古材で家具づくり千本ノック【椅子編】
この記事は、現在開催中の第17回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展の日本館展示「ふるまいの連鎖:エレメントの軌跡」において、筆者が展示の手入れをしに現地に赴いた際に作った一連の家具群を紹介するものです。
ベンチ編に続き、主に柱材を使った背もたれ付きの椅子の試作の記録を紹介します。概要については最初の記事↓をご覧ください。
《1》 柱の切れ端椅子
◆ごみ同然の端材でも何とか椅子にする
以前、そもそも古材やリサイクル素材でできた家具にはどんな先行事例があるか分析した際、以下5つの類型を読み取ることができました。以下にその例を載せます。
①読み替え
元々の形状を生かしたアイデアで椅子などに転化したもの
▲(出典)DIY DESIGN VAN DAVID OLSCHEWSKI
②粉砕成型
原材料を細かく砕いて工業的に椅子などの形に成型したもの
▲(出典)PAPERBRICKS_PALLET_SERIES/WooJai Lee
③パッチワーク
古材(木材)の風合いやコントラストの差を継接ぎで強調したもの
▲(出典)ARAMAKI
④基準面設定
座面(天面)高さに設定した仮想の平面に沿って切断(or配列)したもの
▲(出典)Leftover Collection:Table/Rabih Hage
⑤椅子形集積
日用品や小物を椅子のような形に集めて接着したもの
▲(出典)Eco Furniture from Recycled Silk Remnants, by Meb Rure
このうち⑤の椅子形集積に分類できる古材家具は、(用いる素材の物性を多少無視してでも)椅子のような形にくっ付ければ何でも出来るという点で先行事例も多かったように思いました。
家具製作をしていた工房の中央には端材や木屑を溜め込んでおくためのゴミ箱が設置されています。ゴミ箱に放り込まれている使い道のなさそうな小さな木片も、接合して椅子のような塊にできないかと考えました。
中には柱や梁の先端から切り落とした太くて短い木片もあったので、これの切り口を上に向けて面を揃えることで座面にできないか検討を重ねました。
◆10cm角の木材を2cmのビスで束ねる
角材をビスやボルトで束ねようとすると、長い下穴を開ける・大きなネジを使う等工作に大変な手間と精度が必要になります。そこで検討の末、長いビスやボルト・接着剤を用いずに、木組みと短いビスによって角材9本を束ねる方法を考案しました。
両脇のパーツを中央のパーツに上から嵌め、脚をつける
◆想定した素材や環境が必ずしも整っているとは限らない
上述の方法は以前から何となく構想していましたが、実際の古材は平滑面がほぼなく、製作環境も水平で平滑な作業台や垂直を出せる道具が揃っていない状況で、CGの想定通りに綺麗に製作できませんでした。見栄えも悪く、展示物としては二軍落ちになってしまいました。
製作環境は自分である程度整えることは可能かもしれませんが、素材の状態や形状まではコントロールできないのが古材家具制作の難しい所です。反りや曲がりの多い古材においては、材の面どうしを重ねる接合を多用しすぎると誤差を吸収できないという当たり前の事に気付かされました。
《2》 柱で挟む椅子A
◆床に平置きして形状を確認しながら作る
柱の切れ端椅子の反省を生かし、今度は平らな床や各種道具が無いなりにきちんと作れる方法を考えました。そこで、床に使用部材を並べるだけで完成形がある程度見えて、適宜寸法や角度を調整しつつ平置きで組み立てできるツーバイフォー工法のような作り方を想定しました。
製作の過程で部材や身体のアクロバティックな動きを必要としないこと、必要な道具の種類を最低限に抑えることは自分のような非熟練者が家具づくりをする際に重要な点なのではと思います。
《3》 柱で挟む椅子B
◆家具の"生活の中にある物"としての適切な質量
柱で挟む椅子Aは横方向の安定性に若干欠けるためもう一列増やしてみました。しかしこの工房で作られた家具群は展覧会終了後に現地で配布される可能性も想定する必要があり、これら椅子は持ち帰るには重すぎるのではとの指摘が入りました。
水運・海運が発達しているが陸路の輸送は基本人力(台車)
ヴェネツィアは島内の移動手段が船か徒歩の2択しかなく輸送コストも高いので、日本のようにホームセンターで買って自家用車で持ち帰るというような気楽な移動はできません。家具は生活と密接に結びつくものですが、家で使う事以外にも家具やその素材を買ったり拾ったり、捨てたりあげたりすることもまた生活の一部です。家具の質量について、軽いと模様替えがしやすいといった単純な話だけでは済まないだろうと思いました。
《4》 柱で挟む椅子C
◆アイデアの統合と発展
A・Bの反省を生かし、ぎりぎり持ち帰れる重さに抑えるため座面を軽い窓枠材に変更しました。その結果重心が下に寄ったことで椅子としての安定性が向上したので、柱で挟む椅子シリーズとしては一旦区切りとしました。
最終的には結局全ての椅子の脚にブレースを入れて固定しましたが、不安定さを逆手にとって折り畳み機構を追加した「柱で挟む椅子D」に更に発展させていくことも考えています。
柱で挟む椅子Dの案(縦材が平行)
まとめ
ベンチの製作では平らな面をどう作るかが問題となったのに対して、椅子の製作では特に部材どうしの接合方法が問題となりました。
分解の事を考えて接着剤のような湿式接合は当初から想定しておらず、ビスよりシビアに寸法を見る必要があるボルト接合についても今回は使っていません。端材を使って作るという制約上、ビスに関しても新しく調達せず保管されていた余り物を使いました。(日本館には歴代の展示の解体で排出されるビスを雑多に保管しておく「ミステリーボックス」なる小箱がある)
柱のような太い木材はビスで束ねるのが難しく、短いビスのみで接合することを目指した《1》以外では結局ビスの斜め打ちを多用してしまい、強度を損ねる一因となりました。
ビスの斜め打ち(上)↔ ボルトナット(下)
電動ドライバーとビスを使った接合は手軽に思える一方で、力のかけ方や素材との食い込み加減など実は繊細な判断を要する作業でもあります。
今回は素材も作り方も環境もあまりに場当たり的過ぎましたが、ビス留め一辺倒にならずにボルトナットも適切に使用する必要がありそうです。
また一方で、電動工具などを必要としない紐やロープを使った組み立ての可能性についても今後考えていく余地があります。
次回【スツール編】はこちら↓
(特記のない写真や画像は筆者撮影・作成)
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