Vol.176 世界初のCLDN18.2陽性胃がん治療薬、日本から登場
*2024年6月28日発行のメルマガから転載
蒸し暑さが増し、エアコンなしだと寝苦しい気候になってきましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
最初に、前号のホルモン陽性・HER2陰性の進行/再発乳がん患者さんのインタビュー募集に、想定以上に多くの方々からご応募いただきましたこと、この場を借りて御礼申し上げます。
今月は神戸で開催された緩和医療学会に、10年ぶりくらいに参加してきました。
毎年乳がん学会の開催日程と重なって参加できずにいたのですが、今年は日程がうまくズレたお陰で、久しぶりに懐かしいお顔を何人も拝見。
患者会主催のセッション(PAL)では、なんとこのメルマガをきっかけに患者会活動に参加されるようになったという方からお声がけいただくという、非常に作者冥利に尽きる瞬間も経験できました!
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【記事1】 抗精神病薬が吐き気を止める:オランザピンの日本発のP3試験続編
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オランザピン(ジプレキサ)という、統合失調症の治療に昔から使われている抗精神病薬があります。
このオランザピンに吐き気止めの効果があるということで、適応が追加されたのが2017年。
しかしながら、当時の用量のオランザピン10mgだと、眠気の副作用がきつくあまり普及が進まなかったということで、容量を半分の5mgにして、シスプラチンの投与時に吐き気止めの効果を確認したのが、J-FORCE試験という日本発の治験です。
今回、その続編的な形で、シスプラチンと並んで代表的な抗がん剤「カルボプラチン」投与時に、オランザピン5mgの吐き気止めの効果と安全性を検証する研究結果が出てきました
■”Olanzapine Plus Triple Antiemetic Therapy for the Prevention of Carboplatin-Induced Nausea and Vomiting: A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Phase III Trial”「カルボプラチン誘発の悪心・嘔吐予防のためのオランザピン+制吐薬3剤併用療法:無作為二重盲検プラセボ対照第III相試験」(Journal of Clinical Oncology)
カルボプラチン投与時に、吐き気止め(制吐薬)3種類にオランザピンを加えた場合<オランザピン群>175名と、加えなかった場合<プラセボ群>180名とを比較した結果、…
・嘔吐がなく緊急投与の吐き気止めも不要だった比率
オランザピン群:86.9% vs. プラセボ群:80.6%(ただし、有意差はなし)
・化学療法が原因の吐き気がなかった比率
オランザピン群:88.6% vs. プラセボ群:75.0%(有意差あり)
後者の方は、逆の見方をすれば、吐き気が出たのはプラセボ群25%に対してオランザピン群は11.4%ですから、オランザピンを加えると吐き気が出る確率はほぼ半減という話になります。
グレード3以上の有害事象はなかったとのことで、良好な結果が出たと言えるでしょう。
こうした、一見地味に見えるけれど患者さんのQOL改善にとっては重要な示唆のある試験が、日本から発信されるということは極めて意義深いです。
以前のメルマガでも書きましたが、オランザピンのような特許の切れた古い薬だと、製薬会社側も投資しませんので。
本研究は日本臨床薬理研究財団の助成金で一部費用が賄われたようですが、こういう研究にこそ、今後、国がもっと積極的に助成していって欲しいですね。
※本稿執筆時点(2024年6月30日)で、筆者はオランザピンに関して、利益相反はありません。
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【記事2】世界初のCLDN18.2陽性胃がん治療薬、日本から登場
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題名見て、「CLDN18.2」って一体何?と思われた方、多いのではないでしょうか。
読み方は、「クローディン18.2」。
これ、また新たに出てきたがん治療の「標的」となる分子の名前です。
胃がんで細胞が癌化すると、細胞膜の表面に「CLDN18.2」という分子が出てくるようになり、胃がんの約4割近くは、この「CLDN18.2」がニョキニョキ出ている状態(陽性)です。
がん細胞と異なり、正常細胞では膜の外に露出されていないので、「CLDN18.2」をターゲットにすることで特異的にがん細胞を攻撃することが可能、という仕組みです。
世界初の抗CLDN18.2抗体薬が日本で発売というニュースがこちら。
■「アステラス製薬 CLDN18.2陽性胃がん治療薬・ビロイ 6月12日に発売、世界初」(ミクスOnline)
世界初の抗CLDN18.2抗体薬ゾルベツキシマブ(ビロイ)は、「SPOTLIGHT試験」および「GLOW試験」というフェーズ3試験で、有効性と安全性が確認されてます。
試験の概要は、本年5月に発出された
にも出ています。
HER2陰性の進行/再発胃がんの一次治療で、mFOLFOX6やCAPEOXという化学療法レジメンに、ゾルベツキシマブを上乗せすると、PFS(無増悪生存期間)もOS(全生存期間)も有意に延長しました。
上記コメント内で
「CLDN18.2陽性かつHER2陰性の治癒切除不能な進行・再発胃癌/胃食道接合部癌に対する一次治療として、ゾルベツキシマブ+化学療法*を推奨する。* mFOLFOX6もしくはCAPOX」
と記載されたことから、ゾルベツキシマブの登場により、再発・進行の胃がんの一次治療では、HER2に加え、CLDN18.2が陽性か否かを見極める必要が出てきました。
近年、海外の最新の治療薬が日本になかなか入ってこないという、ドラッグラグやドラッグロスが心配されている中、こうした革新的な薬剤が、日本発で登場したというのは、素晴らしいニュースですね。
ちなみに、ゾルベツキシマブの典型的な副作用が、吐き気・嘔吐です。そして、併用されるレジメン内のオキサリプラチンも吐き気・嘔吐があります。
こちらに前記事のオランザピン5mgの上乗せをして吐き気・嘔吐の予防効果が上がるのか、アステラスさん頑張って臨床試験やりませんかねえ…
※本稿執筆時点(2024年6月30日)で、筆者はゾルベツキシマブに関して、利益相反はありません。
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