映画感想:悪の教典② 共感性とは

前回からの続き。

前回は合理性の面からハスミンを見たので、今回は共感性の側面から見ていく。

サイコパスは共感性がないと言われるが果たして本当だろうか。ハスミンの共感性に関わるシーンがある。女生徒のいじめ問題に関して、父親が怒鳴り込んできたシーンだ。

父親は自分の娘が学校でいじめられているという。学校側はその事実は認められないと返す。当然といえば当然であるが父親はますますヒートアップしていく・・・。そんなやりとりがある中ハスミンの一言「まあまあ、落ち着いてください。~生徒の悪口はただの愚痴ですよという説明~お父さんだって愚痴を吐く場も必要でしょ?」

まあ、普通の人からしたら共感性のかけらもないサイコパスに映るんでしょうな。ただ、私はここで穿った見方をしていきたい。

そもそも、ハスミンは本当にこの父親の気持ちを分かっていなかったのかどうか考察してみたい。
まず、父親の方であるが娘がいじめられているからどうにかしろと学校にまで乗り込んでくるだけの時間と体力はあるようだ。では、その時間と体力を使って娘と話をしてみたのだろうか。もしかしたら、色々と頑張った末にどうしようもなく学校に相談しにきているのかもしれない。だが、そうであれば怒鳴る必要はあるのだろうか。

私は基本的にいわゆるキレるという行為はストレス発散のために行うものと考えている。ただ、代償としてキレる人間というものは他者からの信用を失うので、失う信用と自身のストレス発散を天秤にかけ、ストレス発散の方にメリットがあると感じた時、(意識か無意識かは別として)人はキレるものと考える(例として、子供を叱る母親が電話がかかってきた時よそいきの声になるアレである)。

映画に関しては父親の性格に色々と問題がある描写が見受けられた(校内での喫煙、家の周りの異常なほどのペットボトルの猫よけ、全体を通しての情緒不安定)。元からストレスを感じやすい性格なのだろうと推測できる。

ハスミンはこれらの状況を考慮して、父親の建前(娘を心配する父親を演じたい)ではなく本音(ストレスを発散したい)を的確に見抜きド直球に答えてしまっただけではないのか(それが共感性がないと言えばそれまでなのだが)。

ハスミンは基本的にすべての先生や生徒に好かれている。それは容姿が整っているというのもあるかもしれないが、相手が望むもの(気持ち)を的確に見抜きそれに沿うように行動しているからではないかと思う。

ここで、サイコパスは共感性がないに戻るのであるが上述の要素を考慮すると本当に共感性がないのか疑問に思えてくる。

英語圏では日本語の”共感する”を意味する言葉が複数あるらしい。
例えば、シンパシー(sympathy)とエンパシー(empathy)だ。(コンパッション(compassion)もあるが省略する)。

シンパシーは同情や同調して共感するもので、受動的な性質をもつ。
一方、エンパシーは相手が何を考えたのかを想像し、その行動や価値観を理解できるという、能動的な性質をもつ。
(詳しく知りたければ、以下の本をおすすめする。)

ハスミンはおそらくシンパシーはないのであろう。相手の怒りの感情に同調して自らも怒り狂うといったことにはならない。
一方、エンパシーは恐ろしく高いと思われる。

世間(日本人)のいう共感性がないというのは、シンパシーしてくれないという意味に感じる。
まあ、気持ちは分からないではないがシンパシーできることは本当に共感性があることなのだろうかと疑問に思うわけである。

先程もいったとおり、シンパシーは受動的なもので本人が意識せずとも自然に発生する気持ち(気分)である。
一方、エンパシーは意識して理解しようと努めなければならないものである。
私には努力信仰のきらいがあるので、シンパシーよりも”努力”しているエンパシーの方に価値を感じるのである。

さらにいうと合理性(目的志向)があるので、建前ではなく本音(真の目的)を解決する方に力を入れたくなるわけである(ハスミンもそうではないかな?)。

ただし、伝え方というのはあると思う。しかし、ここらへんはもしかしたら文化(価値観)の違いが影響しているかもしれない。
(以下の記事でそんな内容を書いているので、ぜひ読んで下さい。)

人が共感性があるとかないとか言う話をする場合、たいていの場合”自分”の気持ちを分かってくれるとかくれないという話になっていると思う。そして、この”自分”の気持ちというのが厄介で意外と本人の意識で感じている感情と本音(無意識、影)は別であるため、”共感”してくれている人は表層部分に合わせてくれているだけで、真に共感してくれているとは限らないのではないか。

サイコパスと言われる人たちはある意味で、人の心に”共感”する天才であるので、伝え方の技術を磨くか、間に”通訳者”を入れるかすれば最強なんじゃないかとハスミンを見ていて思った次第である。

以上で、「悪の教典」からサイコパスは進化した人類説をテーマに語ってみた。他にも色々語りたいことはあるけれども、ディープになりすぎる気がするのでここで一旦終了。また、別の話題の時に出てくるかもしれないレベル。

では。





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