【迷いの森】
「私たち、本当に帰れるのかしら」
アンジーが不安げに嘯く。彼女を囲っていた三人の男たちはしかし、誰一人として彼女を安心させられるような返信をすることが出来なかった。複数の理由がある。一つ、今歩いている場所が深夜の森林であるということ。二つ、懐のスマートフォンが『圏外』の二文字を出して通信電話機能をサボタージュしている事。そして三つ目に、かれこれ四時間以上彷徨い続けていた事だ。
こうなった経緯は単純だ。彼らは皆電子ゲーム愛好部に属しており、サークルの姫であったアンジーの一言で、急遽野外オフを行うことになった。そうして車で移動しているうち、何か大きな生き物に道を塞がれ、慌ててハンドルを切った先には哀れ古びたガードレール。結果、車はそのままガードレールを突き破り、下にあった森に真っ逆さま。幸い誰も大きな怪我は負わなかったが、四人は予定にない森林歩行を強いられることとなったのだ。
「なあ知ってるか、ここは別名迷いの森と呼ばれていて、入った者は二度と出られないんだってよ」森を歩き始めた当初、不安げに顔を曇らせる一行にジョンが言った。勿論それは根も葉もない冗談であったが、こうして歩き続けるうち、四人は本当にここが得体の知れないダンジョンではないかと錯覚するようになっていった。
未だ文明の光は見えず、懐中電灯の代替品となった携帯端末がかろうじて足元だけを照らしていた。地面はぬかるんでおり、気を許せば足を取られる。秒ごとに体力を奪われ、会話をする余力は既にない。最初は姫のご機嫌取りに夢中だったジョン達であったが、今では小言をつぶやくボットと化したアンジーに内心苛立ちを覚え始めていた。やがて、
「あー、もう!私これ以上歩けない!誰かおぶって――」アンジーの癇癪が炸裂しかけたその時。ジョンの首が、きっかり斜め45度にずれ落ちた。「え」放心するアンジーを他所に、アンドレの首が、タナカの首が、同じように胴体から離れていく。思い出したかのように、遅れて噴水が上がる。三人が倒れた先には、鉤爪を装着した巨躯の忍者。
「なんで」ここは別名迷いの森と呼ばれていて、入った者は二度と出られない。「なんで」突如として車の行く手を阻んだ巨大な生き物。今、アンジーの首元に爪をあてがう存在とその姿が一致する。そして、
そして、電子ゲーム愛好部は部員不揃いにより廃部となった。
あとがき 完全に勢いで書いたなんかです。
スキル:浪費癖搭載につき、万年金欠です。 サポートいただいたお金は主に最低限度のタノシイ生活のために使います。