変化
友人がやっていたBASTARDというHARD CORE PUNKバンドに「NEVER CHANGE」という名曲がある。変わってしまうことを皮肉り、変わらないことの素晴らしさを歌っている大好きな曲だ。
地元にいた高校生のころに、何だかよくわからないが色んなことが気に入らなかった。まわりの人間とも全くソリが合わず、本当の友人と呼べる人間は2人ぐらいしかいなかった。
そんなときに音楽、PUNKやROCKと出会い俺の人生は劇的に変わった。
高校に通い出してから、PUNKにガッツリとやられていて髪の毛を立たせたりはしていたが、かなり中途半端ではあった。
そんな16歳のときに、数少ない本当の友人のひとりが、高校を辞め美容師の見習いをし始めた。
「お前もPUNKならやっぱりモヒカンじゃねぇ?」
自分が美容師見習いになったのをいいことに、そいつはまだ中学を卒業して間もない16歳の俺をモヒカンにし、そのあとすぐに美容師は辞めた。
俺をモヒカンにするためだけに美容師見習いになったのかと思うほどだが、そんなわけはない。ただの暇つぶしだろう。俺はそれ以来、今日現在まで1日も欠かさず30年以上モヒカンで居続けているのだが…。
バカは単純で簡単だ。たったそれだけのことで、いままでモヤモヤしていたものが吹っ切れた。
それまで通っていた高校でのダラダラと付き合っていた、うわべだけの友人と決定的に別れ、ライブハウスに本格的に通い出し、高校を辞めた。
髪型はどんどんエスカレートして行き、次はブリーチ、その次は赤く染め、眉毛は剃り、ボロボロのジーンズに鋲を打ちまくった革ジャンと安全靴で、ほぼ毎日モヒカンを立てて出歩いていた。
1983年頃にそんなナリで街を歩けば、地元だろうが渋谷だろうが新宿だろうが原宿だろうが、周りの人間はみんな振り返る。電車で隣に人は座らないどころか、立っていてもまわりに人が近寄らない。
色んな所でそれなりのリスクはたくさんあったが、見た目が変わっただけで世界というものがこんなにも変わるということを知ったのは16歳のその頃だった。
当時そんなナリでは仕事も雇ってもらえず、世間というものは人を見た目で判断するということがわかり、ますますライブハウスに通い出した。そこでも見た目で判断はされるのだが、それは世間のものとは全く違い、歓迎されるものだった。
好きなバンドや音楽の生演奏がされているライブハウスという場所で、世間とは真逆の反応で歓迎される人間達とは当然のように仲間になる。
地元で借りていたアパートも追い出され、東京でそんな仲間たちといろんなところを転々としながら、毎日一緒にいる仲間達と何かやりたくなるのは必然だった。
バンドをやり始めた頃には歌詞も音もメチャメチャで、そんなことより暴れられることが重要だった。
東京に出てきて、本当の仲間と呼べる人間と付き合ったり、バンドをやり始めたりし出してから音楽的な部分は少しずつ成長して行ったが、歌詞・心の部分はまだまだクソガキのままで何も考えておらず、ただ楽しけりゃそれでよかった。
そんな、考えも何もない状態で始めたバンドだが、意識の高い友人や先輩に恵まれ、6〜7年続いた宿無し生活にも限界が訪れ、一人暮らしのアパートを借りたときに、自分と向き合いじっくり考える時間というものを何年かぶりに手に入れた。
こんな俺でも本気でやれるものの素晴らしさを痛切に感じ、俺の生命の使い道を見つけた。
ひとりの時間ができたので、その頃からやっと真面目に歌詞を書くようになった。何回かレコーディングも経験し、ただ楽曲を録音するだけではなく、何かを伝えるために音楽というものを、言葉というものを真剣に考えだした。
そのころに湾岸戦争があり、戦争に関する歌詞もこの頃に初めて書いた。
単純で簡単なバカの中に、色々なことが芽生え始めた。
そして今現在は、政治的なことを歌詞にするようになった。単純バカのクソガキが「ただ楽しけりゃそれでいい」と思って始めたことが、今現在こういう結果になっている。
暴力や犯罪を犯して生きてきた人間が、今さら戦争反対だとか平和だとか言っても「何言ってんだ?」と思う人間もいるだろう。
子どもが生まれ、自分より大切なものができたんだよ。
この国の進もうとしている状況を知り、耐えられなくなったんだよ。
俺は変わったのか?変わっていないのか?
変わるってどういうこと?変わらないってどういうこと?
変わることは良いこと?悪いこと?
変わることを望む?変わらないことを望む?
あなたは変わった?それとも変わっていない?
先日インドネシアのMARJINAL/MAJIKのボーカルのMIKEにこんなことを言われた
「ISHIYA、お前は本当に心の広い素晴らしい人間だ」
「あなたの傷は私達の傷」と歌うMIKEにそんなことを言われるなんてとても嬉しかったが、俺はここに書いたようにたいした人間ではない。俺はこう答えた。
「MIKE。それはMIKEが本当に心の広い素晴らしい人間だから俺のことをそう感じるんだよ。MIKEが感じて見ているものはMIKE自身なんだから」
この世界にあることを見て、聞いて、感じて、判断しているのは自分自身だ。
変えたいことを変えるために、自分ができることをやるだけだ。
今この瞬間も過去になって行く。後ろを向いてしまっても、前に進むことを諦めるな。
写真 MARJINALのMIKEとBOB、SYSTEMATIC DEATHのコバと、本当は下に札幌の戸沢が写っているがアップの関係上切れてしまう。ごめん戸沢。
30年以上に渡るバンド活動とモヒカンの髪型も今年で35年目。音楽での表現以外に、日本や海外、様々な場所での演奏経験や、10代から社会をドロップアウトした視点の文章を雑誌やWEBで執筆中。興味があれば是非サポートを!