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【前編】「歴史に参加する感覚」 クラウド化とAIで医療のあり方を変える、ispecの事業と技術戦略 | ispec CEO・CTO対談

株式会社ispec、採用広報ロールの上原です。
今回は、弊社CEO谷村とCTO山田に、ispecの事業や組織の取り組みについて対談形式で語っていただきました。
前編となる本記事では、事業の方向性や技術者視点で感じる医療業界の課題、そして今後の展望にフォーカス。
どのような思いで医療DXに挑み、技術を活用し、どんな未来を描こうとしているのか…。
CEO・CTO、それぞれの点や人柄にも触れながら、医療システムのあり方を変えようと挑戦する、ispecの「今」をお届けします。

後編では、組織全体や開発組織としての取り組み、働き方や価値観についての最近のエピソード語っています。ぜひ併せてご覧ください。

アイスブレイクと称し、あらゆるポーズをせがんだら、戸惑いながらもダブルピースをくれた(笑)

ispecの事業について


初めてispecを知る人向けに会社紹介をお願いします

CEO谷村:
ispecは、「医療業界のイノベーションを加速させる」というミッションのもと、事業を推進しています。一言で言えば、医療システムのあり方を変えることに取り組んでいます。
大きく分けると、2つの取り組みがあります。1つ目は、病院の電子カルテを中心とした基幹システムのクラウドマイグレーションやモダナイズに関する技術支援を、ベンダー企業様向けに提供しています。2つ目に、医療機関と連携し、AIを活用した医療DXの推進を行っています。

今の事業構造に至った背景を教えてください

CEO谷村:
最近は、保険料の上昇や病院の経営難がよくニュースで取り上げられますよね。これらは今後2040年に向け、さらに深刻化すると言われています。
その大きな要因の1つが、日本の超高齢化社会による医療費全体の増加です。誰しも歳を重ねれば医療を利用する機会が増えるわけで、国内の高齢化が進むにつれ医療費が膨らみ、財政が逼迫しています
さらに、医薬品や材料のコスト上昇も影響しています。医療業界は、費用が増加する一方で売上を自由に伸ばすことが難しい構造になっているのが特徴です。…というのも、保険医療に関してはビジネスモデルが決まっており、提供可能なサービスや価格は国によって定められています。病院側は自由に価格を設定できない構造なので、いかに効率的にサービスを提供するかが重要となります。
そこでispecは、基幹システムの改善と、AIを活用した医療DXの推進に取り組み、効率的な医療提供と持続可能な医療体制の構築を支援しています。特に、病院で使用される電子カルテの多くは、オンプレミス環境で運用されていて、他システムとの連携が難しいため、効率化の障壁となっています。これらの課題を解決するため、医療機関と協力し医療DXの推進をはかりながら、電子カルテをはじめとしたシステムのアップデートに取り組んでいます。

事業に対する思いについて


谷村さんは、もともと医療への関心が強かったんですか?

CEO谷村:
実は、医療にまつわる直接的な原体験はないんです。あの、かなり健康に…生活させてもらっているので…。(笑)

ただ過去に、とある病院のDX推進室で1年間ほど勤務させていただいた経験がありまして、その際に現場の課題を目の当たりにしたことが、医療に挑む強い動機になっています。
もともと自分は機械学習の研究をしていて…それこそ在学中は、CTO山田と同じ研究室にいたんです。そんな開発者としての経験もあって、病院にお邪魔する際は、「俺がいけばめっちゃDX進むぜ!」という気持ちでした。
ところが、実際に働いてみると思っていたほどの改善が難しかったんです。その要因の一つが、システムがクラウド化されておらず、業務の効率化がしづらいことでした。例えば、GASやGoogle AppSheetを使った簡単な改善すら導入しづらい。なぜなら、業務で使用するのは院内のパソコンですが、インターネット使用時はiPadを使わなければならない…などのルールがあったんです。
情報が分断されることで、叶えられることが極端に制限される現場を拝見し、現状の基幹システムを抜本的に変える必要を強く感じました。何より、思うような業務効率化や本来あるべき姿にない状況を目前にして、技術者としてのもどかしさを感じました

医療現場の方々は頑張っているのに、業界の構造や歴史的背景が障壁となり、大変な思いをされています。技術的な課題が多い領域であり、エンジニアが関わることで医療システムや業務を改善する必要がある…そんな使命感を技術者として感じています。

健康そうな笑顔に、一同ニコニコ

山田さんは、どんな思いをお持ちですか?

