シマウマの縞々とパンダの白黒は何のため?
シマウマはなぜあれほどまでに派手な縞模様をしているのでしょうか。
この疑問が自然科学の分野で議論されるようになってから約150年が経ちましたが、まだ完全な答えは得られていません。
これまでにいくつかの仮説が検証されてきました。それは、捕食者を避けるための隠ぺい色であること、サバンナでの体温調節に役立っていること、シマウマ間のコミュニケーションに使われていることなどです。
そんな中、新たに吸血性の昆虫を避けるためではないのかという説が2019年に米国の科学雑誌「PLOS ONE」に掲載されました。
実はこの研究論文が発表される以前から、吸血性のアブなどの昆虫は、縞模様の皮膚に着地するのが苦手なのではないかということが言われてきました。しかし、それを実際に証明した研究はありませんでした。
この研究では、馬に縞模様の服を着せ、アブが馬を発見し、着地するまでに至ったアブの数を、縞模様のない通常の馬と比較しました。すると縦縞の服をきせた馬は、縞模様の無い馬に比べ、アブが吸血に成功した割合が4分の1以下になりました。
なぜ、アブによる吸血が減ったのでしょうか。論文の著者らは、縞模様がアブの視覚を惑わせるために、近づくことはできても、着陸できなかったのではないかと考えているそうです。
紹介した論文が出版されてから約6か月後に、この研究を参考に、服を着せるのではなく、縞模様をペイントすることでアブによる吸血を抑えることができたとうい研究が、同じく「PLOS ONE」に掲載されました。
この研究であつかった生き物は、馬ではなく牛です。研究の結果、シマウマのような模様になった牛は、シマのない牛に比べて、体の表面につく虫の数が半減しました。さらに、シマウマのような模様になった牛はアブなどの昆虫を避けるための行動の数が25%も減少したそうです。このように、縞模様は牛・馬に限らず、吸血性の昆虫を避けるために役立っているといえそうです。
また、シマウマ以外にも目立つ模様の動物は数多くいます。その一つとして、動物園などで人気のあるジャイアントパンダがあげられます。
ジャイアントパンダは、中国奥地の森林に生息しています。白黒の模様は、一見すると非常に目立ちそうです。パンダがなぜあのような模様をしているのかに対する理由は、2021年に科学雑誌Natureの姉妹紙であるScientific Reportsに掲載されました。
結論は、パンダの模様は森林で姿を隠すことに役立っている、つまり隠ぺい色の役割を果たしているというものでした。
パンダの模様は森林の色に体をとけこませて、捕食者から見つかりにくくしているのです。研究者は、野外で撮影されたパンダの写真を画像解析しました。具体的には、背景となる森林と、パンダの体がどの程度写真内で見分けづらいのかを数値化しました。すると、森の奥深くの樹木が密に生えている場所や、ところによって雪が積もっているような場所では、パンダは見つけにくいことが明らかになりました。さらに、パンダは特に12mから50mの距離から見ると、その輪郭があいまいに見えるということもわかりました。
トラなどのパンダの捕食者は、私たちヒトと異なり、赤色と青色の波長しかみることができません。そこで、解析に使う画像をトラが見える世界の色に変換し、どの程度見えづらいのかを調べました。その結果、ネズミなどの他の生き物よりも、パンダが森林で見つけにくい生き物だとわかったのです。
シマウマの模様が吸血するアブなどの昆虫を避けるために役立っていたり、ユニークな模様をしたパンダの体の色がカモフラージュに役立っていることなど、すぐには思いつかなさそうな仮説ばかりです。
科学者たちがコツコツあつめた知識やデータは、今後も生き物の模様の秘密について、新しい仮説を提示するかもしれません。
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以下、引用文献
Caro, Tim, et al. "Benefits of zebra stripes: Behaviour of tabanid flies around zebras and horses." PLoS One 14.2 (2019): e0210831.
Kojima, Tomoki, et al. "Cows painted with zebra-like striping can avoid biting fly attack." PLoS One 14.10 (2019): e0223447.
Nokelainen, Ossi, et al. "The giant panda is cryptic." Scientific reports 11.1 (2021): 1-10.