未来決済システムの話
4月の上旬から作り始めていたZINE「unkn0wn」が完成し、きっと予約してくれたみんなの手にいきわたった頃だと思う。
(unkn0wnについては下記の記事を参照)
このタイミングで僕らは新しい販売方式を試験的に運用してみることにした。もしかしたら、人によっては快く思わない可能性もあるので、なるべく丁寧な説明を行いたい。
その前に一度NEO POGOTOWNの事を書く。
NEO POGOTOWN
僕らが運営しているNEO POGOTOWN(ネオポゴタウン)は一つの場所ではあるが、メンバー内で使用スペースを区分けし家賃を分散させている。
服屋を担当してる者は服の売り上げで家賃を払い、音楽スタジオを担当している者はスタジオの利用料金で家賃を支払う。
そして、僕が受け持っているスペースはParlour III(パーラーアイアイアイ)というドリンクを提供するスペースだ。
Barや喫茶店をイメージしてもらえたら一番分かりやすいが、パーラーという名前を冠している通り、比較的ラフな空間を目指している。
Parlour IIIのシステム
このスペースではほぼ全てのドリンクの値段が決まっていない。
(例外として、瓶ビールなどの原価が高いものは店側で価格を決めている)
ドリンクの値段が決まっていないということは、その価格設定はそれぞれのお客さんに一任しているという事である。
300円で買っても良いし500円で買っても良い。もちろん金が余るほどあれば1000円でも、金がなければ100円でもお客さんの自由だ。
このシステムは、ネオポゴタウンのオープン当初からずっと続けている。
このシステムについては長くなるのでまた今度話すとして、お金の有る無しに関わらずネオポゴタウンでは誰もがその日を負担なく楽しんで欲しいという想いが根底にあってそういうシステムのドリンク屋さんをやりはじめた。
クエストリスト
値段を決めないというシステム以外にもParlour IIIにはクエストリストというものもある。
これは僕がやっているバンド"アルカシルカ"でのライブで静岡のライブバー「騒弦」に行った際に、その店にあった「奢チケ(おごりチケット)」というシステムを「うちでもマネさせて欲しい」とお願いして出来あがったものだ。
このシステムはあらかじめドリンクチケットを買ったお客さんが、そのチケットを自分ではない誰かにおごるというもので、購入したチケットにおごりたい人の条件を記入して掲示板にかかげる。その掲示板に貼られたチケットに書かれた条件に当てはまる人はタダで飲み物が飲めるというもの
例1:沖縄出身の人に一杯どうぞ / 例2:職質を受けがちな人ドリンク一杯等
その"奢チケ"システムをネオポゴタウンでは"クエストリスト"とゲーム性のある名前に変えさせてもらった。
そして、ネオポゴタウンとしても楽をしたいので、掃除をしてくれた方や、お米をくれた方などの条件をクリアーした人への労働の対価や物々交換もありにした。
また、お金に余裕のある方が、次のお客さんのドリンク代を前払いしておくというこのシステムは、ドリンク代の決まっていないネオポゴタウンとも相性が良く、1000円などの高値でドリンクを買ってくれた人に書いてもらう事も多く、そうすると、店側だけでなく次の人にも分け合える少しだけ優しい世界ができあがる。
【unkn0wn(アンノウン)】の問題点
話は戻って、先日発行した「unkn0wn 01」について。
ある日、ひとつの議題が持ち上がった。
「今後、生活が変化していく人たちの事も考えて作った本だけど、いま現状で生活が厳しい人はそもそもこの本を手に入れる事ができないんじゃない?」
もっともである。
話し合いが始まった。
「生活が苦しい人やお金に困ってる人にはタダで配ろうか?」
「お金が無いながらも買ってくれた人もいるかもしれない。その人に悪すぎる。」
「データ版を無料配布するのは?」
「最初から無料で読めると知ってたら買わないで済んだ人もいるかもしれない。」
どうしても、すでに購入者してくれた人への対応としては誠実さに欠ける形になりそうであった。そんなとき誰かがぽろっと口にした事で光明が開ける。
「クエストリストみたいに、お金がない人でも読める方法があったらいいのにね」
そ!それだーーー!!!!
