セカンド・サン・フライト
三日前に起きた月の消失に、吸血族はむしろ困惑していた。夜の一族と呼ばれてはいるものの、視界は光源を頼っている。獲物の血が吸いにくくなり、不利益しかなかったのだ。なのに彼女は、事もなげにこう言った。
「月光って要は反射した日光でしょ? チクチクしてウザかったのよね。だから食べてやったの」
一族が処分を決めかねてる間に、彼女、ルナギアは忽然と姿を消した。果たしてどんな手段で宙を渡ったか、いかなる手段で月を消したのか。それらが不明なまま、今度は太陽が小さくなり始めた。星見の者が突き止めたのだ。至急、太陽消失を止めなければならない。
――以上が、モルモーンが”彼”を訪ねた経緯だった。シケリアの街の高台に、その男はいた。
「太陽が消えるのは、お前たちには良いことなんじゃないか?」
包帯の男が疑問を口にした。帯の隙間からは、重度の火傷の痕が覘く。
「アレが消えたら大地が冷えるし、何より貴方たちが生きていけなくなるでしょ? 食料がなくなったら私たちも飢える。弱点でもあるけど、それでも太陽は吸血族にも必要なの」
私の話に、彼は得心したようだった。
「それで、この僕に太陽に向かって再び飛べというのか」
「話が早くて助かるわ」
「無理だ」
男は背後に立てかけられた翼を指した。蝋を蜂蜜で固めた、人口の翼。
「結果は分かりきってる。アリスタイオスの蜂蜜も、太陽炎から蝋を守りきれない。翼を失って、身体も焼かれて、落っこちるだけだ」
「私の翼で試すのはどうかしら?」
彼は目を丸くした。この返しを予想していなかったのだろう。
「私は飛べるし、人一人くらい運ぶ力がある。陽光さえ防げれば、燃えることもないわ。貴方にとっては、太陽に挑める最後のチャンスかもしれない。どう? 私と手を組まない?」
背に腹は代えられなかった。一族の、世界の存亡が掛かっているのだ。
「……いいだろう。手を貸そう」
「よろしくね、イカロス。共に太陽に向かいましょう」
【続く】