Vol.180 肺がんで続く、分子標的薬の劇的な進化
*2024年10月31日発行のメルマガから転載
気がついたら、今年も残すところ2ヶ月ほど。
毎年、冬が来る前はインフルエンザの予防接種を受けるようにしているのですが、新型コロナの予防接種も長いことしていなかったので、今年は自費で同時接種してきました。
同時接種でも問題ないはずだったのですが、今まで個別に打った時よりフワフワ感や筋肉痛・頭痛などの副反応が強めにあり、続けて出た口内炎もおそらく副反応だったと推察しています。
副反応が出た場合、どちらのワクチンに原因があったのか相乗的/相加的なものなのかが、同時接種だとわからないので、面倒くさいですが来年は個別に打とうかと思っています。
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【記事1】肺がんで続く、分子標的薬の劇的な進化
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肺がん(進行非小細胞肺がん)の一次治療で、遺伝子変異に応じた治療薬である分子標的薬が、劇的な”進化”を続けています。
肺がんの遺伝子変異で最も有名かつ代表的なのが、”EGFR”です。非小細胞肺がんの1/4程度がこの遺伝子変異を持つタイプと言われています。
このタイプの肺がんに効くEGFR阻害剤は、第一世代のゲフィチニブ(イレッサ)やエルロチニブ(タルセバ)という薬剤が、2000年代から長らく標準治療として君臨していました。
2014年に発売された第二世代のアファチニブ(ジオトリフ)は、良好な治療成績ではありましたが、市場で第一世代を完全に凌駕するところまでは行きませんでした。
そこに第三世代のオシメルチニブ(タグリッソ)が入ってきて、第一世代をガチンコの比較試験で凌駕し、一気に過去のものに追いやったのが2018年です。
そこからまだ6年ほどしか経っていないところに、オシメルチニブにガチンコの比較試験を挑んだのが、アミバンタマブ+ラザルチニブという組み合わせです。
ラザルチニブは第三世代のEGFR阻害剤で、アミバンタマブはEGFRの他にMETという遺伝子変異にも対応する”二重特異性抗体”です。
■”Amivantamab plus Lazertinib in Previously Untreated EGFR-Mutated Advanced NSCLC”「未治療のEGFR変異進行非小細胞肺がんに対するアミバンタマブとラザルチニブの併用療法」(The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE)
未治療のEGFR変異進行非小細胞肺がん患者を、「アミバンタマブ+ラザルチニブ併用」「オシメルチニブ単剤」「ラザルチニブ単剤」の3群に分けて、その後の経過を比較します。
上記の研究概要では、「ラザルチニブ単剤」群の結果についてはなぜか記されていませんが、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS、がんが再度悪化するまでの期間と考えてください)は、
「アミバンタマブ+ラザルチニブ併用」23.7ヶ月 vs「オシメルチニブ単剤」16.6ヶ月
と有意差がついた形で、「アミバンタマブ+ラザルチニブ併用」群の優位性が示されました。
有害事象は基本的にEGFR阻害剤特有のものが観察されたとありますが、副作用による治療中断比率は、 「オシメルチニブ単剤」3%に対して「アミバンタマブ+ラザルチニブ併用」群が10% なので、「アミバンタマブ+ラザルチニブ併用」群の方が重めな傾向はありそうです。
「アミバンタマブ+ラザルチニブ併用」療法は、本年4月に承認申請がされていますので、そうほどなく市場に登場しそうです。
肺がんの遺伝子変異の”老舗”として、もう一つALK融合遺伝子というものがあります。ALK陽性の患者は非小細胞肺がんの3-5%程度に止まります。
第一世代のALK阻害剤は、2012年のクリゾチニブ(ザーコリ)です。その後すぐ、2014年にアレクチニブ(アレセンサ)、2016年にセリチニブ(ジカディア)の第二世代が登場しました。
この内、アレクチニブは治験でクリゾチニブとのガチンコ勝負をしており、最終的に無増悪生存期間(PFS)は
「アレセンサ群」34.1カ月 vs 「クリゾチニブ群」10.2カ月
と圧倒的にアレセンサ群が上回っただけでなく、グレード3以上の治療関連有害事象の発症率がアレセンサ群26.2%に対してザーコリ群51.9%と、安全性でも良好な成績を収め、天下を取りました。
そして、今年、新たな第三世代として一次治療で承認されたのが、ロルラチニブ(ローブレナ)。
■”Lorlatinib Versus Crizotinib in Patients With Advanced ALK-Positive Non–Small Cell Lung Cancer: 5-Year Outcomes From the Phase III CROWN Study”「進行ALK陽性非小細胞肺癌患者におけるロルラチニブとクリゾチニブの比較:第III相CROWN試験の5年成績」(Journal of Clinical Oncology)
アレクチニブと同様、クリゾチニブとのガチンコ勝負の治験でしたが、5年の観察期間を過ぎたところで、無増悪生存期間(PFS)は
「ロルラチニブ群」”Not Reached” vs 「クリゾチニブ群」10.2カ月
となりました。”Not Reached”ということは、まだ半数以上の方々が”無増悪”の状態を続けているというわけで、60ヶ月以上(!!)は確定ということになります。
ここまで圧倒的な効果の分子標的薬を見たのは、私自身も初めてですね。
ただ、グレード3以上の治療関連有害事象の発症率が、「ロルラチニブ群」77%に対し、「クリゾチニブ群」57%ということで、安全性面での配慮が必要になってきそうな点には留意です。
肺がんは、一昔前は固形がんの中では予後が厳しいがんとして知られていましたが、分子標的薬と免疫チェックポイント阻害剤で次々に新薬が出て、治療成績が劇的に改善されてきています。
ちょうど本日から肺がん学会が開催されますので、また新たな情報を仕入れてきたいと思います!
