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二度とごめんだ。#人混み嫌いのタイプB男

「人混みが嫌いでさ。田舎が好きなんだよね。」

 そう聞いてわたしは、この男とは気が合うかもしれないと思った。わたしも人混みが大の苦手で、大都会にはできれば近づきたくないし、休日の渋谷の人の多さにあてられて頭痛が起きた事があるほどだ。ショッピングモールは好きだが休日は混むので人の少ない平日に行きたい。

 この男も同じ意見だと言った。それを聞いて親近感を感じてしまったのだが、結果的にこの男とわたしは正反対だった。そしてその事に気付くのはだいぶ経った後だった。

 わたしとこの男は付き合う事になった。
 付き合ってわかったが、この男は人間が好きではなかった。友達は少ないし、飲み会などの集まりが催されても行かないかすぐに帰る。好みの女性は好きだがそれ以外の女性とは、話をするのも面倒なんだそうだ。平和的な性格で物腰が柔らかいから誰も気付かないしわたしもしばらく気付かなかったが、実のところ人間の内面の魅力なんて探そうとはしない差別的な本性を持った男だった。いい所もあったがその本性はさすがにいただけなかった。
 この男が人混みが苦手な理由は明解だ。嫌いな存在が多くいるから。それだ。

 片やわたしの理由は全く違う。
 わたしは人が好きだ。友達は多くないが、飲み会があればちょっと無理をしてでも出席するし、だいたい最後までいる。休日は家に一人でいることが多いが、それは人がいるとつい話をしたくなってやるべき事を溜めてしまうからだ。
 人を大事にしたい、優しくしたいと思っている。でもうまくできていないらしく、人から好かれる事が少ないのだがとにかくそうしたいと思っている。

 それはコロナ渦以前の渋谷スクランブル交差点、朝の品川駅、大宮駅の中央改札前だった。
 人混みに行くと多くの人の合間を通らなくてはいけない。前をゆっくり歩くカップル。この二人に気を使うと後ろを歩く人に迷惑。後ろの人に気を使ってカップルを抜かそうとすると、前からくる人や横を歩く人に迷惑。ここではわたしの親切心なんて簡単に詰む。
「こんなにいたら全員に気を使うことなんて無理!」
わたしはそう思って心を閉じてしまう。イライラしながらぶつかりながらでもそこを突っ切る。一度心を閉じると通行人は邪魔な存在でしかない。人が好きなはずの自分が明らかに
「くそ、邪魔だな!」
っと思っている。
 雑踏を抜けたとき、ホッとしながらも言いようのない不快感と疲れに襲われる。優しいはずの自分はこんな簡単に化けてしまう。本当の自分の醜さを突きつけられたような気持ちになる。高々数十メートル通行するだけでこんな気持ちを味わわなければいけないから、わたしは人混みが大嫌いなのだ。

 人間が好きではない男は、結局わたしという人間も大して好きではなかった。いや、好きだとは言っていた。でもわたしがどんな人間なのかを知ろうとはしなかった。よく知らない人を好き?ちょっと理解できない。まぁよく知らないからこそ好きになれるケースはあるか。推し的な存在とか。でも熱心に推された記憶もないから、やっぱりだいぶ浅い好きでしかなかったということだ。

 わたしとこの男は別れた。
 よく考えれば、人混みが好きな人なんて滅多にいない。こんな趣向を気が合うかどうかの物差しにしたわたしが間違っていたんだ。そして人間が嫌いな男だけはもう二度とごめんだ。

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