捕食されても脱出する虫と魚
捕食される動物は命を守るために、さまざまな対策を進化させてきました。
たとえば、目立たない色であったり、走って逃げるための脚などです。しかし、最新の研究により、一度捕食されても様々な方法で、捕食者から脱出する生物がいることがわかってきました。
■ウナギの脱出
一つ目の例は、ウナギです。ウナギは日本の食文化と密接な関係があり、その名前を身近でよく耳にする魚ですが、実はその生態は多くが謎に包まれています。
しかし、長崎大学の長谷川さんらの研究チームが2021年にbioRxivに投稿した査読前の論文によって、興味深い生態が発見されています。(ちなみに、bioRxivとは科学雑誌に掲載される前の原稿をフリーでアップロードできるサービスであり、研究結果についてインターネット上で閲覧者からコメントをもらい論文をより良いものにするためのサービスです。)
この研究では、54匹のウナギの稚魚と4匹のドンコという肉食の魚をもちいて、うなぎの脱出成功率や脱出の流れ、脱出に必要な時間を調べました。
すると、54匹中、半分以上の28匹が捕食された後に脱出することがわかりました。脱出には早い個体で10秒かかり、遅い個体でも2分ほどで逃げ出せることがわかりました。
そして驚くことに、その脱出のほとんどがエラの隙間からだったそうです。口から食べられても、エラをもつ魚の場合には脱出路があるのです。ウナギはドンコの食道に入る前に逃げ出していることがわかりました。
■ガムシの脱出
また、捕食者の食道に入ってしまっても脱出することができる生き物が、昆虫で知られています。
神戸大学の杉浦教授は2020年に科学雑誌Current Biologyへ、カエルの捕食から脱出する昆虫についての研究論文を発表しました。
カエルから脱出する昆虫はガムシという、水辺にいる体の固い甲虫です。杉浦教授はこのガムシを5種類のカエルに食べさせ、脱出するかどうかを観察しました。その結果、ガムシはカエルに食べられ、飲み込まれてしまったようです。
しかし、食べられた90%のガムシは10分から6時間のうちにお尻から排出され、なんと生きていることが確認されました。さらに、生きていない状態でカエルにその甲虫を食べさせると、排出までに24時間以上かかったそうです。
この結果から杉浦教授は、ガムシが食道を脱出するために足を使って、消化管を肛門に向かって進んでいったのだと結論づけています。
このように生物は捕食者から見つからないよう、見つかっても逃れられるよう、そして食べられても生き延びられるよう 様々な進化を遂げています。
今回紹介した2種の生き物は、日本では身近な生き物です。馴染み深い生き物の生態を注意深く観察し、詳細な実験を行ってみれば、もしかしたらとても面白い生物現象が見つかるかもしれません。
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Hasegawa, Y., Yokouchi, K., & Kawabata, Y. (2022). Escaping via the predator's gill: A defensive tactic of juvenile eels after capture by predatory fish. Ecology, 103(3), e3612.
*2022年にEcologyに掲載されたようです。
Sugiura, S. (2020). Active escape of prey from predator vent via the digestive tract. Current Biology, 30(15), R867-R868.