CTO山田:
エンジニアが活躍できる余地、技術を活用できる余地が大いにあると感じています。谷村も言ってくれたように、今の医療システムはITの最先端技術と比べると、明らかに遅れています。適切な技術を活用することで、コスト面や業務負担の軽減、利便性の向上が可能だと考えています。
また、個人的な思いとしては「社会のインフラを技術で作りたい」という気持ちがあります。我々にとって医療は、”当たり前に受けられるサービス”のように思えますが、実際には多くの課題が存在します。技術を提供することで、社会的なインフラの質をあげることに貢献できるので、やりがいを感じています。

CEO谷村:
山田の話を聞いていて、最近特に感じることを思い出したんだけど。この、”医療業界と少子高齢化”の問題って、日本以外の国々も悩んでいて、いずれはどの国も直面すると思うんだよね。中でも特に少子高齢化が進んでいる日本は、ある意味で圧倒的なリーダーシップを取っている状況なわけで…。

CTO山田:
リーダーシップ……(苦笑)まあ…そうね。

CEO谷村:
例えば、東南アジアの国々は、すでにインフラが整い始めている所も多いけど、恐らく日本と同じような曲線を辿って少子高齢化に向かっていく。これは時代の流れとして避けられない。そんな中で日本は、どういう立ち位置で医療を考えるべきかが重要だよね。単に「医療の問題」にとどまらず、最近話題の”医師偏在の問題”も含めて、国のあり方や国民としての生き方にまで関わる話だなと思う。
今のispecの事業は、医療の提供体制がどうあるべきか…社会のあり方をどう定義し、どう作っていくか…まで、考えを巡らせながら取り組める面白さや奥深さがすごくあると感じます。例えば、山田が参加してくれているデジタル庁との連携は、次の社会のあり方をどう作り、どう提示するのかと向き合う、非常に重要な機会になっているよね。

“ジャン=ポール・サルトル”の言葉を借りると「歴史に参加する」感覚に近いかもしれません。

CTO山田:
アンガージュマンね。(笑)

「哲学」が好きなコンビのやりとり

CEO谷村:
そう。(笑)…アンガージュマン的な感じで。それくらい今の社会の状況と、今後どうあるべきかを踏まえた、”医療のあり方”を考える必要があると思う。壮大なテーマに取り組んでいるという面白さを感じながら事業を進めていますね。

CTO山田:
医療システムのあり方を変えていくためには「医療システムはこうあるべき」と、定義する必要があるよね。つまり、医療というものの体制を再定義する感覚に結構近いと思う。そして、医療の体制を再定義するということは、単に医療システムの話にとどまらず、社会の中で医療がどのような役割を果たすべきか、という視点まで踏み込んで考えなければならない。そこを一気通貫で考えた上で、「今の社会やその情勢を踏まえたときに、システムは本来こうあるべきだよね」「じゃあ、その延長線上にあるキーワードの1つが”クラウド化”であることは明らかだよね」と、全体のつながりを俯瞰した思考で事業を作ることが理想的ですし、すごくやりがいを感じられるよね。

事業の具体的なアプローチについて


各事業にて、どんなことに取り組まれているのでしょうか?

