漫画みたいな話。(中編)
前回の話からのつづきです。全編通すとかなり長いので時間があるときに読んでください。
------2010年05月29日(土)の記事------
男性
「愛の力か…。」
そう答えた男性が、僕らをカウンター席に移動させる前に言っていた単語がある。
男性
「この話をしていいものか自分には判断できないので、"オウヒ"に話してくる。」
王妃…?
なんだかおかしな展開が待っているような気がして、ワクワクからドキドキへと変わっていく。
そして、彼はキッチンにいる女性と話をし、そして、我々はカウンター席へと通されたのだ。
男性
「君たちは輪廻転生を信じるかい?」
ケンジ
「あると思います!肉体が無くなったからと言って、そこに宿る魂まで消えて無くなっちゃうなんて、納得がいきません!!」
男性
「そうか…、なにから説明していいのか分からないが、今回、輪ゴムやビー玉を飛ばした人物は、実は私たちの前世に関係する人物なんだ…。」
彼が言うには、その人物はなにかを伝えようとして、今回の現象を起こしていたのだという。
しかし、それだけではまだ話が見えて来ない。
そこで、キッチンからやってきた"オウヒ"と呼ばれるであろう女性が出てきた。男性と同じ40代ほどの方で、気丈な振る舞いをしている。
やはり"オウヒ"とは"王妃"で間違いないのだろうか…?
女性
「私は、今から2400年ほど前のアテネの姫だったんです」
間違いなかった!!!
これは、いよいよ話についていけなくなりそうな感じはしたものの、意地でもしがみつかなきゃならない。
ゆう
「あのう、実は僕も以前、修行して人の前世が見えるようになったという人に、きみの前世は"火星人"だった。と言われたことがあるんです。」
以前、僕はとある人物から嘘偽りのない眼差しでこう言われて面食らったことがある。実に複雑な心境であったことは言うまでもない。
その心の奥に封印していた話を僕は思い切って言ってみたのだ。王妃もノッてきてくれるかもしれないと考えて。
王妃
「まぁ、それは本当に前世が見える人が言っていたんですか?」
何故か、僕が哀れんだ目で見られてしまい、心が折れそうになる。
もう自分が一番可哀想な人間のような感じがして、なんだか自暴自棄になりかけたが、とにかく、話の続きを聞くしか無い。
王妃
「そして、そこにいる彼。彼は私の愛人だったんです。」
男性
「ええ、私はオルスという名の平民だったらしく、病気を患っていた王妃の療養所で出会い、二人は恋に落ちたのです。ちなみに現代でも僕らの関係は不倫から始まったんだけどね!」
一同
「そこの大人の事情だけは掘り下げないようにします」
みんながうなずいた。
サル
「っていうか、えっと、その二人の前世はその"手紙"が教えてくれたってことですよね?」
王妃
「はい。その手紙をくれた人物が全て私たちの前世を教えてくれたのです」
サル
「手紙の人物と、輪ゴムやビー玉を飛ばした人物は同一人物なんですか?」
オルス
「そうですね。間違いなく同一人物ですね。」
サル
「その人物は一体何者で、なにが目的なんですか?」
王妃
「実はそれが分からないのです。私たちの前世に大きく関わりのある人物であること、私たちになにかをさせようとしていること。それだけは分かるのですが、そこから先が分からないのです。」
それは、本当だろうか?
