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[#48] ハウスメイトだったクォンの話

ホームステイ先でハウスメイトだった韓国人男性のクォン。
クォンはアーロンというイングリッシュネームがありましたが、本名のクォンで呼ばれていました。(クォン・サンウと同じクォンだと思います。)

余談ですが、日本人や台湾人の名前は欧米人にとって発音やアクセントが難しいので、名前を省略されたあだ名をつけたりつけられたり、本名とは別のイングリッシュネームを持つことがあります。
特に台湾人は本名と一文字もかすらないイングリッシュネームを持っていることが多く、私の友人にもJack、Michael、Steveという友達がいました。彼らのネームの決め方は割と適当らしく、学校や塾の英語の授業で、先生から「はい、今日から君はMichael、君はSteve」という風に決められたりするそうです。しかも公式な名前じゃないので、変更に特にハードルはなく、人によっては気分でコロコロ変えるらしいです。
それを聞いた時、ガラケー時代のメールアドレスみたいだな、って思いました。

ちなみに私が出会った韓国人たちはイングリッシュネームを作らずに、間違えられたら何度でも訂正して本名を相手に覚えさせる傾向がありました。

さて、クォン。彼は私より少し年上で当時45,6歳だったと思います。
留学前、私は「留学は若い人のすること」という先入観を持っていたので、まさか自分より年上の人がいるとは想像だにしていませんでした。

彼は、私がイギリスに来た時点ですでに通算で約1年イギリスに語学留学していて、しかもブライトン Brightonは2都市目の滞在地。
最初はイーストボーン Eastbourneという、ブライトンから車で1時間くらい離れた海沿いの街にある、私たちが通っていた学校の姉妹校に通っていました。
イーストボーンはブライトンに比べるとだいぶ落ち着いた街で、彼に言わせると「退屈だった」らしく、数ヶ月滞在したのちにブライトンに移動してきたそうです。しかし半年経ったころ、パンデミックで状況が悪化し一時帰国。しばらく韓国で待機して、来れるタイミングで再渡英。
私と出会った時点で再渡英半年目。4月末で帰国予定だったところ、学校と滞在を延長して5月末頃に帰国しました。

イギリスに来る前、彼は世界的超有名ブランド(韓国企業ではなく外資)の韓国内の店舗マネージャーをしていたそうですが、英語で行われる全社会議では通訳がいないと何もわからないし、外国人への接客もままならないことに危機感を感じ、仕事を辞めて英語を身につけるために一念発起し留学に来たそうです。

留学当初、彼の英語力はA2レベルという下から2番目だったそうですが、通算1年の間、努力を重ねて上級のC1クラスに上り詰めていました。

年齢もさることながら、彼の留学のきっかけに私は親近感を覚え、そして英語力を得るまで帰らないというガッツにも感銘を受けました。その努力のストーリーが学校内の他の人に希望を与え、英語力が伸びなくて悩んだりすると彼に励まされにいく人もいたくらいでした。

イギリス留学を始めて1週間くらいした頃、私も周りの英語についていけないことに大きな挫折感を感じ、例に漏れずクォンに励まされる一人でした。
ある日のディナーの後、ふとしたタイミングでクォンと2人になった時に衝撃的な出来事が起きました。

「負けずに頑張ってればそのうち喋れるようになりますよ。」
「焦らず頑張りましょう。私も最初はダメダメでしたから。」

と、クォンは励ましてくれました。
日本語で。

え、日本語!?と驚いていたら、クォンはケラケラと笑いながら「実は私、日本にも留学していたことがあるんです。」と流暢な日本語で言いました。
聞けば彼が大学生の頃、交換留学生として九州の大学に1年通っていたそうです。(日本語ネイティブと同じくらい発音が上手で驚きました。)

うちの学校では【同じ言語話者は同じ家にしない】というホームステイ振り分けルールがあったのですが、まさか第2言語が同じ人がいるなんて学校も把握していなかったのでしょう。

それからは、家にみんなでいる時は英語でコミュニケーションをとり、私がわからないときはクォンが後で日本語でそっと解説してくれるという、非常にラッキーなチート生活を送ることができました。

クォンは不思議な性格な人でした。
不思議というか、明るくて寂しがりやで皮肉屋で悲観的でした。
それも使う言語によって言動が変わるのです。

英語を話しているときは、みんなの中心にいて明るく振る舞うみんなのお兄さん。
韓国語を話しているときは、同じ韓国の友だちと遊ぶ約束をとりつけている寂しがりや。
日本語を話しているときは、何かか誰かの文句か愚痴。

韓国語で話していた内容はわかりませんが、休日の遊びや旅行は一人ではしたくないタイプらしく、週末近くなると誰彼かまわず会う約束を取り付けていました。(そういう性格なんだと日本語で教えてくれました。)

日本語の時は、その週末で遊んだ友達の言動のここが嫌だったとか困ったとか、学校ではお兄さんポジションだから、みんなの悩み聞くけど正直俺にはどうでもいいんだよね、とか言っていました。

すごいなあ、と感心したのは、彼がイギリス国内旅行とヨーロッパ旅行を韓国人の友達をした時「実は俺、あの友達とはあんまり合わないんだけど一人で行くよりマシかと思って旅行に誘ったんだ。」と言っていたのと、「イギリス国内をぐるっと回ったけど、どこ行ってもパブと教会しかない!風景が一緒で飽きた!」とバッサリ言い放ったことです。

他にも学校の特定の人を「あいつ嫌いなんだ」とか、クラシックなサーカステントを「ナニコレ!古くて変!」って言ってたり、あまりにもストレートな物言いが一周回って面白かったです。

2ヶ月くらいしか一緒にいなかったけれど、衝撃的な言動が多々ありエピソードに事欠きませんが、話すとキリがないのでここらへんで。

クォンさん、元気にしてますか。
弱っていた時に支えになってくれてありがとう。
ハウスメイトとして出会えて本当に感謝しています。

ではまた。

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