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スタートアップの支援として八丈島を―DNX Venturesの場合

ベンチャー企業を中心にオフサイトミーティングなどに利用されるIsland and office 八丈島は、ベンチャーキャピタルの投資先支援のひとつの手段としても利用されています。今回は、Island and office 八丈島を投資先のオフサイト実施の場として勧めており、自社でもオフサイト実施が活発なDNX Venturesの上野さんに、スタートアップにとってオフサイトがどんな価値をもたらすか、そしてIsland and office 八丈島はなぜスタートアップのオフサイトに適しているかを聞きました。

上野 なつみ(DNX Ventures Director of Marketing & Platform)
多摩美術大学卒業後、2011年に三井物産株式会社へ入社。その後、クリエイターネットワークのベンチャー企業 株式会社モーフィングへ転職し、同社執行役員としてクリエイターネットワーク事業、ウェブメディアの編集長などに従事。2018年10月より現職。イベント企画運営、広報、インキュベーションオフィス・コミュニティSPROUNDをはじめとするスタートアップ向けプラットフォーム、バックオフィス業務を担当。

オフサイトを年8回実施するベンチャーキャピタル

―DNX Venturesについて教えてください。
DNX Ventures(以下、DNX)は東京とシリコンバレーにオフィスを構えるベンチャーキャピタルで、昨年10周年を迎えました。日本チームは、まだ独立系ベンチャーキャピタルという業態そのものが珍しかった頃から、本国アメリカのやり方を日本で実践してきたチームです。

領域としてはBtoB、ラウンドはシリーズAのスタートアップを主な投資先としているのがDNXの特徴です。特にDNX日本チームではSaaS事業を展開するスタートアップへの投資が多く、昨今は企業のDX推進にスタートアップのソリューションを活かす、といったニーズも増え急成長しています。

ここ数年は投資家・起業家がお互いに良いシリーズAを迎えられるよう、シード期から起業家との信頼関係を築くことにも注力しています。DNXでは自社のオフィスと併設したシードのためのインキュベーションオフィス・コミュニティ「SPROUND」を運営しており、スタートアップが経営を学べる環境を提供しています。

―定期的なオフサイトを実施されていると聞きました。その背景や狙いを教えてください。
DNXでは創業期から定期的にオフサイトを続けてきました。チームの絆を深めたり、中長期の計画について議論したりといった目的で年4回ほど開催しています。コロナ以前は日本とアメリカを行き来して開催していました。

そもそもオフサイトはアメリカでは一般的に行われているもので、ベンチャーキャピタルのみならず、たとえスタートアップであっても、ある程度の予算や時間をかけて実施しているという話をよく聞きます。ですから、私たちも特別なことを実施するというよりは、「当然やるよね」という気持ちが強かったかもしれません。

オフサイトは、いつも投資案件に集中しているベンチャーキャピタルが視野を広げ世の中やマーケットトレンドに目を向ける大切な機会になっています。特定の業界分析を行ったり、DNX全体の投資戦略について考えたり、日頃離れている日米チームが深くコミュニケーションを取ったり、時にゲストをお招きし外部の方から学んだりすることもあります。ベンチャーキャピタルは個人事業主の集合体のような働き方になることが多く、常に担当する投資先と真剣に向き合っているからこそ、全社で各社のLessons Learnedをシェアして集合知を醸成したり、自社のことを顧みたりする機会は減りがちです。そういった業種だからこそ、定期的にオフサイトを実施する意義は大きいと感じます。

近年コロナ禍での日米合同オフサイト実施は難しかったのですが、今年は久々に全社員が一同に日本で集うことができました。日米各チーム目標達成のための戦略をすり合わせ、アクティビティとして座禅なども行い、チームの絆を強める充実した時間だったと感じています。また、2019年からは日本チームのみでのオフサイトも始めました。こちらも定期開催しています。

(日米合同でのオフサイト)

投資先支援の手段としての「Island and office 八丈島」

―「Island and office 八丈島」を利用したきっかけは何でしたか。
サービスを知ったのはDNXとIsland and office両社の代表同士が知り合いで、紹介を受けたことがきっかけですが、Island and officeのサービスは私たちの投資先支援として魅力的なものでした。ここ5~10年で日本のベンチャーキャピタル業界のトレンドも変化しつつあり、昨今はスタートアップサポートの在り方がひとつの大きなテーマになっています。例えばBizDevや広報、採用など、投資家と起業家の一対一の関係性の中ではなかなかフォローしきれない課題に対する支援です。Island and officeの提供は直接的にスタートアップ経営を支援するものではありませんが、とてもユニークで投資先にも喜んでもらえるサービスのひとつになるだろうと考え、さっそくDNXの一部メンバーで試泊させていただいたんです。

―実際に体験してみて、いかがでしたか。
支援先にオフサイト実施場所として勧めるのに、最適だと思いました。オフサイトをやるときに理想的なのは、見える風景や空気がいつもと違ったり、チームがひとつ屋根の下で心地よく、フレッシュな気持ちでコミュニケーションができたりする場所です。その点、「Island and office 八丈島」は波の音が聞こえて、大きなガラス窓から海や森が見えて、明らかに非日常であることが肌で感じられます。一方で、モニターやホワイトボードなどの議論に必要なアイテムが一通りそろっていて、機能性も充実していて……本当に良い場所だな、と思いました。

