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6【銀線細工のブローチ】
しとしとと冷たい雨が降る、屋外の骨董市。
悪天候のなかでも、遠くからでも、すぐに目についた。
イギリスのアンティーク、銀線細工のブローチ。
ただ、これが本当に銀なのかは私には判別できない。
黄ばみ方や黒ずみ方が、銀のような気はするのだけど・・・。
ピンはかなり太いから、ブローチといっても洋服につけるものではなかったのかもしれない。
ハットピン?
ジャケットにつけるもの?
そもそもこの二つは対で作られたものなのだろうか。
形の種類はよく似ている。
クロスというか、星というか、結晶というか。
クリスマスツリーに飾るものというか。
存在はささやかながら、どこかしら大きなものに繋がる祈りめいたものを感じてしまった。
神秘性というやつだろうか。
たとえばこれを身につけたとしたら、
私が持っているどの装飾品よりも背筋が伸びる心地がするかもしれない。
二つ、私の手元にやってきて、私のなかでしばらく思索したのち、
片方を、信頼している知人に贈った。
いつも、私の考えていることを聞いてくれる人だ。
相槌を打って、話を聞きながら返してくれる人だ。
節目節目に、どちらともなく「モノ」を贈りあえる人だ。
「はい、これあげる」
けれどさすがにこの一言では、私のこれに対する逡巡は理解できないだろうな。
私だって逡巡しているだけで、まだ決着めいたことにはたどり着いていない。
いや、でも、もしかしたら何か感じてくれているのかも。
あの子なら、何を感じるんだろう。
どことなく祈るような期待を胸に秘めている。
2019.4.10@平安骨董市