『キリンの保育園』新・動物記1
齋藤美保
京都大学学術出版会 2021年
人類学とかフィールドワークとか興味があって、でも残念ながら自分で関わるにはもう遅いしそこまでの情熱もたぶん私は持てないので、たまに本で読むくらいにしている。
この本については、新聞の記事で知った。どうやらシリーズものらしいのだけど、読めたのはとりあえずこの1冊のみ。
読んでみると、著者はまだまだ若いドクターらしく、最後のほうには「今後どうするか、どうしたいか」ということも書いてあってほほえましかった。
著者がキリンの研究を始めたのは、ごく幼い頃の経験のみ、によるらしい。TVなどでたまに、若くして専門分野にギュッと的を絞って経験を積んでいる人を見ると、「小さい頃に、これに関わりたいと思った」その思いをずっと持ち続けている人が多いようで、感心してしまう。
私自身は小さい頃に何かを感じた覚えはあるけれども、それが将来にはつながらなかった。なんというか、実現可能なことなのだと考えていなかったのだと思う。そこまでの熱意も持たなかったのだと思うし。
自分はそうだったけれども、自分の子どもは違うかもしれない(いや違わないかもしれない)、とにかく可能性としては何も否定できない。だから、いろいろな経験をしていろいろ感じてもらいたいと思っている。自分の子どもでなくても、接する時には「もしかしたら、私の言動がこの子に何か影響するかもしれない」と心のどこかで思っている気がするし、できたらいい影響であればいいと思う。
さて、本の内容について。
著者がなぜ野生のキリンを研究することになったのかそのいきさつが書いてあって、それがまた面白かった。人生って、思わぬきっかけで方向が変わるよね、わかるなあ。
徒歩で野生のキリンを観察しているのはこの時点では著者のみであるらしい。そのメリットもデメリットも書いてあってそこにも好感が持てたが、個々の生きざまを知るのは全体の把握にも役立つだろうと思ったので、とにかくがんばってほしい。
今は女性だの男性だの言うことははばかれれるけれども、でもやはり女性一人でフィールドワークするのは怖くないのだろうか。自分の子どもがするにしても、めちゃくちゃ心配すると思う。それを乗り越えて実行し、現地の人といい関係を築けていることも尊敬する。
「キリンを見た時に、ほんの少しでも何かを深く知ってもらえたら」という著者の思いが随所にあったので、私も次にキリンを見る機会があったらぜひ角や模様や性格についてでも観察してみたい。
気候変動や人間の行動で、野生生物の環境も大きく変わってきている。最近の日本の熊の暴れようも、その影響なのだろう。人間も大変だけど、生き物全体が大変だ。せめて、人間の「わがまま」で他の生き物に影響を与えないようにと思う。
オーバードクター問題などでせっかくの才能をしっかり生かせていない社会環境を普段から残念に感じているので、ぜひ著者にもがんばってもらいたいし、周りの人も制度もそのがんばりに応えるものであってほしい。