特に魅力として挙げたいのは、“ちょうどいい”空間設計です。議論する空間のサイズ感が、少人数で輪を作るのに適している印象がありました。また、ミーティングルームやリビングなど、共有スペースを区切るものがあまりないので、終始間接的に仲間の存在を感じられるのも面白かったです。同じことをホテルで実施したら、なかなかこの一体感は得られません。

焚き火を囲む時間もすばらしいですね。日中にも議論する時間を十分取っていたのですが、それとは別に、夜深くまで語り明かすことで互いをわかりあえたことが印象的でした。お酒を交わしつつ、入社したてのメンバーに「実際のところ、どう?」と訊いて出てきた本音は、「もっとチームのみなさんと飲みにいく機会があったらよかった」というもの。日々多忙で誘いづらい空気を作っていたのだな、と気づくことができました。

その意見を受けて後日議論した結果、新たに「チームビルディング飲み会費用」という制度が誕生しました。予算がつかえるから飲みに行こうかという機会が生まれ、新しいメンバーとも今まで以上にコミュニケーションを取る時間が増えたのが大きな実りです。

スタートアップがより強い組織として成長していくために

―スタートアップがオフサイトを実施する意義について、改めて聞きたいです。
スタートアップは非連続な成長を続けながら、限られた時間の中で一歩でも前に進もうと多忙な日々を走り抜けています。この非連続な成長とは、つまり創業から1~2年で社員が数名から30名、会社によっては100名近くまで拡大するというような経験のことを指すので、実際に組織として信頼関係を構築し強いチームを築いていくとなると、本当に簡単なことではないと思います。特にコロナ禍では苦労しているチームも多いのではないかと思います。なるべく効率的に濃密なコミュニケーションを取り、互いの理解を深めて組織の一員だと認識し合うためには、やはり仕組みが必要です。

DNXはこれまでもたくさんのスタートアップを支援してきましたが、企業規模が大きくなっていけばいくほど、チームの強さが経営を左右します。はじめは経営者の意思や視座が共有できていても、やがてメンバーとの間にずれが生じてきてしまうケースをこれまで何度も見聞きしてきました。これは仮説ですが、そうしたずれの要因は、組織の拡大と共に同じ体験を共有することが難しくなっていくことが一因ではないか、と考えています。オフサイトは、そういった取りこぼしてしまいがちな仲間同士の「体験の共有」を濃密に実現できる手段のひとつだと思います。

―オフサイトを成功させるためのポイントはありますか。
DNXでは、より良いオフサイトにするためのルールをいくつか設けています。まずは本音で議論しようというもの。中にはオフサイトの場で決定や判断をしようというアジェンダもあるので、東京に戻った後で「実は‥‥」という後出しはなし、それぞれの意見を出し切る。そこは実施前に認識を合わせています。

一方で、本音を出すあまりに互いの意見が異なってぶつかることもあります。意見は違っても、個人の否定ではない。意見する人も個人批判は控え、受け手もあくまでアイデアや意見の対立であって自身を否定するものではないと受け取ろう、建設的な議論に結びつけようというルールを、参加者の間で事前にしっかり共有しあいます。

また、ここ最近人数が増えてきたこともあり、性格診断などを行い、互いの思考プロセスや感性に対して理解を深めようというセッションも行っています。こうした相手のプライベートエリアに入りがちなテーマを扱う際は、とにかく意見をオープンにしていくというより、互いの距離感や重視していることを一歩ずつ理解しあっていく意識のほうが大切です。そういったプロセスには時間を重ねていく必要があるからこそ、オフサイトは1回実施するよりも定期的に実施することで効果が高まっているように思います。

―最後に、今後オフサイト実施を検討しているスタートアップにメッセージをお願いします。

今回、DNXでは投資先に対する支援の一環として「Island and office 八丈島」の利用制度を導入しました。すでに多くのスタートアップからリクエストが届き利用が始まりました。いわゆるオフサイトでの利用はもちろん、採用候補者を連れていき、採用の観点でチーム力を高める目的での利用事例もあります。

仕事とは異なるイベントやアクティビティを通じて、メンバーの意外な姿やキャラクターを知っていく時間は、とても貴重だなと感じます。日々プロフェッショナルとして仕事をしているので、ただ“仲良し”になればいいというわけではありませんが、やはり喜びを分かち合い、お互いのリスペクトを育て、幸せな時間を共有することは、チームを強くするための秘訣なのだと思います。

オフサイトを実施することで、もしかすると誰かと誰かが議論に燃えたりしたり、深い悩みが打ち明けられたりと、日頃見えていなかったものが表面化するかもしれません。それを受け止めるのはしんどいことかもしれませんが、乗り越えていく体験はとても美しく、それもまたチームの強さへとつながっていくものです。そういったすべての体験を得られる場として、スタートアップの皆さんにはぜひ「Island and office 八丈島」を貪欲に活用していただきたいです。

(執筆:宿木屋、聞き手:宿木雪樹)




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