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天使の養殖
天使が死んでいる。羽も輪っかも痛みが少なく、美品と言えるだろう。うつぶせなのも都合がいい。
「こっちにいたぞ。来い」
パートナーである頻出が来て、死体の足首を両脇に抱える。おれは頭の方に回って胴体を支えるように持つ。羽の重さを考慮しなければならない、と年上の死人に言われたからだ。
「まず羽を削ぎに。それから輪っか剥がし」
「わかってます」
頻出は吐きそうに言った。向いていない。おれは周りの景色を見るといい、と言った。ほら、そこらじゅうに木がある。自然はいいとされているからな。腐肉漁りの烏もいるぞ。天使は腐らないから、おれたちを狙っているんだな。なごむだろ。はい、と頻出は虚偽とわかる返答をした。
「おい、こっち空いたぞ」
三台あるうち、いちばん奥の作業台の男が声をかけた。おれと頻出は天板に天使をそっと載せた。
「白いな。状態がいい」
「いくらになる」
「中毒になりにくい薬がいくつか買えるだろうな」
作業員は慣れた手つきで羽を解体する。余分な毛を鋏で除去し、整える。肉質を確認し、根本に特殊なカッターを当てる。刃は1秒につき2mmの速度で進んだ。片方が終わり、もう片方に取り掛かる。切られた根本はおれと頻出が適当な布をつかい止血する。作業が終わる。
「金は後でもらいに来る」
死体をふたたび運び、広い場所へ置いた。
「またあれをしないといけないんですか」
「そうだ。馬鹿みたいな儀式をな」
おれは天使の輪っかを両手でつかむ。冷えていて、すこしぐにゃりとする。頻出は天使にまたがり、その頭をしっかり抱きかかえる。
「せーの」
合図とともに、おれはおもいっきり輪っかを後ろへひっぱる。天使の身体が前へ引きずられる。頻出は体重をかけて頭を反らす。いやな骨の音。おれは靴の底をすべらせ、背後へ勢いよくこけた。その痛みのかわりに、輪っかは天使の接続から解除された。
天使の口唇がかすかに震えた気がした。おれは指を近づけた。
【続く】