先人が伝えてくれたカケラ
「ゆるされ愛され からだを丸め 眠る安らぎ アブサントリップ」
日本のハードコアパンクバンドで1番古くから現存するバンドGAUZE。
そのGAUZEの歌詞の中で1番好きなものはこれだ。
もうレコードもどこかへ行ってしまったし、ほかの曲ももちろんおぼえている。が、個人的にGAUZEと言えばこの歌詞なんだ。
勝手に心に焼き付いているものはどうしようもない。それが全てだ。
俺が初めてGAUZEを観たのは、昔渋谷センター街にあった屋根裏だった。
いつだったかなんておぼえていない。まぁガキだったことは確かだ。
俺がハードコアパンクにのめり込み始め、ライブに行き始めた16〜17歳頃には恐ろしい人しかいなかった。
好きなバンドが出てきて、好きな曲をやったときに前に行って「ノる」ということは、当時の俺の中ではこの世で1番勇気を振り絞らなくては行けないことだった。
いつもその場所では誰かがとんでもないことになっていて、それまでの日常とは全くかけ離れた世界だった。
なんで俺はあんなところに通い詰めたのだろう。
渋谷屋根裏というところは、渋谷センター街を入って、最初の十字路右側にハンバーガーショップ「アービーズ」があり、その向い側にあったキャバレー「ロンドン」の上3階にあったライブハウスで、1980年代当時ハードコアパンクのライブは屋根裏を中心に行なわれたいた。
ハードコアのライブがある日は、駅周辺もしくはセンター街入口辺りからノルマチケットをさばくパンクスが、パンクスを見つけては声をかけチケットを売り、屋根裏の前の道路はパンクスで埋め尽くされ、キャバレーロンドンの店員が水を蒔きパンクスを追い散らすが一向に効果は無く、向いにあるハンバーガーショップ「アービーズ」の二階はパンクスで埋め尽くされ、屋根裏がある三階に続く階段には酔ったんだかラリったんだかわからないパンクスが倒れていて、階段の踊り場には常連とおぼしき集団が騒ぎ、やっとのことで入口にたどり着き中に入れば狭い空間の目に前で狂ったように激しい音楽が演奏され、客席ではいつも誰かがボコられているにもかかわらず、踊り狂う観客と演奏を続けるバンド。
「いつ自分が、あのやられているパンクスになるんだろうか」と怯えはするものの、それまでの社会で経験したことの無い空間に、心の芯から吸い込まれて行った。
そうやって通っていたある日のライブの日にTHE TRASHのヒロシさんから「お前よくきてるよな」と声をかけられた。その場で「おーい、マサミ!コイツよくきてるよな」とマサミさん(ex.THE TRASH,GHOUL,BAD LOTS etc.)にも紹介してくれ、それからそれまでステージにいた人たちと仲良くさせてもらうようになっていった。
ちょうど同じ頃にGAUZEのSHINさんも、俺がよくライブにきているので声をかけてくれ消毒GIGなどは警備という名目で入れてくれるようになった。
そうやって、いろんな人と親しくさせてもらっていたある日、THE TRASHのライブのあと「飲みに行こうぜ!」と打ち上げに誘ってもらった。
THE TRASH、マサミさん、LIPCREAMのメンバーとその他たくさんの人間と初めて打ち上げというものに参加した。
この打ち上げというものがかなり楽しく、今までライブで観ていた人たちが、俺みたいなガキにも胸襟をひらき心の中身を喋ってくれ、人間性に裏付けされた音楽「ハードコアパンク」にどんどんのめり込んで行った。
今でも地方のライブに行くと、ライブの終わったあとに居酒屋で飲みに行ったりするが、そういった打ち上げというものは、海外パンクスの間でも日本独自のライブ文化「UCHIAGE」として浸透している。
先日来日したカナダのCAREER SUICIDEは「打ち上げをやりたい」と、来日前からリクエストされるほどだった。
今ではライブハウスでそのまま「中ウチ」と呼ばれ、ライブが終わった後にライブハウスにそのまま残り打ち上げをするのが主流になっているが、それも時代の流れというものなのだろうし、合理的に考えればそれが一番良いとも思う。
昔と違い、翌日仕事がある人間が多かったり、飲み過ぎて飲みになど到底行ける状態ではないなどの理由も大きいだろうが。
何年か前のある日、COLORED RICEMENのライブを観に行った帰りのこと。
ライブが終わり中ウチにも参加せずメンバーと一緒に駅まで向かう中、ミノル君(EIEFITS。ex COLORED RICEMEN、LIPCREAM etc.)が「ちょっと飲んでいかねぇ?」と言い、みんなで軽く飲んで行こうということになった。
「軽く」とは名ばかりで、結局俺は朝までどこかで飲んでいたのだが、そのときにミノル君が言っていたのが今でも印象に残っている。
「打ち上げってこういうもんだろ。用意されてる居酒屋とかライブハウスで飲むのもいいけど、こうやって自然に飲みに行こう!って行くものだと思う。こういうのがなんかいいじゃん。」
ライブに行けば飲んだくれて泥酔してばかりいるパンクスというのは、俺を初め大勢いる。
社会というものに不満を持ち、どうしようもない怒りを抱えているのがパンクスだと思う。
ゆるされて、愛されて眠りたいんだよ。アブサンじゃ宿酔がハンパじゃないけどね(笑)。
写真 恐らく新宿区役所通りにあった居酒屋カチカチ山の打ち上げにて、GAUZEフグさんと俺。
30年以上に渡るバンド活動とモヒカンの髪型も今年で35年目。音楽での表現以外に、日本や海外、様々な場所での演奏経験や、10代から社会をドロップアウトした視点の文章を雑誌やWEBで執筆中。興味があれば是非サポートを!