逆境の時 2020手合い⑤、⑥
1回戦にまつわる昔話
2月24日、阿含桐山杯予選Cの一斉対局があった。持ち時間は1時間で5分前から1分の秒読み。勝った場合は午前と午後2局打つことになる。
1回戦では稲葉一宇アマと対戦。
阿含桐山杯は成績優秀のアマが参加することができ、一回戦はだいたい2月下旬からスタートする。
稲葉アマと対戦したことで2011年3月のことを思い出した。
この年、私は韓国出身のアマ強豪、河成奉さんと当たった。当時河さんは洪道場で師範をしていて、私も洪道場のリーグ戦に参加していたのでよく一緒に勉強していた。道場のリーグ戦には平田君や一力君、藤沢里菜ちゃんや虎ちゃんら(呼び方は当時風です)凄いメンバーがいて、今だったら名人戦や本因坊戦のリーグと言われても信じてしまいそうだ。そしてそのリーグ戦が終わって生徒たちが帰った後、大人たちでラーメンを食べに行ったりした (笑)。今でもよく覚えているのは激辛唐辛子をスナック菓子のようにおいしそうに食べる河さんの姿だ。
「全然辛くないですよ、大橋先生もどうぞどうぞ」
と言われ一口噛んだだけで飛び上がったことがある。今だから言うが、実はその後二日ぐらいお腹がおかしかった 苦笑。
河さんの棋風も地に辛いか というとこの激辛唐辛子ほどではなく、やや実利辛めのバランス型といったところだ。
この河さんと私は2011年の大地震の直後に対戦した。私は不甲斐ない碁を打ってしまい負けた。そして河さんはベスト8まで躍進した。プロ棋戦でアマがベスト8は言うまでもなく快挙だ。阿含桐山杯のプロアマ戦は解説付きで毎日新聞に掲載される。
後日、林漢傑君が棋士控室で解説してるところに遭遇して、「らしくないね。地震のあとで大変だったんじゃない?」と言われてしまった。漢ちゃんはめっちゃ気が利く男で優しさでそう言ってくれたのだが、自分としてはヘボ碁を打ってしまったとさらに痛感した。
河さんは単身日本に来て、アマ棋戦で無双しつつプロ入りを志望していた。生きるためには勝つしかない!という気迫が感じられて、むしろ大変な状況の中さらに勝負強さが増したようだった。
今、コロナウイルスで大変な時期だがこの時を思い出すと、盤の前では全力を尽くそうと思える。
トーナメント表はコチラ。
話は現在に戻る。
1回戦はこちらに掲載されている通り勝ち。碁については毎日新聞の紙面をご覧いただきたい。その後気が向いたらこちらnoteにも書くかもしれない。
対局振り返り
そして2回戦では小松英子四段と対戦。
本記事ではこちらを振り返る。私の黒番。今年はここまで全て黒だ。
小松英子四段(白)vs 私(黒)
テーマ図
白1と打たれた場面。貴重な先手を得てどこに回るか。布石の大事な場面である。
1図 実戦
かねてより狙いだった黒1。ずっと狙っていたのでサッと打ってしまったが実はこれが危なかった。
2図 実は白良し
局後に検討したがお互いこの図は想定済み、ただし判断が難しい。左上は白9でシチョウ。黒10がシチョウアタリで黒まあまあやれるか、と対局中はお互いにそう思ったので実戦はこうならなかった。しかし後でAIで見ると白11と打てば白ハッキリ良しの数値が・・・・orz
今見ると確かに白良さそう。相変わらず判断が暗い・・・
3図 実戦進行
実戦は白は2図を回避してこのようになったが、AIで見ると少し黒がポイントを上げたようだ。
よく皆さんに、「何手先まで読めるんですか?」と質問されるが実はプロ棋士に取って読むのはそれほど難しくない。それよりも読んだ想定図でどちらが良いかの判断が本当に悩ましい。AI登場前と後、何が一番変わったかと言うとこの形勢判断に共通認識ができたということだろうか。
5図 正確な手順
ここでは黒1、3が正確な手順でこれならば互角だった。
形勢判断が相変わらず課題だが結果はなんとか勝って予選Bに進んだ。
逆境の時だがこういうときこそぼくは囲碁をがんばりたい。
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