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GG賞受賞の浅野忠信さんのスピーチが「究極のナチュラル・メイク」(=してないように見えるぐらい高技術)みたい「しみこませる英語力 vol.052)

 英語メルマガをご購読のみなさんこんにちは。
 年初に新しい自己紹介記事を書いたのでこちらを御覧ください。英語以外の記事も読んでいただけて、お役に立てたらとても嬉しく思います。

 今日は、先日ゴールデン・グローブ賞の助演男優賞を受賞した際の浅野忠信さんのスピーチの英語の「しみこみ具合」にめちゃめちゃ感銘を受けたので、どこがすごいと思ったかを解説したいと思います。
 そのあとのニュースをご覧になった方もいるかもしれませんが、このスピーチが日本国内でも海外でも高い評価を受けたようです。が、日本の記事を読むと「カタカナ英語」とか「特別な技巧が凝らされているわけではない」「発音や文法よりも心」などといった文言が見られ、わたしの印象とずいぶん違いました。
 わたしの印象は、「浅野さんの英語、技術的なツボを抑えすぎてる!」というものでした。タイトルどおり、「ものすごい高い技術で作り込んでるからこそ自然に見える『ナチュラル・メイク』みたいです。しかも、それが、このメルマガの主張通り、もはや当たり前のことのように染み込んでいます。だから、技巧を技巧とも感じさせず、自然にすらなっていたのに見えます。これも古いたとえだけど、「イチローの捕球」とも言うべきか。以下、わたしが「すごい」と思った点を列挙します。

(追記)浅野さんのスピーチはこちらです。ハリウッド・リポーター日本版のアカウントですので、字幕もついてます。

The Hollywood Reporter Japan on Instagram: "浅野忠信「SHOGUN 将軍」ゴールデン・グローブ賞 助演男優賞(ドラマシリーズ部門)受賞の瞬間とスピーチ🏆 GET POWER!!!❤️‍🔥🔥 #将軍 #SHOGUN #TadanobuAsano #浅野忠信 #GoldenGlobes #ゴールデングローブ賞 ━━━━━━⁠ 最新の映画・海外ドラマ・エンタメ情報をチェックするなら今すぐフォロー✨ @hollywoodreporter.jp⁠ アメリカのNo.1エンターテイメント雑誌『ハリウッド・リポーター(@hollywoodreporter )』の日本公式アカウント🎥⁠ #HollywoodReporter #HollywoodReporterJapan #ハリウッドリポータージャパン #ハリウッドニュース" 4,601 likes, 42 comments - hollywoodreporter.jp on January 6, www.instagram.com

1、「ワーオ」がすごい。
 ワーオって、こんなに自然に言えますかね。というのは、「ワー」と「オ」のリズム配分が素晴らしい(日本語にはないリズム)んだけど、このリズム配分をするために、「ワー」のWの音をしっかり発音しないとリズムが作れないんですね。
「W」の音って、日本語にあるようでないんです。(「わいうえお」の「わ」にしかないですよね)。それも日本語の「わ」と違って、唇の筋肉をしっかり使って「つぼめて」「広げる」ということをしないと出せません。たくさん話しをされて、「w」の口の筋肉がしっかり鍛えられてないと、とっさのときに出ないなあ、と思います。

2 「メイビ」がすごい。
 「『メイビ』って『たぶん』じゃないから、多用してはいけませんよ」って、英語コーチのブログなんかで、読んだことがある人も多いのでは。でも、この状況ではドンピシャですよね。「もしかしたら、あなたはわたしのことを知らないかもね」という表現にぴったり。

3 冠詞がすごい。
 日本人にとって冠詞は難しいですよね。日本語にない品詞だから、飛ばしてしまうこともしょっちゅうです。でも、浅野さん
アイムアン アクター」
と言ってますね。
「アン」と「アクター」のあいだで一呼吸おいてるからリエゾンしてないけど、「アクター」の前で当然のように「アン」になってるのも英語が染み込んでるなあって思います。

4 「アッサーノ」がすごい
「アサノ」じゃなくて「アッサーノ」。この英語を英語たらしめる強弱のリズムが染み込んでるから、英語ネイティブの心をうつぐらいのスピーチになったのではないか、と思っています。最後の方の「ヴェーリーハッピー」のリズムとアクセントも同様。「本当に嬉しいんだ」ってことが伝わります。

5 「マイ・ネーム・イズ~」がすごい。
最近の英語教育ではどう習うかわからないのですが、昔の学校教育では、最初に習う表現の一つが、「マイ・ネーム・イズ~」でした。ところが、学校を出て「自然な英会話」とやらを意識し始めると、「マイ・ネイム・イズ~は硬すぎる。アイム~が自然」なんて習ったりします。
でもこの場面では「わたしの名前は〇〇と申します(知らない人のために自己紹介するとね)」って、謙虚さとちょっとだけ自己主張、みたいな感じが出ててまさに「この場面で使われるべき表現」って感じがするんですよね。

6「ディス・イズァ~」がすごい。
「ディス・イズァ 」も「This is a pen.」で代表されるように英語教育で早くから習う構文です。でもこれ、いつ使うの?っていうのが疑問じゃないかと思うんです。「This is a pen.」の訳文として「これはペンです」という文を見ることが多いと思うんですが、「これこそがペンです」「これがペンというものです」というシチュエーションで使うと憶えておくとしっくりくるシーンもしばしばあります。このシーンもそうですね。「This isa」を言うことによって、その前のスピーチからつなげて「明日からも俳優としての地味な日常が始まるけれど、そんな自分に評価が与えられたこのトロフィーこそ、すごい大きなプレゼントです」という文脈が見えてくる。だから感動するのだと思います。

 このように、文法にしろ表現にしろ、英語という言語の特性をしっかりわかって、「こういうべきときにこう使う」というのが、一箇所だけでなく、スピーチ全体にわたって繰り返されています
 もしかして、こういう英語力がなくても、スピーチの真意は世界中に伝わったかもしれません。でも、たとえばスポーツ選手などとは違って、俳優は、セリフを使って心を届ける仕事です。そして、母国語であっても、それを表現するために、何回も反復して染み込ませる仕事だから、語学学習にもそのスキルを忠実に踏襲しているのかな、と思いました。

 反対に言うと、こういうふうに、「使うべきときにぴったんこな」発音、文法、表現ができることを、目指して語学というのは勉強すべきだな、と、あらためて、一学習者の一人として思いました。


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