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19.哺乳類の棘突起の観察 その2

つづきです。
今回も骨格標本の観察ポイントとして、棘突起を取り上げます。


トラ

トラの骨格

出典元:The South China Tiger Is Functionally Extinct. Stuart Bray Has 19 of Them

チーターよりも棘突起に幅(頭尾ラインにおいて)があります。つまり背骨の丸める反らす運動がチーターほどではないということになります。丸める反らすを激しく行うと棘突起同士がぶつかってしまいますので。

それでも胸椎と腰椎で棘突起の方向ははっきり逆を向いているので、ネコ科らしい背骨の丸める反らす運動があることが分かります。
この標本の背骨は真っ直ぐですが、本来はもう少し下に垂れる、つまり少し反る感じになります。標本を固定するのに芯を入れてるのでこうなったのでしょう。

余談ですが、ライオンとトラは見た目は全然違いますが、骨格はよく似ています。見分けられるのはその道の人だけだと思います。

ウシ

ウシの骨格

出典元:Cow skeleton | Cow skeleton, Animal skeletons, Animal skulls

棘突起の長さがすごいですね。下部頸椎から上部胸椎が極端に長いです。これがどういう意味なのか、一般的には解釈されておりません。
わたしは項靭帯から棘上靭帯の流れをみます。ウシのように頭を水平位、もしくは下げている有蹄類は項靭帯と棘上靭帯でつねに頭を吊っている状態とみています。その中心となっているのが、胸椎1番とみています。単純に一番長いからです。

棘突起の方向は頸椎6番からゆるやかに尾方に倒れていき、その傾斜がまた緩やかに消え、何事もなかったかのように腰椎に移行します。これはつまり途中いろいろあったけれど、全体として齟齬を生じない同じような運動をこなしている、ということを表します。

バイソン

バイソンの骨格

出典元:American Bison skeleton | The "after" shot. After mom has be… | Flickr

参考までにバイソンです。先ほどのウシを特化するとこうなるだろうという骨格です。棘突起の特徴も同じです。
こうして有蹄類をみていくと、ネコ科やイヌ科などのような胸腰椎の違いがないことがよく分かります。これはつまり、腹と胸の拮抗運動による呼吸から、胸腹協調運動の呼吸へと移行したことを示唆しています。この話は字数がかかるので、またいずれ書きます。

背骨の目安として、頸椎2番の棘突起が大きいことを覚えておくと便利です。ほとんどの哺乳類の頸椎は7個です。また奇蹄目以外の胸椎は13個です。よく観るような標本はだいたいこれでいけます。

またここまで取り上げませんでしたが、多くの哺乳類は頸椎の棘突起が頭方に向いております。前哺乳類から哺乳類への移行において、頸椎と胸椎の運動方向が変わったことを表しております。

ウマ

ウマの骨格

出典元:Horse Skeleton Photograph by Elisabeth Weiland - Fine Art America

頸椎の話のついでに、再びウマの観察です。
ご覧のようにウマの頸椎には棘突起がほとんどありません。ところが同じ奇蹄目のサイやバクにはあります。それでは奇蹄目の古生物ではどうかというと、パラケラテリウムの仲間に頸椎棘突起がないものがおります。

パラケラテリウム

パラケラテリウムの骨格

出典元:Full Size Huge Rhinoceros Paraceratherium Skeleton

このことから分かるのは、頭を上げている奇蹄目の棘突起は退縮していくのではないか?ということと、それは項靭帯の激しい活用に原因があるのではないか?という推測です。

パラケラテリウムは趾が3本なのでサイの仲間のようですが、首の長さからするとサイのように下に下げていた可能性よりも、ウマのように上に上げていた可能性が高いようにみえます。また頸椎棘突起の特徴からすると、やはりウマの運動性に近いと思われるのです。

同じように項靭帯を激しく使い、頭を上げていることも多いイヌはどうか?というと、イヌにも退縮傾向がみられます。しかしながらイヌは犬種によって運動性が大きく違い、骨格にも差異があると思われますので、結論は難しいところです。調べるのにも時間がかかり過ぎるので、当面調べる予定もありません。

イルカ

イルカの骨格

出典元:White-sided dolphin skeleton | Animal skeletons, Dolphins, Animal skulls

イルカは鯨偶蹄目の仲間です。ウシと同じ偶蹄目の祖先が海へ帰っていったのがイルカでありクジラです。

頸椎以外、全部同じ椎骨に見えます。哺乳類は頸椎・胸椎・腰椎が仕事分担した動物でしたが、ここにいたり、胸腰椎は同じような仕事をするようになったのです。

ちなみに横隔膜は、水の中にいるので水平になりました。


合わせて⇓もお読みいただけると幸いです。


見出し画像出典元:PPT - The Vertebral Column PowerPoint Presentation, free download - ID:4093859

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