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ショートショート「はやく明日に」500字

「スズカ、まだ起きてたの? 早く寝なさい」

 母親は窓辺から夜空を眺める娘に言った。

「ねえ、ママ」

 娘は母親を振り返って言った。

「なあに?」

「夜って、なんでこんなに長いのかしら」

「なに、どうしたの?」

「はやく明日になってほしくて」

 明日は娘の学芸会の日だった。

「わくわくして眠れないんでしょう?」

 母親はそんな娘がかわいく思えた。

「たとえば、夜のお空を駆けっこみたいに走れたら、早く明日になるのかしら」

 いきなり詩の一節を朗じ始めた娘に驚きながら、母親はこう答えた。

「そうね。そうしたら目をつぶって、スズカが夜空を駆けるところをイメージしてごらんなさい。そうすれば、ほんの少しで朝になっているかもしれないから」

「わかったわ、ママ」

 そうして母親は娘を寝台へと導くのだった。


 翌る日。

「はあ、はあ、はあ」

「スズカちゃん遅〜い!」

「もう私たちの劇、始まっちゃうよ」

 スズカは学芸会に遅刻してしまった。

「スズカちゃん、昨日の夜わくわくして眠れなかったんでしょ」

 お友達に囃し立てられたスズカは、息を整えながら答えた。

「違うの。夜を早く進めようと思って駆けっこしてたら、朝を通り過ぎてお昼になっちゃった」

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