CEO谷村:
1つ目の基幹システムのクラウド化支援に関しては、高い信頼性が求められます。特に電子カルテは停止すれば患者さんの生命に直結する、病院の運営に不可欠なシステムであり、とてつもなく規模が大きいシステムでもあります。しかし、現在も多くの医療施設がオンプレミス型を使用しており、クラウド移行を進める際の課題が山積しています。
安全で安定したシステム運用を実現するために、ispecではパートナー企業様やデジタル庁と連携し、新しい技術を活用した上で、セキュリティの強化や設計の最適化など、多方面から技術支援を行っています。

2つ目のDXイノベーションに関しては、医療提供の細分化にフォーカスし開発しています。国が掲げる地域医療構想では、病院を”高度医療を担う場”として、かかりつけ医を中心にしたクリニックを”地域医療を担う場”として位置付けています。このように細分化することで、例えば、クリニックに通えない高齢者を対象に訪問診療が主治医として対応し、重症化した場合には病院を紹介する…より細かいケアは訪問看護が担当し、介護はケアマネージャーが管理する…のような役割分担が可能になり、患者の状態に合わせた最適な医療提供が行えるようになります。
ispecでは、AIなどの新しい技術を取り入れながら、医療機関と共にモデルケースを作成しており、他の機関にも展開することを目指しています。医療提供が細分化される中で、職種間のスムーズな連携を実現するには、やはり情報の共有が不可欠です。しかし現状は、基幹システム、特に電子カルテが他システムと十分に連携できておらず、多くの情報が活用されないまま眠っていることが課題です。
ispecでは基幹システムの改善と医療DXの推進の両面から、医療システム全体のあり方を変えていくことを目指しています。基幹システム側ではAPIを公開し、他システムと連携しやすくする取り組みを行っています。合わせてAIなどの最新技術を活用し、医療機関と協力しながらDXを推進することで、新しい医療提供の形を実現していきます。

どんな技術を使っていて、どんな課題があるのでしょうか?

CTO山田:
明確な課題の1つが、信頼性の担保です。
基幹システムは、いわゆるミッションクリティカルなプロダクトであり、医療業務を支える決して止まってはいけないシステムです。そのため、ソフトウェアの設計や作り込みによって信頼性を高めることが求められます。例えば、カルテのデータは権限を持つ人しか編集できないといった機能要件があります。これをデータベースとアプリケーションのレイヤーでどう守るか、設計責任をどう分担するか、といった点は慎重に作り込む必要があります。議論を何度も重ねながら開発を進めており、具体的にはADR(Architecture Decision Record)を用いて設計方針を明確に言語化しながら、より安全で信頼性の高いシステムづくりに取り組んでいます。

2つ目の課題が、クラウド化によるスムーズな連携です。
基幹システムには電子カルテもあれば、特定の部門専用の基幹システムも存在します。中央に位置する電子カルテだけでなく、部門システムもクラウド化が必要です。それに対応できる開発環境を整えるため、病院の業務システムを簡単に立ち上げられる開発プラットフォームを作っています。このシステムを構築するために、コード生成、gRPC、Protocol Buffersなどを活用しながらスキーマ定義を行い、効率的な開発を進めています。
非常に面白い取り組みですが、技術的には難易度が高い領域です。Health SamuraiやWelkinなどがHeadlessなEHRシステムを提供しているんですが、これらの良い事例をベンチマークしながら、医療分野に適した新しい開発プラットフォームの形を模索しています。

3つ目が、AIやLLMの活用です。
LLMは明らかなゲームチェンジャーであり、AIの精度向上によって我々の常識を大きく変えていますよね。この技術が医療業界でも活用されるのは必然ですが、課題もあります。特にハルシネーション(AIの誤情報生成)は、医療業務において深刻な問題になり得ます。ミスが許されない領域であるため、LLMを安全に活用するための仕組みが不可欠です。対策として、”LLMのチューニング”と”システムのUI/UX設計”の2軸で取り組んでいます。
技術的な面では、2つのLLMを用いて相互チェックを行う、Evaluator Optimizerなどの新たなWorkflowの設計が提案されており、より信頼性の高いシステム構築が可能になってきています。またシステム側でも、最終的に人間が承認するフローを設けるなど、ミスを防ぐUI/UXの工夫が重要です。
新しい技術を適切に取り入れコストを抑えつつ、安全で信頼性の高いシステムを作っていきたいです。

LLMの活用については…谷村、実際どう思う?
色々な医療機関さんをヒアリングしていて思うけど、LLMの活用は、結構見えてきそうな感じするよね?

