敗血症にエンドトキシン吸着をおこなう時代は本当に終わりですか?
下部消化管穿孔による汎発性腹膜炎の手術が終わり、深夜に病棟に戻ると収縮期血圧80mmHgと低値でした。腎臓内科医のあなたは、外科医から「PMXを回してほしい」というコンサルトを受けました。しかしPMXは以前に比べて活躍の機会が減っているというのが最近の潮流です。もう時代遅れの治療なのでしょうか?この記事では、PMXの歴史と活用法について集中治療医が解説します。一緒に勉強していきましょう。
エンドトキシン吸着は一世を風靡した血液浄化療法
PMX-DHP(Polymyxin B-immobilized fiber column direct hemoperfusion)は、通称PMXと呼ばれる、血中のエンドトキシンを吸着させる血液浄化療法のことです。エンドトキシンとは、グラム陰性桿菌が有する外毒素です。ヒトの体内で炎症性メディエータを産生、血管内皮障害や血管透過性亢進を引き起こし、結果的に低血圧を招きます。エンドトキシンショックという言葉は有名です。
PMX-DHPでは、東レ株式会社から発売されているトレミキシン®というカラムに血液を灌流します。ポリミキシンBを付加した繊維にエンドトキシンが吸着され、エンドトキシンを血中から除去できるという原理です。
腹腔内感染症や尿路感染症といったグラム陰性桿菌が原因の敗血症性ショックに対して、頻用されてきました。しかし最近は「エビデンスがない」として使用頻度が下がっているというのが現状です。
エンドトキシン吸着は死亡率を改善しなかった
エンドトキシン吸着の歴史を語る上で、外すことのできない臨床試験を3つ紹介します。論文から推察するに、敗血症性ショックに対するエンドトキシン吸着は死亡率の改善を見込めないものの、血圧を上昇させる可能性はありそうです。
EUPHAS試験
1つ目は、2009年のEUPHAS試験[1]です。前向きの多施設無作為化比較試験(RCT)で、腹腔内感染症由来の重症敗血症にPMX-DHPを施行しています。主要評価項目である平均血圧の有意な上昇が認められました。
ABDOMIX試験
2つ目は、2015年のABDOMIX試験[2]です。前向きの多施設RCTで、対象は腹膜炎術後の敗血症によるショック患者にPMX-DHPを施行しています。主要評価項目である28日死亡率に有意差はないという結果でした。しかし本試験は、回路凝固によりPMX-DHPを完遂できない症例が多い、対象患者のエンドトキシンを測定していないなどというケチがつき、次の試験につながります。
EUPHRATES試験
最後は、2018年のEUPHRATES試験[3]です。前向きの多施設RCTで、盲検化もなされています。対象患者は高エンドトキシン血症を伴う敗血症性ショックで、ABDOMIX試験の弱点が改善されました。主要評価項目である28日死亡率に有位差はありませんでしたが、副次評価項目で平均血圧の有意な上昇を認めています。
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