その瞬間から頭が高速でフル稼働し、クエストリストをネットに応用できる方法を考えようと、話し合いの中でどんどん具体化されていった。
未来決済というシステム
僕らがやることにしたのはunkn0wnのダウンロード販売とそれに連動した未来決済システムというものである。
普段タブレットやパソコンでの読み物が多い人、家にモノを増やしたくないというデータ派の人、またはunkn0wnをもっと届くべきところに届いて欲しいと思ってくれている人が一定数いると考え、その人たちが購入してくれたお金を「生活が大変で購入は出来ないが読みたい」という人へ回すことにした。
詳しく説明する。
下記のダウンロード版を購入すると、ZINEの内容と音源のダウンロードが始まる。
このダウンロード版の購入を確認すると、僕らは下記の【未来決済版】に商品在庫を追加する。
【未来決済版】に在庫がある限りは、お金を払う事が厳しい人は0円でunkn0wnを購入することができる。
そうして、NEO POGOTOWNから【未来決済版】購入者へZINEの現物が発送される。
ただ、この未来決済という言葉が示す通り、購入者は将来的にZINEの代金を払って欲しいと考えている。もちろん、決して強制ではないが。
ただ、その支払いは僕らNEO POGOTOWNや、ダウンロード版の購入者へ行うものではない。
未来決済版の購入者が生活にゆとりができたときにでも、困っている人がいれば手を差し伸べることがこのZINEの決済方法になる。これが、僕らが考えた未来決済システムというものである。
利己的な相互扶助でもいい
単純な善意でダウンロード版を購入する人もいるだろうが、もしかしたら「自分のために購入したダウンロード版なのに全然関係ない人が得をするのはなんだか損した気がする」と、このシステム自体を良く思わない人もいるかもしれない。
「こんなの偽善的で受け入れられない」という人がいたとしても仕方がない。
ただ、別に「人のために」という気持ちがともなう必要はない。あなたが利己的なままでも独善的なままでも、このシステムは保険や年金、あるいは投資のようなものだと受け取ってもらえたら少しは理解に繋がらないだろうか。
病気や事故にあったときのリスクヘッジとしての保険や、歳をとって働けなくなったときの生活保障としての年金は、他者のためでなく自己の安心を買うものである。
もし、社会として人助けの文化が成熟し、社会全体に善意の貯金が溜まっていけば、あなたがあらゆる困難な状況に陥ったとき、誰かが助けてくれる可能性が高くなるのだ。
社会は間接的な相互扶助で成り立っているという事を理解することができれば、保険に加入するように、年金を払うように、投資をするように自分の事だけを考えて、自身の持つものから少しの"あまり"を人に預ける事は、自分の安心を買う意味でも生存率をあげる意味でも将来的に悪いものと言えないはずだ。
まあ、僕は生命保険などにも加入していないし、年金も払っていないし、自分のチップを他人にベットしすぎな気はするが。
最後に
これから変わっていく新しい時代に向けて、なんとなく僕らは既存のシステムよりも、"より良いスタンダード"を探していかねばならない。
この未来決済システムも性悪説で考えればリスクを含んだものではあるが、性善説的なものの見方をすれば、いろんなものに応用できる支払い方法だと思っている。
僕は良いものは世の中に広がるべきだと思っているので、もしこの【未来決済システム】に賛同してくれる人がいれば、どんどんマネをして欲しいし、さらに"より良いスタンダード"を目指すためアップデートしていって欲しいと願っている。
サポートしてくれたお金は僕のおやつ代に充てられます。おやつ代が貯まるとやる気がみなぎるかもしれません。