やりとりが弾んできた…!

CEO谷村:
そうだね〜。プラットフォームの開発とか、FAXの情報を読み取ってFHIR形式に変換するみたいなモジュール開発なんかの細かい取り組みは、実際の訪問診療や精神科病院と連携して共同研究や共同実証ができているもんね。
今まで取得できなかったデータを収集・構造化して、さらに電子カルテと連携させられれば、”システムの在り方を変える”っていうテーマに繋がる。

ただ、ここで見過ごせないのが”データとコミュニケーションが分断されている”という課題だなあ。
データを蓄積すること自体に価値はなくて、重要なのはそれを活用することだよね。「活用する!」っていうと、なぜかデータ分析やAIの導入といった話になりがちだけど、そもそも”データを共有するのはコミュニケーションのため”って前提があるはず。
それにも関わらず、今はコミュニケーションの場とデータを保存する場の分断が続いていて、ここがしんどいポイントだな…と感じる。例えば、電子カルテのデータは各医療機関のオンプレミス環境に保存されているし、医療機関同士のやり取りは、電話やFAXだよね。IT企業であれば、SlackやTeamsで交わした内容やファイルを管理して、Notionの情報が自動でSlackに共有されるとか、データとコミュニケーションが一体化しているはず。
医療の現場にいる人は、一般的な企業の人以上に、日常業務で多くの人と関わっているだろうし、センシティブな情報も扱っているわけで、医療機関こそコミュニケーションが一体化した仕組みを導入するべきだよね。この状況を一歩前へ進めたい。

CTO山田:
確かにね。普通にエンジニアとして働いていると、Slackがハブになっていて色んなサービスと連携するのが当たり前だよね。Notionにドキュメントがあってコメントもできるし、GitHubでコードが管理されていてプルリクを通じてコミュニケーションできるし、いずれもその通知がSlackに自動で届く。
そこを医療機関では人間が頑張っているからね…。よしなに医療情報を抽出して、医師が確認しやすい形でカルテに転記するとか、ほとんど手作業で行われているもんなあ。
ここは、結構LLMが活用できる余地が大いにあると思う。

CEO谷村:
そうだね〜。そんな非臨床領域の負担こそ、ispecが重点を置いているところだからね。臨床医師を直接支援する領域には踏み込まず、情報共有やタスク管理、連絡業務とか、本来不要なはずの業務を減らすことでの業務効率化を実現しようとしている。

CTO山田:
LLMの大きな強みは、能動的にコミュニケーションを取れることだし、コミュニケーションが円滑になって、データの分断が解消されれば、さらに活用範囲が広がると思う。
これは個人的に思っていることなんだけど、いわゆる”マネージャー業務”もLLMで補完できると思っているんだよね。例えば、病床コントロールとかシフト管理みたいな仕事かな。複数の関係者とコミュニケーションをとって、情報を集めた上で意思決定する業務は、人間にとっては精神をすり減らすような負荷があると思う…。
どこまでできるかわからないけれど、そこをLLMで軽減してみたいなあって思うな。

CEO谷村:
そこの1番の障壁は、人と人の関係性や相性が絡むことだね。
「この患者Aさん、患者Bさんが同室だと、もしかしたら相性が悪いかも」「患者Bさんは、担当Cさんの方が良いかも」みたいなパターンとか。十分なデータ取得ができた際に、LLMがどこまで適用して立ち回ることができるかだね。

CTO山田:
そうだね〜。白黒つきにくいような日々のコミュニケーションを、LLMが適切に解析できれば、繊細な「ソフト面」も考慮した業務サポートができるかもしれない。

対談日:2025年2月5日


後編では、組織全体や開発組織の取り組み、働き方や価値観にフォーカスします。
組織として学び、成長し続けるための取り組みとは…?メンバー間の"良い関係性"が感じられる瞬間とは…?
フルリモートでありながら、強い一体感を持てるispecのチームについて、CEO・CTOが直近のエピソードを交えながら語ります。後半も、ぜひご覧ください。

お読みいただき、ありがとうございました

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