なんだか肝心な部分は隠しているような気がした。
確か、オルスの人は、近い将来すごいことが起きると言っていた。
彼らは、実は手紙の人物が何をさせようとしているか分かっているのではないだろうか。
いや、そこは今は重要ではない。
僕たちが今知りたい事は、何故"手紙"の人物は輪ゴムやビー玉を飛ばし、そしてその現象はもう終わったのか。
まずは、そこである。
同じ質問をサルくんがする。
王妃
「多分、皆さんの友達の友達、つまり、この店の従業員だった子は、途中で辞めちゃったから知らないんだけど、実は飛んできたのは輪ゴムやビー玉だけではないんです。あのあとも本当にあらゆるものが飛んできました…。」
オルス
「そうだ、もうきみたちにはここまで話したんだ。これが今まで降ってきたビー玉だよ。いつの間にか数は減ってしまってこれだけしかないのだけど。ほら」
そして、我々は噂のビー玉を目の当たりにするのだった。
みんな
「え?!」
オルス
「分かるかい?このビー玉…」
なにか半紙のような薄い紙がピッタリと巻き付いているビー玉と、石灰のようなものが固まってくっついているビー玉がある。
オルス
「いつの日か、こんな感じのビー玉なども降ってくるようになりました。これだけではなく、小さなうぶ毛のようなものが生えてくるビー玉や、ネバネバとした液体を出すビー玉なども現れ、私は元々、幽霊や宇宙人、超常現象といったものは信用できないタイプだったのですが、ここまでされると信じざるをえなくなりました。そして、私がこの現象を受け入れたとき、遂に"手紙"が届いたのです。」
王妃
「おそらく、輪ゴムやビー玉など、本当はなんでも良かったんだと思います。とにかく現実では起き得ないことを見せつけることで、本来伝えたいメッセージである手紙の内容を彼に信じさせることが目的だったと思うんです。」
ケンジ
「なるほど!!合点がいった!!いきなり自分の前世が書かれた手紙が届いても、信じられるわけがないもん!!」
ちなみに余談だが、ビー玉から出てきたネバネバは、この店の常連客の医大生に頼んで大学で成分を調べて貰ったが、さっぱり音沙汰がないのだとか。
サル
「ところで、その"手紙"も降ってきたんですか?」
オルス
「いや、降ってきたこともあったけど、ほとんどは気づくとそこに置いてあるんです。ついさっきまで無かったはずなのに、急に現れているんです。あと…、その逆もあって、、」
サル
「逆?」
王妃
「たとえば、ビー玉が目の前のテーブルに降ってきたとして、やっぱりみんなじっとビー玉を見つめるでしょう?でも、ほんの一瞬、本当にたまたま皆が目をそらしたその瞬間には、そのビー玉が消えていたりするんです。」
けんじ
「どういう原理なんですかね?実は見えない人物がそこにはいて、物を握るとそれは消えて、手から離すと急に現れるとかそんな感じなのかな?」
王妃
「前に私が友人に相談してどういうことか聞くと、その友人が色々調べてくれてこんな喩え話があるといっていました。」
【もし、そこに池があるとして、その中には一匹の魚がいます。その魚にとって、世界とはその池だけになります。その水面だけが、世界の全てで、池の外に地上があるのだとか、その地上の他の場所にはまた別の池があるのかなんてことはその魚にはさっぱり分からないのです。それを見ている人間が誰か、もし池に石をひとつ投げると、その魚は水中という世界の壁から、突如として異物が降ってくるように思う訳です。つまり、それと同じように、私たちが知っているこの三次元や四次元とはまた違う次元があって、その誰かが干渉しようとしているのではないか。】
サル
「なるほど。手塚治虫の『そこに指が』って作品みたいな話だね。つまり、"俺らが居るこの池"を実は誰かが覗いていて、石を投げてきたのか、あるいは"別の池の誰か"が"こちらの池"へ石を投げているのか。」
ゆう
「並行宇宙ってやつだよね。時間も時代も微妙に異なる世界が無限に同時存在してるってやつ。パラレルワールドっていうのかな。」
けんじ
「なんていうか、人間だってあと100年もすれば一人一人が神になれるかもしれないっていうから、あり得ない事じゃないよね。」
ゆう
「なにそれ?」
けんじ
「たとえば、核があれば太陽も作れるし、自分の細胞があればクローンも作れる。一人一人が自分の分身を飼育することだって出来るようになれば、そのクローンからすれば、俺たちは神となるわけで、この俺たちがいる宇宙も、実は誰かの飼育小屋かもしれないってこと。」
ゆう
「なるほど。」
完全に超科学の話で盛り上がる男たちであったが、当の王妃とオルスがぽかんとした顔をしていたのを察したのか、ここらでサークル団女性陣が話を戻してきた。
あおい
「そういえば、"手紙"って日本語なんですか?」
オルス
「はい、全てカタカナで書かれています。」
あき菜
「その手紙って、見せてもらえたりってやっぱできないんですか?」
顔を見合わすオルスと王妃。
オルス
「さっき届いた手紙でも良いなら…。」
さ?!さっき?!!!
