[#34] イギリスの巨大パブチェーン JD Wetherspoon
イギリスといえばパブ(Pub)。
パブはパブリックハウス(Public House)の略で、その名の通り古くからイギリス人の社交の場として親しまれてきました。
イギリスのパブは日本の居酒屋とは会計システムが異なり、原則は自分のオーダーを先払いするキャッシュオンデリバリーです。自分が頼んだ分だけ払うので会計が至ってシンプル。会計済みのためグラス片手にこっちへフラフラ、あっちへフラフラ、好きなところで会話に参加できます。飲み終わったら”Cheers!”と言ってグラスをカウンターにポンと置いて帰れます。
パブはそのほとんどが独立した個人店のため、特徴・お酒のラインナップや個性・内装がお店によって全く異なります。そういう視点でのパブ巡りも趣きがあって楽しいです。
そんなイギリスのバブ文化に、創業以来、新風を巻き起こし続けている巨大パブチェーン”JD Wetherspoon”があります。
イギリスに行ったことがある方、滞在者にはお馴染みかと思いますが、JD Wetherspoonはイギリスとアイルランドに900店舗以上あるパブチェーンです。その最大の特徴は、歴史ある建物風な外観に広々とした店内、飲食物は高くない、というよりむしろ安い庶民的な価格設定、お店によるけど大体が朝から晩までやっていることです。その圧倒的な店舗数から、空港や駅構内はもちろん、どの街にも必ずあると言われています。私がいたブライトンにも3店舗はありました。
創業は1979年。北ロンドンで当時23,4歳だった青年、ティム・マーティン氏が始めたパブが起源です。
お店の由来は、創業者が好きだったテレビ番組のキャラクター”JD"と、ニュージーランド留学中に出会い、ティム氏に対し「君は成功しないと思うよ」と言い放った”Wetherspoon"先生の名字だそうです。ひどい話だ。
1店舗目が軌道に乗り、店舗を複数展開していく中で90年代にティム氏は一つのユニークな方針を取りました。
それは古い映画館や銀行の跡地を改装してパブにしたことです。そのため外観は歴史的な建物、店内は普通のパブに比べて広々という特徴が生まれました。敷居の高そうな外観とは裏腹に、ビールは一番安い銘柄が他のパブの半額くらいで飲めますし、食事もレストランの半額以下で食べられます。安いからって味がひどいわけでもないです。
広くて安くて食事ができて朝から晩までやっているため、早い時間帯はリタイアした年齢の方々がブレックファスト、お昼は近所の方々がランチ、夜はディナーか飲み利用の人々で賑わっています。
留学生の冗談で、イギリスに来て最初に覚えるべき英語は”Could you tell me where is the nearest JD Wethespoon?”だ、なんて話も聞きました。私の周りだけでしょうか。
とはいえ、一回行ったら二度行きたいかと言われると、うーん…と悩むお店。それがWetherspoon。
行ったらわかります。だってどのお店に行っても一緒なんだもん。トイレを探している時か、選択肢がなくて困ったら尋ねてみてください。
私のブリティッシュな友人は「Wetherspoonは伝統的なパブ文化を壊していくんだ。イギリス人はみんな嫌いだよ。」って言っていましたが、900店舗という数を見る限り、少なくともみんな嫌いではないでしょう。
それを聞いた時、増殖する居酒屋チェーンの隣で消えゆく赤ちょうちんを見ながら「日本の居酒屋文化が…」って言ってるのと変わらないなって思いました。
余談ですが、歴史ある建物風な外観に広々とした店内、高くない飲食物で思い出される類似の事業形態をもつ居酒屋チェーンが東京にもあります。
新橋、新宿、原宿、神楽坂など、人の集まる繁華街を中心に展開している、激安居酒屋グループとか飯田系列とかひらがな三文字系とかさまざまな呼称で呼ばれているあの店です。
日本料亭風な趣きの外観をひとたびまたぐと、その実はやけにお酒の安い居酒屋。
もしかしたら観光客ウケもいいかもしれません。英語対応しているかわかりませんが。
ご存知ない方は行ってみて「わさびまき」を食べてみてください。泣けますよ。
ではまた。