分が片言の日本語しか話せないというオチ)。
さすがに日本語吹き替え版ではしっかり吹き替えられてましたが、字幕版はそのままだったと思います。
『殺し屋1』は低予算映画だったから吹き替えできなかったのかな。
原作にない、カレンがイチを車で跳ね飛ばすシーンも意味不明で最高。
しかもカレンの車は『名探偵コナン』阿笠博士を思い出させる黄色いVWビートル。『殺し屋1』の制作陣には、名探偵コナンに対するリスペクトか何かがあったんでしょうか。
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その後カレンはイチの面前で、片言で立花を演じるも、イチの殺人シューズで
左足サクーの頸動脈ブシューにて断末魔の叫びを上げながら無事死亡。
原作のカレンよりもひどい死に方。
実写映画版ジジイはわざわざ香港人のカレンを日本人になりすましさせて、いったいイチにどんな洗脳をしたかったんですかね…
あそこでイチがカレンの車にはねられて死ぬという別の世界線も見たかった。カレンがイチを轢き殺しておけば自分が殺されることもなかったのに…
ちなみに実写映画版では金子の左足切断のシーンが省略されているので、代わりにカレンの左足切断という表現になったのだと思います。
さすがは反社会的映画(by映倫)。
反社会的勢力(ヤクザ)も真っ青。
カレンを演じる女優さんは、片言の日本語がおかしい点を除けば、本当にすごい美人なんですけどね。そもそも彼女はどういう経緯でこの映画に出ることになったんでしょうか。謎です。そのうちパンフレット入手したい。
ちなみに、彼女のウェイボーを見ると、20年後の現在も美しさはそのままのようです。ちょっと痩せ気味な気もしますが。
話をもとに戻します。映画を見た後の流れは次の通り。
『1 -イチ-』を読んで、イチの同級生に
立花さんや滝原がいなかったことを確認する
(『殺し屋1』の不快なイジメ表現が、イチを
マインドコントロールするための
ジジイの捏造であったことを確認する)
↓
『殺し屋1 誕生編』を読んで、『1 -イチ-』の最後で
イチが鬼鮫を殺したことを確認する
(イチの変態性を確認する)
↓
『殺し屋1』の単行本1巻→9巻→10巻の順に読んで
変マ組垣原の最期を楽しむ(ドスン)
(何なんだこの汚い最期は…たまげたなあ)
↓
『殺し屋1』の単行本2巻→8巻を読んでグロ表現を
ざっと眺める(飛ばし読みでもOK)
上記の順番で『殺し屋1』を制覇した上級者は、入手困難な『SHEEP』を読んで、山本英夫作品に共通するストーリーやグロ表現を学ぶというのもありでしょう。
これから『殺し屋1』を読みたい、あるいは20年ぶりに読み返したいという変態な読者はぜひ参考にしてください!