一同がざわつく。
サル「え?手紙って今も届くんですか?!」
オルス
「はい、ビー玉が降ることはもう止んだのですが、それからは手紙が届くようになりました。これまでに40通くらいは届いたと思います。最近は数が減っていたのですが、久しぶりにさっき届いたのがこれです。」
僕らがオルスを質問攻めしたときに、オルスの元に届いた手紙だという。
一枚の紙切れをテーブルの上に出すオルス。
それを見た僕らは皆、当初から、何かの存在に恐れ、挙動不審になっていたオルスの理由を理解した。
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キサマ
ナンドイッテモコリヌノカ
オウヒノメイニハンシテ
カッテニシャベルナ
クチノカルスギル
キサマノコトバデ
オウヒニガイガアレバワカッテイルナ
キサマトオウヒガハナレルコトハ
コチラトシテモネガッテモナイコトダ
キサマハスベテオウヒニシタガエ
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あまりに、内容がサイコすぎてカメラを向けて良いものかわからず、写真におさめることができなかった。
多少、文脈は違うかもしれないが、大まかにはこのような内容である。
写真に収める事を躊躇った代わりに、僕はとにかく手紙をくまなく見た。
紙は、別段特別な紙質ではなく、どこにでもあるA4用紙を四等分に手で切ったと思われる。
そして、おそらく油性ボールペンで、利き手とは逆の手で書かれたような書体である。
彼らが言うには現代やこの世に存在しないものが現れることはほとんど無いと言う。
サル
「ところで、オルスと王妃は愛し合った中だったんですよね?何故二人が離れることが"願ってもないこと"なんですか?」
オルス
「何故だか、この手紙の主は、私の事を凄く嫌っているんです。おそらく、この人物は姫の側近か王族の者なのか、平民出のオルスのせいで王妃が死んだ事が心底気に喰わないようなのです。」
サル
「姫が死んだ?」
王妃
「そう、姫の中に子が宿ったことで、二人の恋仲が王にバれ、王妃は投獄されてしまうんです。そして、オルスは姫が捕まっても出頭することなく逃げ出し、姫はお腹の子と供に死んでいったんです。」
オルス
「はい、でもオルスはその後、王妃の護衛だったトキリスと共に王を討ち取ったんですよ。」
サル
「トキリス?」
王妃
「あ、ここによく来る常連客の方の前世です。その方にも手紙が届いたことがあって、王妃から預かったネックレスを返せ。と言われて、そんなもの心当たりがあるわけないと席を立ったときに、自分の座っていた椅子の上にネックレスが置かれていたんです。」
そのネックレスを僕らも見せてもらったが、なんの変哲も無い琥珀で連なった民芸品を思わせるような、飴色したプラスチックのネックレスであった。
あき菜
「え?これが王妃から預かったネックレス?」
王妃
「いえ、多分、本物のネックレスはもう存在しないとおもうのですが、重要なのは本物かどうかではなく、ネックレスを返すという行為だったのではと思います。」
手紙の主は、彼らになにかを求めていて、彼らはそれが何かは分からないと言っていたのだけど、実はそれは業(カルマ)の解消ではないだろうか。
僕が、そんなことを考えているときに異変が起きた。
…コロン。
突然バーカウンター内でなにかが落ちる音がした。
オルス
「久しぶりにきた…」
彼が地面からビー玉を拾った。
触ると少し熱い。
オルス
「数ヶ月ぶりです。もう、落ちて来ないと思っていたんですが…。」
王妃
「多分、みなさんが来たからです。今までビー玉が多く降る時は、限ってこの現象を望む人が居るときだったんです。」
正直、みんなが驚いてはいたが、まだ、その瞬間を見ていない以上、僕はまだこの二人のどちらかがやったかもしれないという疑いは捨てきれずにいた。
確かに彼らの話は真剣には聞いていたが、それとこれとは別の話だ。