※本稿執筆時点(2024年10月31日)で、筆者は本稿内で記載したEGFR阻害剤やALK阻害剤に関して、利益相反はありません。
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【記事2】頭頸部がんを中心に広がりを見せる、新しい放射線療法が面白い
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「手術」「薬物療法」「放射線治療」が、がんの3大治療と言われていますが、このメルマガでは、手術と放射線治療に関しては、あまり取り上げてきていませんでした。
手術は筆者の専門性が不足していることもありますし、放射線について言うと、前立腺がんなど一部のがんを除くと、日本ではどうしても”サブ”的な治療の位置付けになりがちなためでもあります。
ところが、先週のがん治療学会で「ホウ素中性子捕捉療法の 進歩と将来展望」セッションを聴講して、注目すべき新たな治療法が出つつあることを知りました。
「ホウ素中性子捕捉療法」は、英語で表記すると”Boron Neutron Capture Therapy (BNCT)”。(ここからは”BNCT”と書きます)
BNCTは、端的に言えば、「がん細胞にホウ素を取り込ませて、中性子でホウ素入りのがん細胞だけを狙い撃ちして破壊する治療法」です。
がん細胞が、通常の細胞よりアミノ酸を取り込む力が圧倒的に強い特性を持っていることを利用して、ホウ素とアミノ酸の化合物を投与して、がん細胞にホウ素を取り込ませるのが第一段階。
次に、中性子を照射します。中性子ががん細胞内に取り込まれているホウ素とぶつかると、がん細胞内に収まる物凄く小さな範囲で核反応が起き、がん細胞が死滅する、という仕組みです。
ここで大事なのは、中性子はホウ素を取り込んでいない正常細胞に当たってもダメージは起きない、というところです。
一般的な放射線治療は、放射線が当たると正常細胞もダメージを受けますが、それと比べたら副作用のリスクを理論的に相当抑えられることになります。
このBNCTによる治療、頭頸部がんでは、治験でその有用性が検証されており、既に保険適用されています。
>>
局所再発頭頸部扁平上皮癌又は頭頸部非扁平上皮癌の被験者21例で、BNCT施行後90日の奏効率は71.4%であり、外部対象としたEXTREME試験のCDDP+5FU治療群での最良総合効果の20%よりも高い値であった。さらに、本試験の奏効率の95%信頼区間最下限値は47.8%であり、これもEXTREME試験の最良総合効果の20%を上回った
>>
とありますので、少数例とはいえ、治験当時の標準治療であった化学療法群と比べて有意に、しかも大幅に優れた効果を示したことがわかります。
さらに、観察された副作用は「従来の放射線治療で認められたリスクを上回ることのない事象・重症度であったと考える」とありますので、こちらも想定通り問題なし。
細かく言えば、現在の薬物治療の標準療法は、分子標的薬(セツキシマブ)や免疫チェックポイント阻害薬(ペムブロリズマブ)が使われるので、それらと比べてどうなのかという点は残りますが、有力な治療オプションであることには変わりありません。
問題は、このBNCTが使える施設が非常に限定的であることです。
日本中性子補足医療学会という学会があり、ここの「医療機関と窓口」というページを見ると、まだわずか3施設しか掲載されていないので、全国的に普及するまではまだまだ時間がかかりそうです。
とはいえ、他のがん種横断での適応取得を目指した治験も実施されるようで、これから進展が期待できるところ。
患者さんにとっては福音となり得る治療なので、今後の動向をしっかり注目していきたいと思います。
※本稿執筆時点(2024年10月31日)で、筆者は中性子照射機器およびホウ素薬剤に関して、利益相反はありません。
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