No,266.性産業について『AVの社会学 なぜ彼女たちは饒舌に自ら語るのか(鈴木鈴美 著)』から考察
鈴美鈴美(すずき すずみ)
日本の作家、エッセイスト、コメンテーター、元日本経済新聞社記者である。慶應義塾大学中、横浜・新宿でキャバクラ嬢として働き出し、アダルトビデオのスカウトとの交際をきっかけにAVデビュー、東京大学大学院学際情報学府の修士課程を修了。
動機と背景
鈴木(2012)の研究では、多くのAV女優たちは「やってみたかった」「興味があった」「有名になりたい」という単純な動機で仕事を始めたこと述べている。
その一方同じ性産業である風俗業界である飛田新地の女の人たちは、は飛田で働く理由として「ずばり金」と述べている(杉坂、2014)。
そのような単純な動機であるにも関わらず、一般的には性産業に従事する女性は「深い理由があるはずだ」という風潮があるだろう。
社会のネガティブなイメージ
なぜこのような風潮になるのだろう?
私たちは、わかりやすい情報を得ると理解し安心する。
例えば「官公庁に勤めています」と聞けば「まじめな人」というイメージが浮かぶだろう。
しかし、「AV女優です」「風俗嬢です」と聞くと「性産業で働かないといけない深い理由がある」などネガティブな印象を持ちやすい。
その理由として、多くの女性が性産業で働いていることを周囲に知られたくない(言わない)ため、性産業の実態なのど情報が乏しくネガティブなイメージが先行されやすいためである。
飛田新地の実例
実際に飛田新地では某国立大学医学部の学生や高級クラブの女性、OL、女子大生、主婦などが働いているが、彼女たちは日常生活ではその事実を告げることはほとんどない。
この秘密主義が、結果的に情報の乏しさを生むのだろう。
実情から考える
ある人気の風俗嬢は、お客から「付き合ってくれ」と言われることが多いという。しかし彼女は「あのお客さんは本当にタイプだけど、私が風俗嬢だと知っているから恋愛対象にはならない」と言います。
「じゃ例えばクラブや街中で知り合っていたら?」と聞くと「もちろん付き合うよ」と答える。
このエピソードからわかるように、性産業に従事していることを明かさないのはネガティヴな心理的背景が働いていることがわかる。
長期的な影響
性産業従事者は自らがやっていることを肯定しつつも、その行為(風俗)を否定する点に問題があるだろう。
また性産業での悩みを周囲に求めないため、慢性的なストレス状態に陥ることがある。
この状態が続くため心理的負担が多くなり抑うつやうつ状態になる。
結果的に、AV女優や風俗嬢は「病んでいる、普通じゃない」と見られることが多いのです。
最後に
鈴木(2012)はこう述べています。
「性を売り物にすることは癖になる」
早い段階であれば修復可能な癖も、時間が経つと取り除くことが難しくなる。