僕の疑り深さというと、もう本当に自分でも呆れるほどだ。
また、宗教や詐欺、洗脳、といったものは客観性を失ったその瞬間からのめり込むものである。
まだ、これではなんとも言えない。
と、
っコロン…。。
僕たちの後ろから音がした。
地面に転がるビー玉。
もう、みんなは疑う余地を無くしつつある。
しかし、僕はまだだった。
まだ、ビー玉が現れる瞬間は、この目の前では見ていないのだ。
すると、今度は天井付近から何かの筋がキッチンに向けて斜めに落ちるのが見え…
チャリン…。
先ほどと音が違う。
今度は5円玉である。
確かに、キッチンにいるこの二人は動いていなかった。
間違いなく何もないところから降ってきたのである。
サル
「見てしまった…。て、っていうか、お金も落ちてくるんですね。」
オルス
「はい、これまでに何度か。」
ケンジ
「やっぱ、お札は降って来ないんですか?」
オルス
「いや、降ってきたことは無いのですが、これを見て下さい。」
彼が、携帯電話のカメラ機能を使い撮影した写真を見せてきた。
この店で買う犬のあたまにちょこんと乗った千円札の画像
。
実にシュールである。
オルス
「さらにこんなのも…。」
犬のあごから頭にかけて輪ゴムが止められ、そして頭と輪ゴムの間に一万円札が挟まれている画像。
実にユーモラスである。
オルス
「まだあるんです。」
今度は、頭から新品のタオルが巻き付けられた犬の姿の画像。
完全に遊ばれている。
オルス
「こいつ、手紙の主にこんなイタズラばっかりさせるから、すっかり"ビビり犬"になってしまって、色んな事に怯えちゃうんですよ。」
ケンジ
「手紙の主、サービス精神旺盛を通り越して、かなり面白い奴なんじゃないですか?」
オルス
「はい、とてもユーモアのある人物だとは思うんですけど、とにかく私にだけはすごく怖いんです。…たまに、電話までかかってきますから。」
みんな
「…は!?電話?」
詳しく聞くと、電話は常に非通知でかかってき、これもどうやら日本語らしく、例えるなら"千と千尋の神隠し"に出てくる湯婆ばのような声だと言う。
サル
「その手紙の主はアテネの人なんですよね?」
オルス
「そうだとは思います。」
サル
「何を喋るんですか?」
オルス
「普通に日本語で説教されます。」
ケンジ
「すごい日本語勉強したんですね、きっと。」
もはや、なんでもありである。
そんな時、これまたサークル団の一人、めぐちゃんが叫んだ。
「っあ!」
カンっ
後ろを振り向くと、壁に当たって跳ね返ってきた10円玉が地面に転がっていた。
もうこれだけ見たらお腹いっぱいだ。
二人からある程度の話も聞く事が出来た。
そろそろ我々もおいとましようと、会計を済ませようとしたとき「ほぅほぅ」という鳩のようなフクロウのような鳴き声のようなものが聞こえてきた。
オルス
「ほら!今のホゥホゥ聞こえたかい!?これも手紙の主の仕業だよ。誰もいないはずのところから聞こえるだろう!?」
手紙の主、もうすごい出血大サービスだ。
ただ、ひとつ。
前述した鳥の鳴き声のようなものという表現は少し間違えた。
正確には、「ほぅほぅ」と鳥の鳴き声に似た音が出る笛の音と言った方がすごく近い気がする。
そして、誰もいないところから聞こえるとオルスは言うが、僕たちには確実にさっき王妃が入っていったキッチンの中から聞こえるのだ。
なんというか、手紙の主からのサービスというか、王妃からのサービスのような気がして、少しばかり興醒めしてしまったことだけは、彼らには言えなかった。
おかげで余計に、どこまでを信じて良いのか、どこからが演出か分からなくなってきたのだったが、とりあえず、またここには行きたいと言う気持ちだけは変わらない。
------追記------
そしてそれから約10ヶ月後の3月11日、東日本大震災が起きる。
彼らが言っていた"すごいこと"とはもしかしてこの事だったのか?
僕らは残された謎を解き明かすため再びこの店に訪れることになる。
そんなわけで、もうしばらくお付き合いを。