【ショートショートストーリー】9月26日(日):思いやりのない試験
数日前から続いていた腰の痛さに目がさめた。時計を見ると、5時ちょうど。
「もう少し寝ててもいいか...。」僕はふたたびベッドにもぐりこんだ。
★★
朝からうまく行かないことが続き、すっかり機嫌がわるくなっていた。
公立学校の事務職員採用試験選考の日。本当なら試験場ちかくのビジネスホテルに泊まって、ふかふかのベッドで睡眠を取れるはずだったのに。
今回は障害者向けの試験ということで、ぼく自身出入り口にちかい席に変えてもらったりしてそれほどの緊張はない。
試験前日はあわてずゆったりと過ごすのが理想。でも、実際はシャツやベルト、ソックスなどを買うためにわざわざ大阪まで出かけなければいけなかった。
証明写真も昨晩に駅前のインスタント写真で済ますことになってしまったし、障害手帳のコピーもまだ手元にないので途中でコンビニに寄らないと。ICカードには残額が500円しかなくて地下鉄に乗るにはギリギリだ。
そうこうしながらも、片道1時間半ほどの試験場に到着。現地の公立高校が試験場になっている。ラフな格好のぼくにくらべ、他の受験者はみんな就活チックな白黒のスーツに身を包んでいた。
試験はコロナ前のTOEIC試験のように、教室の前で担当者がたんたんと注意事項を読み上げていた。
違和感は教室に入って黒板の注意事項を見たときから始まった。ぼくの記憶では二次試験の作文は一次合格後の10月に行われるははずなのが、今日の午後になっている。
あわてて試験要項を見ると、確かに一次試験では教養と作文、二次で面接になっていた。
要は一次・二次の表形式の書き方がまずくて、作文は二次専攻科目なのに一次試験に組み入れられていた。
他にもテスト開始時間の事前説明に30分もかけていてトイレに行く時間の余裕がなかったり、午前と午後の合間の昼食時間が30分しかなったりで、とても障害者のための試験とは思えない。
「一次試験で無理に二科目詰め込むからこんなことになるんや」
ぼくは官公庁の組織にありがちな硬直的で配慮のないやり方に改めてため息をついた。
だいたい、最寄りの駅から歩いて10分もかかるような場所をなぜ試験場にしたのだろう。歩行困難な受験者もいるというのに、そうしたことに思い至らずおそらく組織の都合だけで決めた感じがあからさま過ぎた。そんなことをグダグタ考えながら試験にのぞんだものだから、当然うまくいくはずがない。
教養テストでは90分も時間がありながら時間いっぱいかかった。センター試験より少々やさしめのレベルなのに、やっぱり数学はさっぱりだった。30年以上前に共通一次試験で200点満点中73点を取った苦い思い出の再来だ。
★★
試験が終わった帰り道、そぼ降る秋雨のなかをゆっくり歩いた。心のなかでは、試験で全力をだしきれなかった後悔が渦巻いていた。
「残りの人生、いけるところまでいってみるか」
還暦に3年とせまった昭和生まれのぼくは、もういちどあきらめずに自分の道を進むことに決めた。